2話 最前線の町 プロタザイト
ケリュネイアと別れから2時間ほどしたじゃろうか。
ようやく目的の町が見えてきた。
頑強そうな白塗りの城壁に囲われており、例え何があってもちょっとやそっとのことでは余波さえ中の市街地には届かないじゃろう。
何でも、今ワシたちが出てきたこの森はダンジョンとやらになっているらしく、そこから国を守るために作られた都市らしい。
ここから見える範囲では唯一の門には門番が二人おり、怪しげな者が近ずいてこないか目を光らせているようじゃ。
そのうちの一人がこちらを見て手を挙げた。
「おーい、そこにいるのはアレクか~?」
先ほどまでのキリッとしていた雰囲気とは裏腹に、やけに間延びした声が耳を打った。
アレクというのはこの男の名のことじゃ。
森の中で歩いているときに聞いた。
この男はそのごつい見てくれからは想像できないほど饒舌で、理解しているかも分からない赤子相手に、道中延々と話しかけてきていた。
最初は頑固親父のようだと思っていたが、そのせいで近所の陽気なおっちゃんといったイメージの方が強くなってしまった。
「そうだぞー、今そっちに行くー。」
曲りなりにも魔物の跋扈する森の手前で交わされる会話ではないが、それもこの男の腕前が優れているからなのじゃろう。
森の中で魔物が襲ってくることが多々あったのじゃが、そういうときはワシを肩に担いぎながら手にしたメイスのような武器で一掃していた。
そうそう、これも道中で聞いたのじゃが魔物と獣は明確に区別されているらしく、
死んだ後に毛皮など―これを一般的にドロップアイテムと言うらしい―を落として消えるのが魔物、
肉体が死んだ後もそのまま残るのが獣らしい。
こんな話をしてもただの赤子が理解できるはずが無いのに、何を考えてこんなこを教えようと思ったのじゃろうか、、、
いや、割と何も考えていなかったのかもしれんな。あほっぽいし。
そんなことを考えているうちに彼は門まで到着したようで、門番と会話を楽しんでいた。
「それにしてもお前、調査依頼にしては早く帰ってきたじゃないか。」
「まあ色々あったんだよ。」
「そのガキがそうか?」
「ああ、森の中に捨てられててな、放っておくのも忍びないから連れて帰ってきたんだ。」
アレクがワシのことを捨てられていたというのは何も説明が面倒という理由ではないようじゃ。
何でも、聖獣というのはいるかどうかも分からない伝説のような存在らしく、
それに匿われていたとなれば大騒ぎになって、最悪国に研究目的で連れ去られるかもしれないとのこと。
ワシも最初はそんな大げさなと思ったが、人間の欲の前には倫理なんて無いようなものになってしまうのはあちらでもこちらでも同じようじゃ。
「名前はあるのか?」
「ニエロというらしい、それを書いた紙だけこいつの籠ん中に入ってた。」
「へーニエロっつうのかお前、俺はケルビンっつうんだ、よろしくな。」
こちらに話が振られてきたのでこちらこそという意味で「あーうー」と返しておいた。
ここに来るまでに自分の意志で声を出すことと目を動かすことはできるようになったのじゃ。
「へっ、可愛らしいなおい。で?アレクその紙はどうした、まさか落としたなんて言わないよな?」
「なくした!」
「そーかそーか、アホなお前でもそんなことはしないよなって、、、は?」
あ、やっぱり彼はアホなんじゃな。
「おーまーえー!そういう大事そうなもんちゃんと大事に持っとけよ!!」
「でも名前以外何も書いてなかったぞ?」
「アホの言うことが信じられるか!毎回そういって必ず何か見落としてんじゃねえかよ!」
「ひどくねえ!?」
「ひどくねえ!戦闘時の頭のキレはすげえのに何でこういう所で抜けてやがんだよ、、、全く。」
とは言え、門番さんはそこまで怒っているようには見えんかった。
恐らくこれも彼らなりの交流の一つなのじゃろう。
「まあいい、で?これからどうするんだ。その子の説明も必要だろう。」
「おう、これからギルドに行って報告してくるつもりだ。ギルマスに相談してから決めるわ。」
「相変わらず適当だな。まあでもそれでいいんじゃねえか?」
「おう、じゃ通してくれよ。」
「わあったわあった急かすなよ。んじゃ改めて、、、
ようこそ最前線の城塞都市 プロダザイトへ!俺たちはお前を歓迎するぜニエロ。」
「うーあー!」
意味は特にない、ただ叫んだだけじゃ。
「おい、俺は何もなしかよ。」
「お前は既にようこそしてんじゃねえかよ。」
「ははっ、ちげえねえや。」
最後まで締まらないやり取りをする2人じゃった。
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町の大通りを通るといろいろな人がアレクに話しかけてくる。
「よおアレクお帰り!」
ほれ、また話しかけてきおった。
どう考えても小さいとは言えないこの街で、ここまでの人に話しかけられるのはそれだけアレクが人気者だということなのじゃろう。
「ところでどうしたんだその赤子。」
「ああ、森で拾ったんだよ。」
「へえ、ん?ちょっと待て鬼族じゃないか?」
先ほどまでの人たちとは違い、ワシの種族について言及してきたので鬼族では何かまずかったじゃろうかと思い見てみると、そこには壮年のワシと同じ鬼族がいた。
鬼の象徴ともいえる2本の角と毛髪は赤く、いかにも赤鬼といった風体だった。
「お、ほんとだ。角がちっさくて分からんかったぜ。」
「まあ子供の角は小さいからな。それにこの子は見たところまだ1歳といったところだろう、もし2角以上あったら気づけんかったかもしれんな。」
どうやら鬼は角の数にも意味があるらしく、1角であればその種の特徴となるステータスの伸びがよくなるらしく、そこからはその角の数に比例して伸びが良くなるステータスの数が増え、代わりにその上昇率は小さくなるらしい。
ちなみに長さも1角が一番長く、角の数が多くなるにつれて短くなっていくものらしい。
「へー、でも鬼族だからって特に何もないだろ?」
「ああ、強いて言うなら同族の、それも比較的数の少ない黒鬼の子供に興味を待ったというだけだな。」
「そうか、黒鬼の特徴ってなんだ?」
「筋力の上昇値が異常なほど高い、魔法は1角と考えたら自己強化あたりが限界じゃないか?
