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プリンセスナイトサーガ  作者: 中津海人
第4章 炎の姫騎士リーザ

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第7話「魔導装甲機戦」

 王都南区と工場区画を結ぶ、古い運搬路。


 空が白み始める前。


 レフィーナたちは、道を見下ろす岩場に身を潜めていた。


 治癒術師のおかげで左肩の出血は、一応止まっている。


 眼下の運搬路を横切るように、太い鎖が仕掛けられていた。


「相手は、二足歩行型の有人魔導装甲機。正面から装甲を斬ろうとしないでください。狙うなら脚部の関節か、背中の冷却器です」


「冷却器を壊せば、止められるのですか?」


「内部に熱が籠もれば、長くは動けません。そこまで近づければの話ですが」


「わたくしが時間を止めますわ」


 ディートリーゼが胸を張る。


「動かない魔導装甲機など、ただの大きな鉄の置物ですの。わたくしが華麗に破壊して差し上げますわ!」


「時間を止めても、装甲が薄くなるわけじゃないですよ」


「細かいことを気にする方ですわね!」


「細かくないと思います」


「レフィーナまで何ですの!」


 その時。


 運搬路の先から、重い足音が響いてきた。


 帝国兵が八人。


 その中央を、三人の技術者が歩かされている。


 両手には枷。


 三人の枷は、一本の鎖で繋がれていた。


 先頭に、魔導装甲機。


 両腕には、手の代わりに大型のブレードが取り付けられている。


「来たぞ」


 セドリックが片手を上げる。


 レジスタンスたちが、仕掛けた鎖を握った。


 そして、魔導装甲機の左脚が鎖の位置に来る。


「今だ!」


 セドリックの合図と同時に、レジスタンスたちが鎖を引いた。


 道の両側から引き上げられた鎖が、魔導装甲機の左脚へ絡みつく。


「敵襲!」


「技術者を逃がすな!」


 帝国兵たちが剣を抜いた。


 レフィーナは岩場から飛び降りる。


「ルミナス・エンチャントブレード!」


 刀身を、淡い光が包み込む。


 振り下ろされた帝国兵の剣を受け流し、その手首を剣の柄で打つ。


 別の兵士が、技術者を盾にしようとした。


 レフィーナは二人の間へ割って入る。


「その方たちから離れてください!」


 光をまとった剣が閃く。


 技術者たちを繋いでいた鎖が断ち切られた。


「走って!」


 しかし。


 魔導装甲機が、強引に動き出す。


 左脚へ絡んだ鎖が、軋みを上げる。


「止めろ!」


 セドリックが叫ぶ。


 レジスタンスたちが鎖を引く。


 それでも魔導装甲機は倒れない。


 胸部の魔導炉が強く輝き、赤い魔力が全身を巡った。


 大型ブレードが持ち上がる。


「させませんわ!」


 ディートリーゼが扇子を杖へ変える。


 杖から、紫色の光が広がった。


「クロノフリーズ!」


 カチリ。


 世界から、音が消えた。


 振り下ろされようとしていた大型ブレード。


 剣を構えた帝国兵。


 走り出した技術者たち。


 風に舞う火山灰さえ、空中で静止している。


 動いているのは、ディートリーゼだけだった。


「おーっほっほ!」


 静止した魔導装甲機を見上げ、高らかに笑う。


「動かなければ、こちらのものですわ!」


 ディートリーゼは杖を両手で握った。


 装甲の薄そうな部分を狙い、勢いよく振り下ろす。


 ――ガキンッ!


「っ……!」


 杖が大きく弾かれた。


 痺れた両手を押さえ、魔導装甲機を睨む。


「ま、まだですわ!」


 腰から短剣を抜く。


 今度は、装甲の継ぎ目へ刃先を突き立てた。


 ――ガッ!


 短剣の先端すら通らない。


「なんでこんなに硬いんですの!?」


 もう一度。


 ――ガキンッ!


