あなたを好きになった理由4
得意げなリーリスに一抹の不安を覚えた女勇者も何人かいたものの、今さら止めることもできず、映像が動きだした。
さっきまでとかわりなく、二人は仲良さげにしている。宿に入り、そのまま食事もすませ、あとは寝るだけになった。
何事もなさそうで浅野は安堵する。どうもリーリスは白鷺との仲を見せつけて自慢しているふしがある。
正直、若干殺意がわきつつあった。
だが、胸を撫で下ろすには早すぎた。
『お湯をもらってきますね』
リーリスは機嫌よさげに部屋をでると受付まで行って桶にお湯を入れてもらい、部屋まで戻った。
桶を床に置くと、大きい布を下にしきその上に靴を脱いでのる。
『お願いします』
『ん、腕を上げて』
レイはリーリスの服の裾を掴むと慣れた様子で服を脱がしていく。
ごくりっと誰かが生唾を飲み込む音がする。
浅野は焦った。これってあれよね、このままいくとあれするんだよね? 止めないとやばくない?
内心では止めるべきだとわかっているのに、何もいえない。むしろ映像から目が話せなくなる。
なんせさっきまでリーリス視点で楽しいデート風景を見せられていたのだ。あれはある意味疑似体験みたいなものである。
なんというか、流れが理想的すぎて今さら見逃せないというか、欲求不満になってしまうというか、続きをみたい気持ちと止めたい理性がせめぎあい思考停止してしまった。
レイは優しく服を脱がしていく、下着も平然と脱がし、リーリスは一切抵抗もしない。むしろ脱がしやすいように身体を動かしていた。
明かりを消した暗い部屋。カーテンで遮られた外灯の淡い光にリーリスの裸体がさらされた。
内心ではどうなのかわからないがレイは淡々とタオルをお湯に浸して絞るとリーリスの右手を軽く持ち上げて腕を拭く。
丁寧にゆっくりとリリース腕を拭くと今度は左腕。レイは、まるで王女様にかしずく従者みたいに優しく身体にふれていた。
首筋を拭きタオルが胸元に下りていくと、映像が微妙にぶれる。
レイは動じることもなくどんどん下のほうもふいていき、リーリスに座るようにうながした。
座ったリーリスの脚をレイはくまなくふきあげる。リーリスはそんなレイの顔から目をはなさい。
『こんなものか。どこか気持ち悪いところはある』
『あ、いえ、とても気持ちよかったです』
どうもレイに見とれていたらしいリーリスは慌てた様子で返事をした。
あらかじめ用意していたワンピースタイプの寝間着をリーリスに着せると、レイはリーリスの身体を引き寄せて抱き上げる。
いわゆるお姫様抱っこである。
リーリスは嬉しそうにレイの首もとに腕を絡めた。
ゆっくりとベッドに下ろされたリーリス。女勇者達の心臓の音がうるさいくらいに高鳴る。
いいの? これって見てもいいやつなの?
期待と不安と羞恥が混ざりあった複雑な感情に女勇者達は振り回された。
『先に寝ていいから』
『はい、おやすみなさい』
レイはリーリスから離れて桶の側に座った。今度は自分の身体を綺麗にするのだろう。
映像がレイから離れて天井をうつし、やがて暗くなる。目蓋を閉じたようだ。
肩透かしをくらった女勇者達は静かにため息をつく。いや、別に見たかったわけじゃない。見たかったわけじゃないんだけど、ほんのちょっとだけ残念な気持ちだった。
「外でも宿でもかわらないみたいだし、凪もこれで納得……」
浅野が凪に声をかけようとしたら、映像がゆらいだ。
ぽつりぽつりと赤く輝くそれは炎の光。闇の中で街が燃えていた。
聞こえるのは女性や子供や男達の悲痛な叫び声。
道にはいくつも遺体が転がり、その遺体を人の形をした白い影が見下ろしていた。
ふいに獣人が白い影に襲いかかるがあっさりと剣によって切り伏せられる。
白い影は血に濡れた剣をこちらに向けると少しずつ近づいてくる。
『やめて! 逃げなさい、リーリス!』
影との間にリーリスに似た獣人がわって入る。しかし、無造作に剣で胸を貫かれる。
『母さん!』
『駄目! 逃げて、逃げなさい……』
倒れふした女性の獣人はしばらく逃げなさいとうわ言をいっていたがやがて動かなくなった。
『母さん、母さん!』
叫ぶリーリスに白い影は剣を振り下ろす。
『リーリス! 立て!』
今度は男性の獣人があらわれて振り下ろされた剣を短剣で弾いた。人より優れた身体能力をもつ獣人でなければ防ぎきれずにリーリスは切り伏せられていただろう。
『お父さん!』
『いけ! 走れ!』
『でも、お父さん、母さんが』
『いいからいけ! 早く!』
映像が涙で滲む。リーリスはしゅんじゅんを振り切って走りだす。
「ねえ、これなんなの?」
浅野が戸惑いながら沙紀に聞く。
「夢、悪夢かな。だから、全部実際におきたことじゃないだろうけど、大筋は事実だと思う」
女勇者達はレイ以上にこの世界の事情にうとい。彼女らが持っている知識はほぼ教会にとって都合のいいものでしめられている。
亜人差別については教えられてはいるものの、まさか獣人の村を襲って皆殺しにするほどという認識はない。
だから、この夢についても戦争か山賊に襲われたのだと解釈した。
たいしてマニアス聖国の王女であるフィリーネはわかってしまった。わかりたくなかった。
教会による亜人狩り。リーリスはその被害者なのだ。
フィリーネの血の気が引いていく。
マニアス聖国は教会の亜人狩りに直接関わってはいないものの、見逃しているのは事実だ。フィリーネとて王家の人間。リーリスからすれば親の仇も同然である。
フィリーネは知らなかったとはいえ、リーリスに親の仇である自分を信じろと言ったのだ。
リーリスからすれば、はらわたが煮えくり返る思いだっただろう。フィリーネは情けなかった。お飾りの王女は何も知らないのだと、改めて自覚させられた。
夢の中のリーリスは暗い森の中をかけていく。フィリーネにはあてどなく逃げまわるリーリスの姿が、自分自身と重なって見えた。
私も、暗闇の中を逃げ回っているだけなのかもしれない。