まだ角の色がハッキリしないから分からんが、変異型という可能性もある。その場合は使える魔法の種類が増えるな。
まあ変異型なんて滅多に見んからあくまで可能性の話だがな。ハッハッハッ」
なるほど、変異型は魔法の適性が増えるのか。
アレスの説明を聞いて魔法は使えないのかと悲観していたが、思わぬところに希望があったの。
「なるほどな、ありがとよ!」
「うー!」
「どういたしましてってんだ。」
そういって俺たちは別れた。
そこから数分歩いたところでアレクは足を止めた。
「着いたぞニエロ、ここがギルドだ。」
「おー」
着いたそこは大きな酒場のような見てくれじゃった。
実際酒場としても機能しているようで、先ほどからいい香りと共にかすかな酒の匂いが届いてきている。
先ほどから多くの人が出入りをしており、鎧を着たいかにも冒険者然とした者たちのほかにも商人のような者も出入りをしており、中はかなり賑わっている様子だった。
「よぉーし!それじゃ突入ー!」
「おー!」
ドォォォォォォォォォォォン!!
(ちょっと待て、今のは絶対壊れたじゃろ!
こいつはいつもこんなことをしておるのか!?)
アレクが扉を蹴破った瞬間中は水を打ったように静まり返り、
見な一堂にこちらを見て目を見開いておった。
しかしそれも一瞬のことで、みな慣れたことのように会話を再開し始めた。
本格的にこやつは常習犯のようだ。
まだ若そうな商人はいまだにオロオロしておるようじゃが、横にいた小太りな商人に肩をたたかれ酒場の方に消えていった。恐らくこれからまた一つ社会を知ることになるのだろう。
「アレクまたお前かー!」
突然大声が聞こえてきたのでそちらを向く、
そこには微かに肩を上下している鎧を着た浅黒い肌の女性がおった。
「何なんだお前は、何か?扉に親でも殺されたのか?
お前それで左右合わせて12枚目だぞそれ壊すの、見ろよ、木工のやつらが乾いた笑いしてやがんぞ。」
アレクが振り返ったのに合わせて後ろを見ると、幾人かの男達が真ん中に穴の開いた扉を囲んで乾いた笑い声を出しおった。
恐らくあの扉を作った木工たちなのじゃろう。
ギルドも中々に大きいので扉もそれに比例して大きくなったのじゃろう、少なくとも2.5メートルはありそうなその扉にはしっかりと装飾も施されており、職人たちの頑張りがうかがえた。
「悪い悪い、次からは気を付けるぜ。」
「お前それで気いつけたこと一度たりともねえじゃねえかよ。」
「大丈夫だよ、あ、そうだクエスト報告してもいいか?ちょっと特殊なことがあってな。」
「ああ、そのガキか。いいよ、部屋に来な。
おい!アイラ!クエスト完了の処理だ!頼んだよ!」
彼女は受付に向かって羊皮紙を出しながらそういうと、一人の少女が近ずいてそれを受け取って受付に戻っていった。
それを彼女は確認すると、
「さあ行くぞ。」
と一言言って階段を上って行った。
アレクはそれに肩をすくめながらついていった。
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「で、報告ってのはなんだ。」
所変わってここは社長室のような部屋、彼女はギルド長だそうじゃ。
「俺が迷いの森に調査に行ったのは分かってるだろ?」
「ああ、こっちにもその記録が残ってる。」
「実はな、フォレストウルフが襲ってきたんだよ。
それも自発的に。」
「なに?それは大問題じゃねえか、、、すぐに調査隊を派遣するぜ、情報提供感謝するぞ。」
「まあ待てまあ待てそう焦りなさんな、この俺が原因を調査せずに帰ってきたと思うか?」
「は?調査してきたっつううのか?このギルドきっての問題児のお前がか?」
「ったりめーじゃねえかよ。
で、原因なんだがな、おそらくこいつだ。」
そういってアレクはワシを指差した、てっきり嘘をでっちあげるかと思っていたが違うのじゃろうか。
「なに?そのガキがか?嘘ついてないってのは分かるがよ、到底信じられる話じゃねえぜ?」
「だがフォレストウルフはそいつを守るようにいたし間違いねえと思うぜ?