「止まっても、壊れない……ですわ~!!」


 誰にも聞こえない停止世界で、ディートリーゼの叫びだけが虚しく響いた。


「時間を止めても、装甲の硬度までは変わらない……」


 ようやく、その事実を認める。


「セドリックの言う通りではありませんの!」


 本人には聞こえていない。


 ディートリーゼは短剣を収めると、魔導装甲機の周囲を見回した。


「破壊できないのでしたら、動き出した時の準備をしますわ」


 まず、技術者たちを一人ずつ道の外へ移動させる。


 次に、右脚の関節へ、レジスタンスが用意していた鉄の楔を挟み込む。


 大型ブレードの軌道を確認し、その下からレフィーナを押し出した。


「まったく。わたくしがいなければ、すぐ無茶をするのですから」


 最後に、近くへ落ちていた黒い布を拾う。


 魔導装甲機へよじ登り、視界用魔導硝子を布で覆った。


 布の端を固く結んで飛び降り、距離を取る。


「これで、どうですの!」


 ディートリーゼが杖を掲げる。


 止めていた時間を解放した。


 カチリ。


 音が戻る。


「うわっ!」


 突然場所を移された技術者たちが、道の端へ転がった。


 魔導装甲機の大型ブレードが振り下ろされる。


 だが、その下にいたはずのレフィーナは、すでにいない。


 巨大な刃が、誰もいない地面を砕いた。


『何だ!? 前が見えない!』


 操縦席から、帝国兵の声が響く。


 機体が移動しようとするが、関節へ挟まれた楔が動きを妨げた。


 金属同士が擦れ合い、甲高い音を立てる。


「レフィーナ!」


 その一方で、ディートリーゼは、その場に膝をついていた。


 長く時間を止め続けたことで、魔力を大きく消耗していた。


「悔しいですが、あれは壊せませんでしたわ!」


「分かりました!」


 視界を奪われた魔導装甲機が、闇雲に左腕を振るう。


 大型ブレードが岩壁を砕いた。


 破片が、周囲へ飛び散る。


「全員、機体の正面から離れろ!」


 セドリックが技術者たちを庇い、岩陰へ誘導する。


 その間にも、レジスタンスたちは左脚へ絡めた鎖を引き続けていた。


「三つ数えたら、一斉に引け!」


 セドリックが鎖を掴む。


「一! 二! 三!」


 魔導装甲機の左脚が、大きく傾いた。


 巨大な機体が、片膝をつく。


「レフィーナ様! 背中だ!」


「はい!」


 レフィーナが地面を蹴った。


 倒れかけた魔導装甲機の肩へ飛び乗る。


 機体の背部。


 何本もの管に繋がれた、格子状の冷却器があった。


 レフィーナは、光をまとった剣を振り上げる。


「飛燕斬!」


 冷却器を断ち切り、地面に着地する。


 砕けた管から、高温の蒸気が噴き出す。


『冷却器が……!』


 魔導装甲機が激しく震えた。


 熱が逃げ場を失い、装甲の内側へ蓄積していく。


 それでも、機体は止まらない。


 視界も奪われ、大型ブレードが闇雲に振り回される。


 やがて、魔導装甲機の全身から黒い煙が上がり始めた。


『だ、駄目だ! 炉がもたない!』


 操縦席が開き、帝国兵が、外へ飛び出した。


 地面へ転がったところへ、セドリックが駆け寄る。


 剣を蹴り飛ばし、その腕を背中へ捻り上げた。


「自分で出て来てくれて助かった」


 操縦者を失った魔導装甲機が、完全に停止した。


     * * *


 残った帝国兵たちを捕らえ、レジスタンスは技術者の枷を外した。


 だが、三人は喜ばなかった。


 互いに顔を見合わせ、不安そうに工場区画の方角を見る。


 年配の技術者が、レフィーナの前へ進み出た。


「助けてくださったことには感謝します……ですが、私たちは戻らなければなりません。家族が……帝国に捕らえられているんです」


 他の技術者も、俯いた。


「私たちが逃げれば、家族が処罰されます」


「ご家族はどこに?」


 レフィーナは尋ねる。


「工場区画の地下にある人質区画です。正規入口とは別に、資材搬入用の古い整備通路があり、その先が人質区画へ繋がっています。技術者の家族だけではありません。工場で働くことを拒んだ職人や、レジスタンスへの協力を疑われた市民も収容されています」


 年配の技術者は、レフィーナへ頭を下げた。


「お願いします。私たちだけが逃げるわけにはいかないんです」


 レフィーナは、技術者に向き合う。


「私たちは皆さんを助けに来ました」


「ですが……」


「ご家族も、捕らえられた方々も、全員助けます。だから、案内してください」


 レフィーナは、はっきりと告げた。


「……分かりました」


 迷いを残していた瞳に、わずかな光が宿った。

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