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第1部 * 3 *


 昼食から戻るついでに売場を手直ししてから、鮮魚部の作業場に戻ったショーコに、黒田、

「あ、ショーコちゃん、丁度良かった。電話だよ。保育園からだって」

手にしていた受話器を差し出す。

 保育園からだと聞き、貫太か清次に何かあったのではとドキッとしながら、ショーコは受話器を受け取り、

「もしもし、お電話代わりました」

ドキドキしながら受話器を耳に当てる。

 電話の相手は、

「こんにちは、保育園の下川しもかわです」

貫太の担任だった。

「あ、先生。いつも、お世話になってます」

 担任は、お仕事中すみません、と断りをいれてから、

「お母さん、すみませんが、すぐに貫太くんと清次くんを、お迎えに来ていただけますか? 」

 何があったのか、話し方が変によそよそしい気がする。

 理由を聞いても、とにかく迎えに来てくださいとしか言わない。

 ショーコは電話を切り、黒田に許可をもらって、着替え、小走りにフレッシュマートを出た。




 小学校の向かいの細い坂を下っている途中、保育園の閉まった門の内側に、子供が1人、少し離れた後方に大人1人の人影が見えた。園庭に、他の人影は無い。

 迎えに来るよう連絡をよこしたからといって、すぐに来るとは限らないのだから、園庭に出て待つなど普通なら無い。しかし、遠目だが2つの人影の服の色、そして他に人影が無いという状況。それらから、人影は貫太と保育士の誰かであると判断出来た。

 胸騒ぎを感じ、ショーコは走る速度を上げる。


 門の十数メートル手前、たまたま障害物が無く門の内側に立つ2つの人影の様子がはっきりと確認できるようになった地点で、

(……! )

ショーコは思わず立ち止まった。

 清次を、貫太が重たそうに抱いている。

 清次の背には、翼。

 ああ、そういうことだったのか、と、ショーコは、呼び出された理由を理解した。

 少し離れて後方に立つ貫太の担任の隣に、貫太と清次の私物を載せた清次のベビーカー。

 ベビーカーに載りきらない分は担任が持ち、貫太と清次の、全てと思われる量の保育園に置いてあった私物が運び出されていた。


 ショーコが門の前まで行くと、貫太の担任が、持っていた貫太と清次の私物を、一旦、地面に置き、門を開けた。

 貫太が、転びそうになりながらショーコに駆け寄り、

「ゆうとくんが きーちゃんを おとしたんだよ。だいじょうぶかなあー? 」

 ショーコを待つ間、清次の身が心配で、不安で、仕方なかったのだろう。そして、ショーコの顔を見て安心したのだろう。それまで泣いてなどいなかったのだが、口を開いた途端、貫太の目から大粒の涙がパタパタと落ちた。

 ショーコは貫太の手から清次を抱きとり、片腕に抱きなおして、空いた腕で貫太の頭を自分の腹に引き寄せる。

「ママが来るまで、ずっと、カンちゃんひとりで、キーちゃんを心配してくれてたの? 」

 腕の中の貫太は、小さく頷いた。

 ショーコ、貫太の髪を撫で、

「キーちゃんは大丈夫だよ。キーちゃんは、強い子だから」

言ってから貫太を放し、清次を貫太の目線まで下ろして見せる。

「ほら、キーちゃんも、『にいに、しんぱいかけて ごめんね』って言ってるよ」

 貫太は涙を拭い、手を伸ばして、そっと清次の頭を撫でた。

 そこへ、

「あの……」

貫太の担任が、普段の会話をする時に比べ、不自然に距離をとった状態で口を開く。

 距離をとる理由は、明らかだ。

 清次の翼。……それ以外ない。

 地表人にとって黒い翼は、あまり良いイメージではないと、昔、聞いた。加えて、6年前と現在、白い翼だが、同じく翼を持つ者たちによって、地表人が大変な目に遭わされている。特に6年前などは、この地域からも大勢の人が連れ去られたことを考えれば、当然の反応と言える。

「申し訳ありません。私たちが少し目を離した間に、勇人ゆうとくんが、清次くんを抱っこしようとしたらしいんです。頭は打っていないようなんですけど、念のため、病院で検査を受けられたほうがいいかも知れません。勇人くんのお母さんにも連絡を入れておきましたから、後ほど、勇人くんのお母さんのほうから、連絡が入るかと思います」

担任は、一息に必要最低限だけを話してから、運び出してあった貫太と清次の私物を全て、門の外側へ移動させ、

「緊急の職員会議の結果、すみませんが、当園では、もう、貫太くんと清次くんをお預かり出来ないことになりました。理由は、お母さんも察しがついていらっしゃると思います」

やはり一息に、貫太と清次を退園させる旨を伝え、ショーコと目も合わせず、

「失礼します」

退園の理由を理解し、仕方ないと受け入れたショーコの、「今までお世話になりました」との挨拶が終わらないうちに門を閉め、身を翻し、逃げるように駆け足で保育室へと去って行った。

 担任の背中を見送りながら、貫太、

「まさみせんせい、かんちゃんに さよーなら いってくれなかった」

寂しそうに、ぽつりと呟いた。


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