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プリンセスナイトサーガ  作者: 中津海人
第3章 時空の塔の姫騎士

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第14話「ルミナス・エンチャントブレード」

「開眼!――ルミナス・エンチャントブレード!」


 光が、剣の芯を走った。


 眩しいほどではない。


 けれど。


 澄んだ金色の光。


 刀身の中央を走る細い金色の筋へ、ティアラから流れ込んだ光が真っ直ぐに通っていく。


 振り下ろされる帝国兵の剣。


 レフィーナは、逃げなかった。


 少年の前に立ったまま。


 剣を構える。


 ガキィン――!


「なっ……!」


 金色の光が弾けた。


 今度は。


 押し負けない。


 重い帝国兵の剣を、レフィーナの細身の剣が正面から受け止めていた。


「くっ……!」


 腕は痺れる。


 足も沈む。


 それでも。


 刃は折れない。


 光が、剣を支えている。


 いや。


 ただ強くなっただけではない。


 分かる。


 ティアラの光が。


 剣の中にある道を通っている。


 地下礼拝堂で見た魔法の本。


 あれは、新しい力を与えたのではない。


 教えてくれたのだ。


 自分の光を。


 この剣へ、どう届ければいいのか。


「このっ!」


 帝国兵が力任せに押し込んでくる。


 レフィーナは剣を滑らせた。


 正面から押し返さない。


 相手の力を横へ流す。


 体勢が崩れた。


「飛燕剣・初太刀!」


 踏み込む。


 狙うのは。


 兵士ではない。


 鉄の籠手。


 金色の剣閃が走った。


 ガァンッ!


「ぐっ!」


 先ほどは弾かれた場所。


 今度は違った。


 刃が籠手へ食い込む。


 金属に亀裂が走り。


 留め具が弾け飛んだ。


 帝国兵の剣が手から離れる。


「俺の籠手が……!?」


 レフィーナは止まらない。


 一撃目で開いた。


 なら。


 その先へ。


「飛燕剣・弐の太刀!」


 身体を沈める。


 軌道を変えた二撃目が、胸当てへ向かう。


「ひっ――!」


 兵士の顔が引きつった。


 だが。


 レフィーナの刃は、身体を斬らなかった。


 胸当てを固定している金具。


 そこだけを。


 正確に断ち切る。


 ガシャン!


