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偽悪者の憂鬱  作者: 一葉
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偽悪者と骸骨

重苦るしさを感じて目が覚めた。寒い。毛布もださずに眠ってしまったことを後悔するも後の祭りである。大罪の牢獄にきてからまともに眠っていない気がする。気がするだけで眠れてはいるのだろうが疲れがたまっていくばかりで気が重い。

装備品に異常がないか確認していく。鎧は幾度かのボス戦でぼろぼろ。短剣はちゃんと鞘にささっている。精霊剣はどこだ。妖精の箱には入っていないし、どこかにあるはず。見回すと左手側に落ちていた。視界が狭まったせいで見えなかったな。

恐る恐る左目に手を伸ばす。あるべき感触はなく、空洞になっているようだ。さすがに眼帯は用意していない、包帯は巻き方がわからないし、天魔降臨で傷自体はふさがっているからこのままでも大丈夫だろう。

万全ではないにしても出来る準備はこんなところか。

人形が死守していた大きな扉に手をあててゆっくりとおす。すると何かに引っ掛かった。いや、これは扉の前に何かがあるっぽい。一瞬、罠ではないかと警戒するも、人形がお嬢様と言っていたことを思い出す。

念のため、警戒しつつも慎重に扉を開いた。

扉の向こうは殺風景な空間だった。いつも使っている安宿の部屋よりちょっと広いくらい。床に魔方陣らしき紋様がある以外は本当になにもない。

この紋様が転移魔法だろうか。ルーザが使用した転移魔法は光だけだったから区別がつかないな。

試しに上に乗ってみても反応がない。『大罪の牢獄に関する考察』によれば奴隷と一緒でなければ転移は発動しない。あるいはすでに転移魔法が壊れている可能性もあるな。

まあ、試せるものは試すしかない。

扉に寄りかかっていたのだろう。ボロ布をまとわりつかせた骸骨が床に横たわっている。

土色に変色したその骸骨は虚しくころがっていた。見るからに大きい骨格をしていて生前の身長は俺よりも高かっただろう。

この骸骨を魔方陣に移動させてみるか。

そっと頭蓋骨に触れる。固めた土みたいな感触、触れた部分が少しへこんでいた。

脆すぎる。このまま持ち上げたら粉々になってしまいそうだ。まるごと布で包んで持ち上げてみるか? 外套なら予備もあるし。そうなるとどうやって包みこむかが問題になる。

どうやって包むか検討しながら検分してみると肋骨の間に黒い何かがみえた。それは人族や亜人にはない筈のもの。

「すまないな」

謝りながら肋骨の一本を取り除こうと握ったら、ろくに力も入れないうちにボトリと落ちる。

手を突っ込んでそれに触れる。

手先に静電気に似た衝撃。驚いて手を引くが特に変わったところはない。手もなんともなっていなかった。

本当に静電気か? 単に気のせいか。

考えている間に違和感に気づいた。

隷属魔法はお互いに生存しているかどうかがなんとなくわかる。だからリーリスが生きていると今も感じているのだが、その感覚が一つ増えていた。

骸骨から、いや、肋骨の奥にあるものから感じる感覚は微かに生きていると主張している。

肋骨の隙間に手を突っ込んでそれを引き出す。

それは手で握り隠せる程度の魔石だった。本当に魔石か確認するために妖精の箱に入れようとしたら入らない。

生きている判定で入らないのか。まったくわけがわからない。

亜人や人族に魔石はない。あるとすれば魔物だ。

この遺体が人の形をした魔物という可能性もなくはない。かつては人の形になれる魔物もいたらしい。ただし、死ねばもとの姿に戻る。もとの姿が人の形をした魔物は記録上は存在していなかった。

それに隷属魔法は人か亜人でなければ効果はなく、魔物を奴隷にはできない。不確定要素はあるものの、この遺体は魔物ではないだろう。

理屈はどうあれ、この魔石があれば条件は満たしている。

魔石を持ったまま魔方陣にのる。

反応はない。

そうそう上手くはいかないか。

これで手詰まりだな。あとは骸骨も魔方陣にのせるくらいしかない。他に取りうる手段といえば。

固有スキル、自己犠牲。

腕の欠損すら治癒するのはリーリスで証明済みだ。ならば、生きてさえいれば、まるごと再生できる、かもしれない。

ただし、リーリスの時ですらあの痛みだ。全身の再生ともなればどれ程激烈な痛みになるのだろう。

ふっと、笑みがこぼれる。

悩む必要なんてない。他に手段なんてないのだ。

妖精の箱からタオルをとりだす。魔石を床において深呼吸を繰り返した。いくら決意したところで恐怖心がなくなったりはしない。

舌を噛まないようにタオルを口に突っ込む。倒れて頭を打たないように床に座って背を壁にあずけた。

隷属魔法の繋がりを意識する。微かで弱々しい生命の感触を包みこむように自己犠牲2を発動。

頭の中が真っ白になる。身体が痙攣して縮こまった。電流が全身をかけめくりながら、細胞一つ一つを破壊してまわるかのような激烈な痛み。

俺、何してるんだっけ? なんでこんなに痛いんだ? そうだスキルのせいだ。止めなくちゃ。

あれ、何で自己犠牲スキル使ったんだ? そうだ駄目だ、止めちゃだめだ。

僕は助けたい。

僕が助けられる人達をみんな助けたい。

そのためなら、僕がどうなったてかまわない。

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