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プリンセスナイトサーガ  作者: 中津海人
第4章 炎の姫騎士リーザ

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第6話「国を守る男」

 朝焼け亭の地下室。


「オレとリーザとカストールは、幼い頃から一緒でした」


 セドリックの言葉を受け、重い沈黙が落ちていた。


「その方が、なぜ帝国へ?」


「……分かりません」


 握られた拳が、わずかに震える。


「いや、今になって考えれば、気づけることはいくつもあったように思います。ですが、あの時のオレたちは、あいつを仲間だと信じていました」


 レフィーナは治癒術師に一礼した。


「治療、ありがとうございました」


 それから、傍らに置いた外套へ手を伸ばす。


「セドリックさん。これを見ていただけますか?」


 布に包まれたものを取り出し、机の上へ置く。


 包みを開くと、水晶のかけらが姿を現した。


 セドリックが目を見開いた。


「これは……!」


「ソルフレア迷宮で見つけました」


「あなた方は、あの迷宮へ入ったのですか?」


「時空の塔から繋がる古代転移装置が、迷宮の奥に残されていましたの」


 ディートリーゼが答える。


「その近くにある祭壇で、この魔水晶を発見しましたわ」


 セドリックは水晶のかけらを観察する。


「間違いない。リーザが探していたものです」


「やはり、リーザさんの……」


「はい。炎のティアラを強化する魔水晶のかけらです」


 セドリックは、水晶を見つめた。


「古い文献によると、炎のティアラを強化すれば、王都の防衛結界も、もっと強くできる。リーザはそう考えていました」


「だから、ソルフレア迷宮へ向かったのですね」


「あの時――」


 セドリックは、地図の上に手を置いた。


「帝国軍が王都へ進軍している、という報告は、すでに入っていました。だが、王都へ到達するまでには、まだ数日の猶予があるはずだった。その間に魔水晶を手に入れる。リーザはそう決め、王都の守りをオレに任せたのです」


 その声が、わずかに沈む。


「――セドリックなら大丈夫。そう言っていました」


 ディートリーゼが、レフィーナへ目を向ける。


 二人が見つけた古代ガーディアン。


 深い斬撃と炎によって破壊され、その足元には焼けた魔力鎖が残されていた。


 あの場所に、リーザはいたのだ。


「だが、魔水晶を見つける前に、西門が破られたとの急報を受けたリーザは、探索を切り上げ、すぐに引き返しました。奴らは監視塔の死角を進み、西門に兵力を集中させました。魔導装甲機の配備位置も、見張りの交代時刻も、すべて知っていました」


