第1部 * 10 *
貫太と清次を寝かしつけた後、 ショーコは、そっと自宅を抜け出した。所々にしかない数少ない街灯と家々の窓の明かりを頼りに、暗い夜道を歩く。
自宅から100メートル程、左手側の明かりがついていない大きな家が目に留まり、ショーコは足を止めた。辺りを見回して、ひと気が無いことを確認。家の表に犬などがつながれていないことも確認してから、閉まっている門を乗り越え、誰か通りかかるといけないと考えて、狭いため道路から見えにくい建物の右側面へ回った。
窓が無いため分からないが、外壁の内側は台所だろうか。ショーコの頭上に換気扇がある。
ショーコは一瞬、罪の意識に苛まれ、躊躇。しかし、頭を強く振るい、
(今やらなくても、明日には、やることになるんだから……)
更に、バースデーケーキを前にした時の貫太の表情を意識的に思い出して、自分を励ます。
3日前に拾った財布の中身は、今日の買物で無くなった。とりあえず、明日の分の食料品は、今日、今日の夕食分と一緒に買ってきたため、あるが、明後日には、家賃の支払いもある。働けない以上、生活するためには、これしか方法が無いのだ、と、自分に言い聞かせ、外壁に両手をついて全神経を集中させる。
見えた。やはり、外壁のすぐ内側は台所だった。裏手側の窓から、背中合わせに建つ家の浴室と思しきカーテンの無い磨りガラスの窓明かりに照らされ、わりと明るい。見えるところに、現金や、現金の入っていそうな財布等は無い。ショーコは更に神経を研ぎ澄まし、見える範囲内の戸棚等の扉という扉、引出しという引出しを、片っ端から全て開ける。
と、食器棚の引出し、スプーンやフォークの上に、不自然に封筒が載っているのを見つけた。もしかして、と思い、中身を確認しようとするが、ショーコの月空力、しかも、2種類の能力を同時に使うなどという行為は、体力を酷く消耗してしまい、長く続かない。そうでなくても、得意なほうの手を触れずに物を動かす能力は、封筒を開けて中を確認するなどという細かい作業には向かないのだ。しかし幸い、封筒ならば、そのままでも換気扇の隙間を通る。無駄な体力を使う必要は無い。ショーコは、換気扇の隙間から外へ出して自分の手に取って確認しよう、と思いつき、中身が分からないままの封筒を移動させようとした。
その時、門のほうで物音。ショーコはビクッとし、そちらを向く。この家の人らしき女性が門を開けたところだった。
ショーコは焦って家の裏へ回る。そしてそのまま、背中合わせに建つ家の、見える範囲の外側に人がいないことを確認してから、裏の塀を乗り越え、自宅へ逃げ帰った。
自宅の玄関に駆け込み、ドアを閉め、鍵も閉めてから、ショーコは、大きく息を吐きつつドアに寄り掛かる。
盗みは未遂に終わった。
遅くても明日の夜には現金を手に入れなければ、と、気持ちが焦る。しかし、失敗したことに少しホッとしてもいた。




