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プリンセスナイトサーガ  作者: 中津海人
第4章 炎の姫騎士リーザ

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第1話「消えかけた赤い灯火」

 マークをポートハーベンへ送り出し、出発の準備を整えた、その日の夕刻。


 塔の上層観測室。


 円形の部屋の中央に、大きな水晶球が浮かんでいる。


 その内部で、一つの灯火が弱々しく揺れていた。


 炎の姫騎士を示す、赤い灯火。


 今にも消えてしまいそうな光を、レフィーナは見つめていた。


「リーザさんの居場所は分かりますか?」


「炎の国エスティアにいることまでは間違いありませんわ。ただし、その先が見えませんの」


「見えない?」


「何者かが、姫騎士とティアラの反応を覆い隠していますわ。闇の魔力か、それに類する妨害装置でしょうね」


 ディートリーゼが水晶球の表面に指を触れた。


 灯火の周囲に、黒い靄のようなものが浮かび上がる。


 靄は炎を包み込み、外から探られることを拒んでいた。


「無理に探ろうとすれば、妨害に弾かれますの。今のままでは、正確な場所までは分かりませんわ」


「でも、エスティアへ行けば、手がかりは見つかります」


「あなた、その身体で行くつもりですの?」


 ディートリーゼの視線が、レフィーナの肩へ向いた。


 服の下には、まだ幾重にも包帯が巻かれている。


 暗黒の姫騎士との戦いで負った傷は、わずかな休養で消えるものではなかった。


「はい」


「即答しないでくださいまし!」


 ディートリーゼが扇子を広げる。


「傷は塞がり切っていませんのよ。無理をすれば、また開きますわ」


「分かっています」


「分かっている方は、そんな晴れやかな顔で出発しませんわ!」


 レフィーナは困ったように笑った。


「でも、この状況は待ってくれません」


 水晶球の中で、赤い灯火がまた揺れた。


「今も、リーザさんはどこかで耐えているんですよね」


「……そうですわね」


「だったら、行きます」


 ディートリーゼは何か言い返そうとした。


 だが、消えかけた灯火へ目を向け、その言葉を飲み込む。


「まったく……」


 扇子の向こうから、長いため息が聞こえた。


「あなたは、本当に諦めが悪い方ですわね」


「ありがとうございます」


「褒めてませんわ!」


 ディートリーゼは扇子を閉じると、観測室の壁へ向かった。


「まずは、炎の姫騎士を戦力として確保しますわ。帝国へ対抗するには、一人でも多くの姫騎士が必要ですもの」


「はい。リーザさんを助けましょう」


「微妙に言い換えないでくださいまし!」


 ディートリーゼは、壁に刻まれた古代文字に手をかざした。


「時空の塔の固定航路には、エスティアへ通じるものもありますの」


 指先に応じて、古代文字が銀色に光り始める。


 ひとつ。


 またひとつ。


 光は大きな円を描き、その内側に星と歯車の紋様を浮かび上がらせた。


 中央には、炎を象ったエスティア王家の紋章。


「この航路は、エスティア王都近郊にあるソルフレア迷宮へ繋がっていますわ」


「ソルフレア迷宮……」


「古代エスティアの遺構ですの。王都にも近い。情報を集めるには、ちょうどよい場所でしょう」


「そこへ、直接行けるんですよね」


「ええ。以前のイルファリアと同じ、装置から装置への固定航路ですわ。今回の出口が、ソルフレア迷宮に残された古代転移装置ということですの」


 ディートリーゼは壁の紋様を見上げた。


 扇子の柄で、紋様の中央を叩く。


 カチリ。


 古代文字が回り始めた。


 銀色の光が壁から床へ伸びる。


 その先に、細い道が生まれた。


 道の周囲は、夜よりも深い暗闇に包まれている。


 遠くでは、無数の時計の針が星のように流れていた。


「参りますわよ、レフィーナ」


「はい」


 ディートリーゼが先に銀色の道へ足を踏み出す。


 レフィーナも、その後へ続いた。


「前にも言いましたけれど、絶対にわたくしから離れないこと」


「はい」


「道の外へ出るのも禁止ですわ」


「はい」


「傷を隠して、勝手に無理をするのも禁止」


「……努力します」


「そこは『はい』と言いなさいな!」


「はい!」


 二人は銀色の道を進んだ。


 歩いているはずなのに、距離の感覚がおかしい。


 一歩が何歩にも感じられる。


 長く歩いたと思えば、振り返った時空の塔は、まだすぐ後ろにあるように見えた。


 レフィーナは足元だけを見て、ディートリーゼの背中を追った。


 やがて。


 暗闇の先に、淡い白色の光が現れた。


「出口ですわ」


 白い光が二人を包む。


     * * *


 熱を含んだ石の匂いがした。


 レフィーナが目を開ける。


 薄暗い地下。


 赤黒い岩壁。


 壁の割れ目から、熱い蒸気が細く漏れている。


 足元には、今まで歩いてきた航路と同じ、星と歯車の古い紋様が刻まれていた。


「到着ですわ」


 ディートリーゼが周囲を確認する。


 古代転移装置が置かれているのは、四方を岩壁に囲まれた石室だった。


 正面には、半ば崩れた石の扉。


 その向こうに、暗い通路が続いている。


「ここが、ソルフレア迷宮……」


「ええ。あとは迷宮を出て、王都へ向かうだけですわ」


 レフィーナは剣を抜いた。


 刀身に淡い光を宿す。


 暗かった石室の全体が照らし出された。


 転移装置の周囲には、炎を象った古代文字が刻まれている。


 だが、出口を示しているらしい文字は見当たらなかった。


 二人は崩れた扉を抜ける。


 その先で、通路は三つに分かれていた。


「出口は、どちらですか?」


「…………」

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