「偶然ではありませんわね」


「……カストールです。奴が、事前に帝国と示し合わせていました。同時に、魔導装甲機の工場と魔力供給施設も制圧されました」


「それで自国の兵器を、自国へ向けられた……」


 レフィーナが呟く。


「そうです。帝国軍が使用している二足歩行型の魔導装甲機は、元々エスティアで作られたものです」


 セドリックは答えた。


 レフィーナの脳裏に、魔導装甲機の胸部で脈打っていた赤い光が浮かぶ。


「では、あの炎も?」


「リーザから奪った炎です」


 レフィーナの手が、強く握られた。


「カストールの家は、魔導装甲機の生産へ関わる大貴族でした。工場への出入りも、機体の配備状況も知っていました」


「カストール自身が、魔導装甲機を発明したわけではないのですね」


「はい。あいつは設計者じゃない」


 セドリックの声に、怒りが滲む。


「国が積み重ねてきた技術と、家の権限を利用しただけです。それを丸ごと、帝国へ引き渡したのです」


 王都の防衛線は、内側から崩された。


 奪われた工場から次々と魔導装甲機が投入される。


 防衛部隊は分断され、王都は陥落した。


「王都陥落の混乱の中、カストールは姿を消しました」


 セドリックが続ける。


「次にあいつが現れた時には、帝国軍の側に立っていました」


「リーザさんは?」


「その時、帝国から布告が出ました。炎の姫騎士を捕らえ、炎のティアラを没収したと」


 地下室の壁に、拳が叩きつけられる。


「オレが、王都を守るはずだった」


 誰も口を挟まない。


「リーザは、オレなら大丈夫だと信じてくれた。なのに、オレは王都を守れなかった。リーザも守れなかった」


「それでも、あなたは逃げなかったのですね」


 レフィーナの言葉に、セドリックが顔を上げる。


「帝国に占領されたあとも、ここに残った。捕らえられた人たちを助け、レジスタンスをまとめている」


「それは……」


「今も、国を守っているということではありませんか?」


 セドリックは答えなかった。


 兵士。


 冒険者。


 職人。


 治癒術師。


 戦う力を持たない者もいる。


 それでも全員が、エスティアを諦めずにここへ残っていた。


「守れなかった責任が消えるとは思っていません」


 セドリックは、静かに言った。


「それでも、リーザが帰ってくる国まで失くすわけにはいきません」


 レフィーナは小さく頷いた。


「でしたら、一緒に取り戻しましょう」


「簡単に言わないでください。帝国軍の戦力は――」


「簡単ではありません」


 レフィーナは、魔水晶のかけらへ手を添えた。


「それでも、リーザさんも、この国も、諦めません」


「悔いるのは自由ですけれど、今から取り戻せばいいのではなくて?」


 ディートリーゼが扇子を広げる。


「お手伝い致しますわ。わたくしたちは、その為に来ましたの」


 セドリックは、二人の姫騎士を見つめた。


「分かりました。あなた方に賭けます」


 地図の上に、指を置く。


 王都中央区。


「現在、炎のティアラは、王都地下の古代設備へ接続されています」


「古代設備?」


「元々は、炎の姫騎士の力を王都全体へ分配するための装置。防衛結界や魔導炉、鍛冶施設へ、安全に炎を送り届けるために作られました」


「それを、帝国が悪用していますのね」


「ああ。リーザの意思を無視して、ティアラから炎を吸い上げています」


 セドリックの指が、地図に描かれた工場区画へ移る。


「奪った炎は、魔導装甲機や捕縛設備へ送られています。おそらく、リーザを拘束している装置にも」


「リーザさん自身の炎が、リーザさんを苦しめている……」


 レフィーナの声が震えた。


「リーザが生きていることは、帝国の布告や目撃情報から確認できています。ですが、どこへ収容されているのかまでは分かりません」


 セドリックは首を横へ振った。


「帝国は捕虜を何度も移送しています。情報も意図的に混乱させているようです」


「でしたら、先に炎のティアラを装置から外しますわ」


 ディートリーゼが言った。


「ティアラからの強制抽出が止まれば、リーザさんの封印も弱まるかもしれません」


 レフィーナは、赤い魔水晶のかけらを握る。


「そして奪還したティアラへ、このかけらを装着します」


 炎のティアラを取り戻す。


 そこへ魔水晶のかけらを装着し、完全な力を得た炎を、リーザへ届ける。


 それが、救出の第一段階。


「決まりですわね」


「王都地下へ侵入し、炎のティアラを奪還します」


 レフィーナの言葉に、セドリックも頷いた。


「問題は、地下施設への経路」


「場所は分かっているのでは?」


「地上から通じる正規の入口は、帝国軍が封鎖しています。警備も厳重で、レジスタンスが突入しても、装置へ辿り着く前に包囲されます」


 セドリックは、地図に描かれていない場所を指でなぞる。


「古い整備通路があるはず。しかし、正確な経路を知っているのは、設備に携わっていた技術者たちだけです」


「その方々は、どこに?」


「帝国に拘束されています。定期的に工場区画へ移送され、開発を強制されています」


「助けに行きましょう!」


「護衛には、魔導装甲機がいます。しかも技術者たちの家族も人質にされています」


「全員助けます」

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