偽悪者は再会する
模擬戦のつもりで学園に来たら模擬戦大会に参加することになっていた。意味がわからない。
訓練所の中央、地面に書かれた白いラインの内側でギルドで絡んできた少年、カールと向き合う。
訓練所は球場のような建物で、客席には観客がひしめいている。何処かにリーリスとリアンもいるはずだ。
憎らしくも快晴。適度な日光が降りそそぎ少し暖かい。
「一つ提案がある」
カールは戦う前から勝ち誇った様子で、自分の提案が断られるわけがないと確信している様子だった。
「レイ君、降伏しなさい」
君という言葉に見下した意味が込められていると感じるのは俺の被害妄想だろうか。
「そうしたら、二人に情けない姿を見せずにすむよ」
「断る」
まだ何か言おうとしたカールを遮る形で断言する。カールは意外そうに笑った。
「衆人環視の中で叩きのめされたいんだ?」
もはや面倒臭くて仕方ない。こういった種類の人間を俺はよく知っている。話しても無駄なのだ。こちらがどれだけ話そうと努力したところで、話しを聞こうともせず、一方的に暴力をふるう。
こいつは、俺の両親によく似ていた。
「言動には注意するように。退場にしますよ」
審判に警告されたカールは、きっと俺を睨みつけ模擬剣をかまえる。
「両者構えて、始め!」
合図と共にカールは俺の胸元に滑りこんでくる。その動きに無駄はなく、だが、リーリスと比べてあまりにも遅い。
半身をずらして突きをさけて、やや強引にカールの背中側へ。当たらないだろうと思うが牽制のつもりで模擬剣をふる。
やはりカールは前進し続けることで模擬剣を避けた。長引けば、ステータスで劣るであろう俺が不利になる。
天魔降臨を発動、させようとした瞬間、嫌な予感を足元に感じて大きく飛びのき更に後ろに下がる。
「はは、今からでも降参しますか?」
俺が必要以上に下がったことで何か勘違いしたのだろう。カールが俺を嘲笑いつつ距離をつめてくる。
「まて、動くな。何かおかしい」
「ふん、臆病者め」
状況的に仕方ないとはいえカールは聞く耳を持たない。模擬剣を構えなおすとためらいなく突撃してくる。タイミングが最悪だった。カールの足元から嫌な予感が破裂するような感覚を覚えると、地面から突如として黒い霧が砂や石を巻き込んで吹き上がる。
黒い旋風に巻き込まれたカールは悲鳴を上げて倒れこむ。徐々に陥没していく地面に呑み込まれ、身動きがとれなくなっていた。
カールの肌が黒く染まっていく。あの黒い霧には見覚えがある。もしも、あれが俺の予想通りのものならばカールはこのままだと死ぬ。
苦虫を噛み砕くような気持ちで黒い霧へと飛び込む。黒い霧がまとわりついてきたが肌は黒くならない。かわりに頭の中で金切り声が木霊する。重くのしかかり、ちくちくと突き刺してくる声の内容は聞き取れないものの、暗く悲しく悲痛だ。
やはり、これは呪いだ。しかもアイビーの時よりはるかに強力な。黒く塗り潰される視界の中、手探りでカールの身体を引っ付かみ、引きずりつつ黒い旋風から離脱する。
「来るな! 離れろ!」
駆け寄ってきていた審判と警備員に叫ぶ。まだ、嫌な予感はおさまっていない。
大地が振動していた。いやいやふりかえると黒い棒が地面から伸びてきている。その棒には何かがくっついていた。よく見ればあれは葉っぱか? 黒い葉を繁らせた枝の下から、更に人型の根っ子が這い出してきている。人型、ではあるのだが頭上に広がる枝葉も相まって高さが五メートルはある。太く逞しい根っ子を自在に動かし、腕のような根っ子で身体を支えつつ、地面から身体を引き抜いていた。
こいつは図鑑で見たことがある、マンドラゴラだ。本来のマンドラゴラは巨大でもないし、黒くもない。おそらく呪いの影響を受けているな。
マンドラゴラの横手から火球が飛んできて激突した。はぜる火の粉と土煙、だがマンドラゴラは平然としていた。本来、マンドラゴラは火に弱い魔物だ。魔法を放った審判が険しい顔をしている。
顔もないのにマンドラゴラと目があったと感じた。マンドラゴラは枝をざわつかせながら太い足で重々しく、確実に俺に向かってくる。なんで審判でなく俺に向かって来るのか。まさか、俺が受けた呪いの影響か? ともかく位置が悪い。真横に移動するとやはりマンドラゴラは俺を追ってくる。さて、どうしたものか。
「ご主人様!」
呼ばれた先を見るとリーリスとリアンが大きく手をふっている。二人だけではない。見覚えのある人物達がいた。
「旦那様! こっちに走って!」
見覚えのある人物達がざわついている。そりゃ、知り合いが旦那様だのご主人様だの呼ばれていたら驚くだろう。
マンドラゴラは足が早くない。余裕をもってリーリス達と合流する。
「お疲れ様、あとは任せましょ」
リアンの視線の先に落ち着いた声で詠唱する一人の少女がいた。久しぶりに会うというのに何の感情も浮かばない。
「光よ、祓え」
詠唱していた少女を中心にして光が広がっていく。黒い霧を消失させながら光はマンドラゴラに到達し、一瞬だけ拮抗したものの、あっという間にマンドラゴラを包み込んだ。
黒と光が溶け込んで消失する。後に残されたのは巨大なマンドラゴラの遺骸のみ。
俺にはとても出来ない芸当に納得する。これが本物の勇者の力か。
「あの」
少女はしどろもどろしている。お互い顔は知っていても、例の万引き事件以降は話しもしていなかったのだから無理もない。俺もどう接するべきか迷い。
「久しぶりだな、来栖」
結局、昔と同じ呼び方をした。来栖風香は目を大きく見開いてから顔を綻ばせた。
「うん、久しぶり、白鷺くん」




