お洒落は嗜み
二人のドレスは自分が選ぶと約束したレイは早々につまずいた。
レイのセンスやお金の問題ではなく、物理的に解決しようのない問題。
貸衣装にリーリスとリアンが着られるサイズの衣装がなかったのだ。リーリスはいわずもながで、リアンは身長が高すぎて合うサイズが極端に少ない。今さら衣装がないから夜会に参加しないなどと言えるわけもなくレイはドレスを購入することにした。
顔見知りになったギルドの受付嬢や一般学生に声をかけ、店探しのついでにドレスコードも確認しておく。
最初はうろんげだった彼女達も、リーリスとリアンにドレスをプレゼントしたいことを伝えられると途端に態度を変えた。
なにしろレイは女性の奴隷をつれ歩いているのだ。仲良さげであっても嫌悪感をもたれていた。
ところがレイは二人にプレゼントがしたいからと一生懸命行動している。よく見れば幼さが残る顔つきをしているレイのその姿は応援したくなる可愛さがあった。
あたるを幸い、聞き込みを続けたレイは何件か服飾店をピックアップし、サービスの内容を吟味して一件にしぼりこんだ。
ティマイオス学園から程近い大通り。そこそこ大きな店舗を構える服飾店の二階にて、リーリスとリアンは用意されたドレスに袖を通していた。
店員が手伝ってくれるような高級店ではないので、それぞれカーテンで仕切られた更衣室で着替えている。
レイが調べたところ、夜会のドレスコードは特にない。制服でもいいし、派手なドレスでもいい。ただし、公序良俗に反しないかぎりだ。
レイも知らなかったのだが世の中には、ほとんど裸なドレスも実在していて、さすがにそういった服は参加拒否される。
リアンが着替えおわって更衣室から出ると、既にリーリスが待っていた。
リーリスの姿にリアンは思わず息をのむ。
シンプルなワンピースドレス。後ろに向かって長くなるフィッシュテールスカートで腰に大きなリボンをまいている。
豊かな胸元とほっそりとしたウエストに、なだらかなカーブを描く背中が女性特有の丸みを主張していた。
クールな顔付きとは真逆の可愛らしいドレスは、リーリスの気高い猫のような魅力を存分に引き出している。
「お似合いですよ」
リーリスに言われてリアンは軽くポーズをとってみせる。
「まあね、悪くないでしょ? リーリスと比べられたくはないけど」
リアンは本気で言っていたが、まわりで見守っていた店員達は謙遜だと受け取った。
リアンのほっそりとしていながら、適度に筋肉がついた肢体にホルターネックドレスはよく似合っていた。
綺麗な肩を見せつけ、伸びやかな腕は輝かんばかり。健康的でありながら、大胆に晒された背中からは色香が立ち上っている。
当初、リアンが着たがっていたドレスとはかけ離れたデザインながらも、ウエストに巻かれたベルトにレイの気づかいが伺える。
「私はこれでいいと思うけど。どうする? 旦那様に聞く?」
店の二階は女性専用で男性は入れない。レイは一階で待って貰っていた。
「せっかくですから御披露目は当日にしましょう」
リーリスは珍しく浮き足だった様子だ。
「そうね。どうせなら髪もちゃんとしたいし」
当日は髪を整え、化粧もする。全てこのお店でやって貰う予定だ。二人とも口にはしないが、完璧な自分を見て欲しいという気持ちがあった。
「問題は旦那様ね」
リアンは顎に人差し指を当てる。それとなく探りを入れたところ、レイは自身の衣装を手持ちからどうにかする予定であるらしい。自分のことには無頓着なのはレイらしいとはいえ、着飾ったリーリスとリアンをエスコートするなら最低限の身だしなみを整えるのも礼儀ではある。
「私達で用意しましょう」
リーリスの提案にリアンは二つ返事で乗っかる。予算については問題ない。ギルドでの仕事の報酬を折半するようになったので、自由に使えるお金がそれなりにある。
「実はちょっとこれいいなって思ってたんだけど」
リアンは壁際のテーブルに置いてあったカタログを持ってきて広げて見せた。
「これですか? うーん、ご主人様が着れば格好いい、かな?」
悩ましげなリーリスをよそに、リアンは自信満々とばかり得意げな顔をする。
「格好いいに決まってるじゃない。男の子はみんなこういうのが大好きなんだから」
その時、偶然後ろを通った店員がリアンの指差す先を見て、口元をひきつらせた。
「じゃあ、リアンに任せます」
我が意を得たりと、リアンは早速、店員を捕まえて細かい所をつめていく。店員は本当にいいのか? とは思いつつも、お客の趣味にけちをつけるわけにもいかず注文を受け付けた。




