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プリンセスナイトサーガ  作者: 中津海人
第3章 時空の塔の姫騎士

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第8話「時を繋ぐ剣」

 残された二体の人形兵が、同時に動いた。


 左右から迫る石の剣。


 レフィーナは剣を握り直す。


 先ほど開眼したばかりの技。


 飛燕剣・弐の太刀。


 一度はできた。


 けれど、それだけでは自分の剣とは言えない。


「右、三拍遅らせますわ!」


 ディートリーゼの声が飛ぶ。


「左からお行きなさいな!」


「はい!」


 白い杖が振られる。


「クロックディビエーション!」


 右側の人形兵を、紫色の輪が包んだ。


 踏み込む足。


 振り上げた腕。


 振り下ろされる剣。


 すべての動きが、わずかにずれる。


 レフィーナは迷わず左へ踏み込んだ。


 人形兵の剣を紙一重でかわす。


 胸部の紫水晶。


 狙う場所は分かっている。


「飛燕剣・初太刀!」


 剣先が石の装甲の隙間へ滑り込む。


 水晶にひびが走った。


 すぐに紫の光が脈打つ。


 傷が戻り始める。


 さっきと同じだ。


 でも。


 今度は、分かっている。


 レフィーナは剣を引き切らない。


 一撃目の反動を、次の踏み込みへ変える。


 腰をひねる。


 足を踏み替える。


 開いた傷が閉じる、その前に。


「飛燕剣――弐の太刀!」


 二撃目が走った。


 キィン――!


 紫の水晶が砕ける。


 人形兵の身体が硬直した。


 石の腕が落ちる。


 そのまま全身が崩れ、床へ散らばった。


「できた……!」


 今度は偶然ではない。


 自分の意思で。


 自分の足で。


 初太刀から、弐の太刀へ繋いだ。


「余所見をしている場合ではありませんわ!」


 ディートリーゼの声。


 遅らされていた最後の一体が動き出す。


 石の剣が振り下ろされた。


 レフィーナは横へ跳ぶ。


 だが。


「っ……!」


 着地した瞬間、膝に痛みが走った。


 さっきディートリーゼに打たれた場所。


 足から力が抜ける。


 レフィーナは片膝をついた。


 最後の人形兵が、剣を振り上げる。


 間に合わない。


「レフィーナ!」


 ディートリーゼが杖を突き出した。


「止まりなさい!」


 紫の光が弾ける。


 人形兵の剣が。


 止まった。


 完全な時間停止ではない。


 わずか、一拍。


 石の腕は、すぐに動き出そうとしている。


 だが。


 その一拍があれば。


「十分です!」


 レフィーナは床を蹴った。


 人形兵の懐へ飛び込む。


「飛燕斬!」


 剣閃が胸部の装甲を斜めに走った。


 石が弾ける。


 紫の水晶が露出する。


 人形兵の時間が再び動き始めた。


 剣が迫る。


 レフィーナは止まらない。


「飛燕剣・弐の太刀!」


 二撃目。


 露出した水晶へ、刃が届く。


 紫の光が強く明滅した。


 巻き戻ろうとする。


 それより早く。


 剣が中心を貫いた。


 パァン――!