嘘ついてねえのはお前のその看破の魔眼でわかるだろ?」
なに?それはワシも初耳じゃな。
愛されし者の効果は魔物にまで効果があるのか。
それに、たしか会話の内容と名前から察するに看破の魔眼とは嘘発見器のようなものなのじゃろう。だからアレクもあまり隠さずいたのじゃろうからな。
まあケリュネイアのことはさすがに言えんのじゃろうが。
「ふーん、まあそれも生まれつきの特殊なスキル持ちだって考えたらおかしくは無いか。」
「そうだろ?ただ問題なのはこいつをこれからどうするかなんだよな、、、」
「お前が育てればいいじゃないか、拾ってきた責任くらい自分でとれ。」
「え、いやでも俺ってば冒険者だぜ?クエストとかどうすんだよ。
ていうか育て方とか分からんぞ。」
「いいじゃないか別に、それにお前がクエスト行ってる最中はガンテツとかネルとかに預けとけ。あいつらも子持ちだから大体のことはできるだろ。
つーかお前が今から行って教わってこい。」
ガンテツやネルが誰だかは分からんが、アレクはそれを聞いても迷っているようじゃった。
個人的には常識のある奴がいいんじゃがのお。
だがアレクも腹を決めたようで、半ばやけくそに「やってやらあ!これでも男だ!」と言っていた。
「くくっそうかそうか、んじゃこいつは私が見といてやるから早く教わってきな。」
「おう!善は急げだ行ってくるぜ!」
そういってアレクは飛び出していった。
ギルド長室の扉を吹き飛ばして。
「またかあいつは!
気を付けるって言ってから一時間も経ってねえんだぞ!」
そういいながらも扉を部屋の隅に片付けるのは最早諦めてかけているということなのじゃろう。
「しっかしあんだけデカい音が鳴っても泣かないって、これは将来中々肝の据わったやつに育ちそうだな。」
そういって彼女はこちらに話しかけてくる、そこで彼女の姿をよく観察してみると、
肌は先ほどゆった通り浅黒く、後ろで結わえられた白い髪から覗く細長い耳から彼女はダークエルフという種族に該当するのじゃろうと予測できた。
瞳は青く、吸い込まれそうなほどの深みを湛えており、
エルフらしくその容姿は非常に整っており、180cmほどであろうそのすらりとした長身からは無駄な脂肪の一切ないその肉体も相まって健康的な美しさを醸し出しておった。
ちなみに胸も一切なかった。
「なんかお前失礼なこと考えてねえか?
まあガキがそんなこと考えるわけねえか。
私はマルティナってんだ、ここのギルド長やってっからお前も将来私の世話になるかもな、
アレクみてえにはなるなよ?」
「あーうー」
ワシはすぐに返事をした、
奴も悪い奴ではないんじゃがいかんせん行動がの、
しかしなあ、黙っておれば絶世の美女なんじゃがなあ、些か口調で損をしてるように感じるのお。
「まあ身体強化の魔法なら教えてやるよ、得意分野だしなっと
アレクが、、いやお前の親父が帰ってきたみたいだぜ。」
そうマルティナが言うや否や大きな音を立ててアレクが階段を上ってくる音がした。
「マル!教わってきたぜ!ぶげらっ」
みごとなボディブローが彼の腹に決まった。
その一連の動作は素人のワシでも見事といえる美しい流れじゃった。
彼女の職は拳闘士とかそんなんなのかもしれんな。
「おまえはっ、何時になったらっ、学習するんだっ、よっ!」
「悪かったって!頭から完全に抜けてたんだよ!」
「んじゃ抜けねえように今から詰め込んでやるよ!」
マルティナがそういいながらアレクの頭を鷲掴みにする。
そうとう腹に来とったようで、暫く彼の頭が彼女の手から離れることはないじゃろう。
「きゃっきゃっ」
そんな夫婦漫才のようなやり取りを見ながらワシは笑っていた。
これから訪れるであろう愛すべき日常に思いを馳せて、これから訪れるであろう飽くなき非日常に期待しながら。
ワシはただ、笑っていた。
なんか毎回最終回のような終わり方になりますね。
次に一度幕間を挟んでから一気に三歳まで飛ぼうと思っているのでそれまでに少し勉強してきますわ。
ちなみにマルティナはヒロイン枠ではありません。