 重い胸当てが石畳へ落ちた。


 帝国兵が尻餅をつく。


「……え?」


 自分の身体を見る。


 斬られていない。


 血も出ていない。


 ただ。


 武装だけが壊されていた。


 レフィーナは剣を向ける。


「もう、やめてください」


 残る二人の兵士が、一瞬だけ怯んだ。


 だが。


「な、舐めやがって!」


「二人で行くぞ!」


 左右から同時に迫る。


 ディートリーゼは動かなかった。


 扇子の向こうから。


 ただ、見ている。


 先ほどまでとは違う。


 レフィーナの剣。


 その中央を走る金色の光。


 ――なるほど。


 新しい何かを得たわけではない。


 もともと彼女の中にあった光。


 それを。


 自分の意思で、剣へ通した。


 そして。


 その力で狙ったものは――。


     * * *


 一人目の剣が迫る。


 レフィーナは半歩下がった。


 かわす。


 剣が石畳を叩く。


 その腕へ。


「はっ!」


 光の刃を走らせる。


 鉄の籠手が弾け、剣が石畳へ落ちた。


「ぐあっ!」


 もう一人が背後へ回る。


「後ろだ!」


 少年が叫んだ。


 レフィーナは振り返る。


 間に合わない。


 いや。


 届く。


「飛燕斬!」


 金色の剣閃が走った。


 兵士が思わず剣を前へ出す。


 刃と刃がぶつかる。


 次の瞬間。


 帝国兵の剣が。


 根元から折れた。


「な……」


 兵士の顔が固まる。


 レフィーナは踏み込んだ。


 斬らない。


 剣の腹を、胸当てへ叩き込む。


「ぐっ!」


 兵士が後ろへ倒れた。


 その間に、先ほど籠手を失った兵士が剣を拾おうとする。


 レフィーナが先に剣先を向けた。


「動かないでください」


「……っ」


 三人。


 誰も死んでいない。


 誰も斬り伏せてはいない。


 だが。


 剣。


 籠手。


 胸当て。


 帝国兵たちの武装だけが、石畳の上へ散らばっていた。


 少年が呆然とレフィーナを見る。


 レフィーナは、荒い息を整えた。


 剣を握る手はまだ震えている。


 怖くなかったわけではない。


 強くなったから、迷わなくなったわけでもない。


 それでも。


 守れた。


 未来で見た黒い力ではなく。


 自分が選んだ光で。


「その子は」


 レフィーナは帝国兵たちを見る。


「お母さんを助けたかっただけです」


 地面には。


 少年が落としたパンの包みと薬草。


「これ以上、この子を傷つけないでください」


 兵士の一人が歯を食いしばった。


「くそ……」


 レフィーナは剣を下ろさない。


「もう、やめましょう」


「……ふざけるな」


 兵士が低く吐き捨てた。


 その手が。


 ゆっくりと腰へ伸びる。


 ディートリーゼの目が細くなった。


「レフィーナ」


「え?」


「その男――」


 兵士が笛を掴んだ。


「覚えてろよ!」


 ピー――ッ!


 甲高い音が。


 灰色の街へ響き渡った。


「警笛……!」


 レフィーナが顔色を変える。


 遠くから。


 複数の足音が聞こえてきた。


「増援を呼ばれましたわね」


「ご、ごめんなさい!」


「今は謝っている場合ではありませんわ!」


 ディートリーゼが少年を見る。


「あなた。薬を拾いなさいな」


「え……?」


「お母様がお待ちなのでしょう?」


「は、はい!」


 少年が慌てて薬草へ駆け寄る。


 レフィーナも落ちたパンの包みを拾った。


「これも」


「ありがとう、お姉ちゃん……!」


 少年へ渡す。


「行ってください。早く」


 少年は頷いた。


 だが。


 走り出そうとした、その時だった。


 風が。


 止まった。


「……?」


 笛の余韻が。


 途中で消えた。


 遠くから近づいていた兵士たちの足音も。


 ぴたりと止まる。


 レフィーナは顔を上げた。


 昼のはずだった。


 灰色でも。


 空には、まだ光があった。


 なのに。


 通りの奥から。


 夜が染み出してくる。


 黒い霧。


 石畳の割れ目を這い。


 建物の影を呑み込みながら。


 ゆっくりと近づいてくる。


「……何ですの」


 ディートリーゼの声から。


 先ほどまでの余裕が消えた。


「この気配……」


 武装を失った帝国兵たちが。


 突然、顔色を変えた。


「まさか……」


 一人が慌てて膝をつく。


 もう一人も。


 そして三人目も。


 先ほどまでレフィーナへ怒鳴っていた男たちが。


 恐怖に震えながら頭を垂れる。


「暗黒の……姫騎士様」


 黒い霧の中。


 一つの影が現れた。


 黒い外套。


 光を吸い込むような鎧。


 顔を覆う、黒い仮面。


 ゆっくりと。


 こちらへ歩いてくる。


 足音はない。


 それなのに。


 一歩進むたび。


 石畳へ黒い影が広がった。


 レフィーナは剣を構え直した。


「暗黒の……姫騎士……?」


 身体が。


 先に理解していた。


 強い。


 帝国兵とは違う。


 海魔とも。


 古代の人形兵とも。


 まるで違う。


 そこにいるだけで。


 周囲の光そのものが、押し潰されていく。


 暗黒の姫騎士は。


 黒い仮面の奥から。


 静かに、二人を見た。


 レフィーナのティアラ。


 光を宿した剣。


 そして。


 ディートリーゼを。


 ルミナス・エンチャントブレードの金色の光が、小さく震える。


 黒い霧が重圧と共に広がる。


 レフィーナのティアラと剣の光が、暗黒に呑まれようとしていた。

お読み頂き、ありがとうございます。

更新は週2~3回を目安に予定しています。

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