あなたを好きになった理由5
視点の書き方で実験し過ぎました。
分かりにくいかもしれません。
闇のとばりに閉ざされた森に響くリーリスの荒い息。
絡み付く草を引き剥がしながら走るリーリスは疲れはて、何かに躓き、前のめりに倒れた。もはや立ち上がることも出来ず、静かに嗚咽をもらす。
『お父さん、お母さん』
涙を流しながら呼んでも、当然返事はない。
『誰か、誰かいないの? お願い、私を一人にしないで』
闇の先へと手を伸ばす。情けなく、叫ぶ声は夜の闇に溶けて消えるかに思われたが、ふいに闇が揺れる。
リーリスの伸ばされた手を闇から這い出てきた手が掴んでいた。
闇に溶けこむように佇む人物がぐっと手を引っ張ってリーリスを抱き寄せる。
『言ったはずだぞ。お前を手放すつもりはないと』
『ご主人様……』
レイにぎゅっと抱きしめられたリーリスはゆっくりと目蓋を閉じていく。また映像が真っ暗になったが、今度は少しずつ明るくなっていく。
かすかに聞こえてくる鳥の鳴き声。閉じられていた目蓋が開かれると誰かの胸元に顔を埋めていた。
リーリスが身動ぎして半身をおこす。そして自身を抱き寄せていた人物、レイの顔をじっと見つめた。
無防備な寝顔は年相応に幼い。普段の殺伐とした表情から比べれば可愛いとすら言える。
リーリスは眠っている間にレイが繋いでくれた手を握ったりゆるめたりした。
何度も繰り返すうちにレイが身動ぎして目を開く。レイはぼんやりとした眼でリーリスを見上げる。
『おはよう、リーリス』
『はい。お早うございます、ご主人様』
リーリスの声はこれ以上ないほどに幸せそうだった。
これで終わりとばかりに映像が消えて白い壁に戻る。
しんっと静まりかえる部屋に見せつけてやったぜと胸をはるリーリスの姿は滑稽ですらあった。
女勇者達は思ったよりもハードな展開についていけずに呆然としていたし、フィリーネは暗い表情でうつむいている。
なんともいえない雰囲気のなか浅野はリーリスと向き合った。
「ごめんなさい、色々勘違いしてた」
浅野が謝ると ほかの女勇者達も謝罪する。凪も素直に頭を下げたのだが。
「でも、あいつは万引きした犯罪者だってことはかわらないから」
一言多かった。
「ちょっと、凪」
浅野が咎めたものの凪は怯まない。
「女の子に優しくしたら犯罪がなかったことになるの? 違うでしょ」
「それはそうだけど」
浅野としては白鷺が万引きをしたというのも事実かうたがわしいのではないかと疑問に思いつつあった。
そもそも、私達はなんで白鷺が万引きをしたと認識していたのか。もう一度考えなおしてみるべきじゃないだろうか。
だが、今はいえない。なぜなら今いえばリーリスに感化されたと解釈されかねない。
浅野は自分の心にちくりと痛みを感じた。私はまさに、誰かに感化されて白鷺を追い詰めたんじゃないか?
「あなた方がご主人様にどんな感情を持っていても、私には関わりのないことです。ですが、ご主人様に危害を加えるのであればあなた方は敵です」
終始冷たかった視線が更に冷たさをます。
「あの久宝とかいうのはもう敵ですが」
久宝の存在は女勇者達にとって大きい。右も左もわからない異世界で女性陣を守ってくれたの久宝だ。
阿木津も色々と気を使ってくれていたが、久宝がもつ称号、勇者の威光は少なくともマニアス聖国内では絶大な効果があった。
久宝がいれば大貴族でさえ下手に手出しできないのだから、彼を頼るのは仕方ない。
ただ、ここに女勇者達に亀裂が入った。ギルドで久宝の蛮行を目撃した浅野達は久宝に不信感を持ちつつあったが、凪達、目撃していない組は久宝を信頼している。
見えない亀裂は確実に広がりつつある。
「リーリスさん、本当に申し訳ありませんでした。全ては私の不徳です」
場の状況が悪化していくのを察知したフィリーネが自制心を叱咤して無理やり雰囲気をかえる。
本当はリーリスからもっと詳しく話を聞いてしっかり謝罪したい。だが、今はできない。亜人差別がどのようなものか。マニアス聖国と教会が裏で何をしているのか。勇者達に知られるわけにはいかない。
フィリーネは自己嫌悪に耐えながら言葉を絞り出す。
「明日、レイさんを迎えに出発しましょう。ここからだと数日かかります。急いだほうがいいでしょう。勇者様がたもよろしいでしょうか?」
否を唱える者はいなかった。久宝を敵と言われて思うとろこもあるが、リーリスの気持ちも同じ女としてよくわかる。
「では、朝に合流しましょう」
リーリスは椅子から立ち上がる。
「もう遅い時間です。泊まっていかれては?」
フィリーネが言うと、リーリスは呆れ気味に首を横にふる。
「あの男と同じ屋根の下にいろと? 申し訳ありませんが私の理性にも限界があります」
部屋の温度が下がったと感じたのはフィリーネの気のせいだろうか。リーリスは用はすんだとばかりに部屋から出ていった。
「みなさん、今日はもう寝ましょう」
フィリーネはみんなを無理やりベッドに押しやって明かりを消す。頭に血が上った状態ではののしりあいになるだけだ。
もっとも、明日からはリーリスと行動を共にするのだ。気の休まる暇はないだろう。
眠りに落ちる瞬間、フィリーネはリーリスが亜人狩りについて勇者達に詳しく話すのではないかと不安になっている自分に気付き、自己嫌悪に陥る。
王女であることを捨て切れない自分では、本当の信頼関係など作れないのかもしれない。