 水晶が砕け散る。


 最後の人形兵が、その場で崩れ落ちた。


 警報音が止んだ。


 赤く明滅していた水晶が、ゆっくりと青白い光へ戻っていく。


 壁の歯車も止まった。


 廊下に。


 ようやく静けさが戻った。


     * * *


「はぁ……はぁ……」


 レフィーナは、その場に膝をついた。


 剣を握る手が震えている。


 肩も痛い。


 膝も痛い。


 息も苦しい。


 けれど。


 剣は離さなかった。


「無茶をしすぎですわ」


 ディートリーゼが近づいてくる。


 白い杖が縮み、扇子へ戻った。


 その扇子で。


 こつん。


 レフィーナの額を軽く叩く。


「あいたっ」


「当然ですわ」


「すみません」


「謝れば済むと思っていますの?」


「思っていません」


「でしたら、もっと申し訳なさそうになさいな」


「ごめんなさい」


「……素直すぎて、怒りにくいですわね」


 ディートリーゼは、大きくため息をついた。


 それから床に散らばった紫色の水晶片を拾う。


 しばらく眺めてから、ぽつりと言った。


「ですが」


 レフィーナが顔を上げる。


「今の技は、悪くありませんでしたわ」


「飛燕剣・弐の太刀……」


 自分でその名を口にする。


 初太刀とは違う。


 一撃で届くための剣ではない。


 一度届いた場所から。


 さらに、その先へ繋ぐ剣。


 ディートリーゼは、水晶片を指先で転がした。


「一撃目で核に傷をつけ、時間が巻き戻る前に、二撃目で砕く。随分と乱暴な理屈ですわ」


「乱暴、ですか?」


「ええ。とても」


 ディートリーゼは扇子を開く。


「けれど、あなたらしいですわ」


 レフィーナが瞬きをする。


「一度で駄目なら、もう一度……戻されても、また踏み込む」


 扇子の向こうで、その瞳が少しだけ細くなった。


「本当に、諦めが悪い方ですこと」


 レフィーナは、少しだけ笑う。


「先生にも、よく言われました」


「ですわよね」


 ディートリーゼは呆れたように言った。


 けれど、その声は以前より柔らかかった。


     * * *


 その時。


 崩れた人形兵の向こうで、壁の水晶が静かに光った。


「……?」


 レフィーナが振り返る。


 青白い光が、一本の線となって壁を走る。


 止まっていた歯車が、ゆっくりと回転を始めた。


 カチ。


 カチ、カチ――。


「防衛機構が停止したことで、中枢記録の一部が復旧したようですわね」


 ディートリーゼが水晶へ近づく。


 光が空中へ広がった。


 大きな水晶球のような映像が形成される。


 その中に。


 六つの光が浮かび上がった。


 一つは、すぐ近くにある金色。


 レフィーナのティアラと呼応するように輝いている。


 そして。


 残る五つ。


 赤。


 青。


 緑。


 黄土。


 白。


 遠く離れた場所で。


 弱く。


 それでも確かに、灯っていた。


 レフィーナは息を呑む。


「これは……」


「ティアラの反応ですわ」


 ディートリーゼの表情から、先ほどまでの軽さが消える。


「ティアラ……」


 レフィーナは五つの光を見つめた。


「ほかの姫騎士様たち……ですか?」


「ええ」


 ディートリーゼは静かに答える。


「炎」


 赤。


「水」


 青。


「風」


 緑。


「大地」


 黄土。


「そして、聖」


 白。


「本来なら、それぞれの国を守っているはずの姫騎士たちですわ」


 レフィーナは言葉を失った。


 五つの光。


 どれも弱い。


 まるで、遠くから助けを求めるように揺れている。


 その中でも。


 赤い灯火が、大きく揺らいだ。


 一度。


 二度。


 そして、急激に弱くなる。


 今にも消えてしまいそうだった。


「炎の灯火が……」


 ディートリーゼの目が鋭くなる。


「弱りすぎていますわね」


 レフィーナは、水晶球へ一歩近づいた。


「助けに行けませんか?」


 ディートリーゼは答えなかった。


 赤い灯火を見る。


 青。


 緑。


 黄土。


 白。


 五つの可能性。


 だが。


 その前に、確かめなければならない。


 目の前にいる、この少女自身のことを。


 ディートリーゼは静かに扇子を閉じた。


「その前に」


 レフィーナが振り返る。


「あなたに、見せるべきものがありますわ」


「見せるべきもの……?」


 ディートリーゼは、疲れた目でレフィーナを見た。


「あなたが、なぜここに来るべきではなかったのか」


 一拍。


「それを知ってから、考えなさいな」


 水晶の奥で、五つの灯火が明滅している。


 赤い光は。


 消えそうになりながらも、まだ燃えていた。

お読み頂き、ありがとうございます。

更新は週2~3回を目安に予定しています。

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どうぞ宜しくお願い致します。

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