↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
プリンセスナイトサーガ  作者: 中津海人
第3章 時空の塔の姫騎士

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/76

第4話 塔に潜む影

「わたくしの根負けですわ」


 レフィーナは、息を切らしながら顔を上げる。


「では……」


「勘違いしないでくださいまし」


 ディートリーゼは扇子を広げた。


「認めたわけではありませんわ。あなたがあまりにも諦めが悪いので、これ以上続けるのが面倒になっただけですの」


 レフィーナは、少しだけ笑った。


「ありがとうございます」


「礼を言うところではありませんわ!」


 ディートリーゼは鋭く言った。


 その声に、レフィーナははっとする。


「マークさんは……!一緒に来た男の子は無事ですか!」


 ディートリーゼは扇子の向こうで目を細めた。


「塔の一階の客室で保護していますわ。時空の乱流に巻き込まれかけていましたので」


 レフィーナの顔が、ぱっと明るくなる。


「よかった……!」


「外へ放り出せば、海へ戻る前に時間の迷子になりますもの。別に、親切で助けたわけではありませんわ」


 レフィーナは、素直に言った。


「でも、助けてくれたんですね」


 ディートリーゼの肩が、ぴくりと動いた。


「……本当に、調子が狂いますわね」


     * * *


 ディートリーゼは、部屋の空中に浮かぶ水晶の一つを見上げた。


 水晶は鈍く明滅している。


 その奥で、波のようなものが何度も同じ形に戻っていた。


「それと、残念なお知らせですわ」


 ディートリーゼは言った。


「あなた方は今夜、この塔から出られませんわ」


 レフィーナは驚く。


「どうしてですか?」


「さっきも言った通り、島の周囲に時空の乱流が出ていますの。今、船を出せば、同じ海域を何度も彷徨うだけ……悪ければ、昨日と明日の狭間に取り残されますわ」


 レフィーナは少し困った顔をした。


 けれど、すぐに頭を下げる。


「それなら……一晩だけ、お世話になります」


「なりませんわ」


 ディートリーゼは即答した。


 少し間が空く。


 レフィーナは、困ったように笑った。


「でも、外には戻れないんですよね?」


 ディートリーゼは言葉に詰まる。


 そう。


 外へは出せない。


 本音では帰ってほしい。


 けれど、今追い出せば、時空の乱流に呑まれる。


 殺せない。


 追い返せない。


 ならば、残すしかない。


 ディートリーゼは背を向けた。


「……勝手にしなさいな」


 声が、少しだけ尖る。


「ただし、上の階へ入ってはなりませんわ。水晶にも触れては駄目。余計なものを見て、余計なことを知って、泣かれても困りますもの」


 レフィーナは、ぱっと顔を明るくした。


「ありがとうございます!」


「礼を言われる筋合いはありませんわ」


 ディートリーゼは振り返らない。


 レフィーナは少しだけ首を傾げた。


「ディートリーゼさんは、優しいですね」


 ディートリーゼの肩が、ぴくりと動く。


「は?」


「マークさんを助けてくれました。私も、追い出さないでくれました」


「勘違いしないでくださいまし!」


 ディートリーゼは勢いよく振り返った。


 扇子で口元を隠しながら、目だけは少し怒っている。


「あなた方が外で遭難されると、後味が悪いだけですわ!それ以上でも、それ以下でもありませんの!」


 レフィーナは素直に頷いた。


「はい」


「はい、ではありませんわ!」


「でも、ありがとうございます」


 レフィーナはもう一度、丁寧に頭を下げた。


 その姿を見て、ディートリーゼは言葉を失う。


 怒る理由はいくらでもあった。


 追い返す理由もあった。


 殺す理由さえ、あった。


 それなのに、今の自分は何をしているのだろう。


 未来で世界を滅ぼす少女に、寝床を用意しようとしている。


 自分でも、馬鹿げていると思う。


 それでも、足は動いた。


「……ついて来なさいな」


 ディートリーゼは、横へ続く廊を歩き出した。


「寝床くらいは用意して差し上げますわ」


「はい!」


 レフィーナは小さく笑って、その後を追った。


     * * *


 石の廊下は、思ったよりも長かった。


 壁には、歯車を模した窓が並んでいる。


 窓の向こうには、空ではなく、星のような光の流れが見えた。


 昼なのか夜なのかも分からない。


 時計の針だけが、壁の奥で静かに回っている。


 レフィーナは、ディートリーゼの後ろを歩きながら、周囲を見回した。


 不思議な塔だった。


 美しい。


 けれど、どこか寂しい。


 人の気配がない。


 長い間、誰か一人だけがここにいたような、冷えた静けさがあった。


 その途中、レフィーナは小さな祭壇のような場所に気づいた。


 壁のくぼみに、古びた水晶が置かれている。


 表面には細かなひびが入り、内側で淡い光が揺れていた。


 レフィーナは足を止める。


「あれは……?」


 水晶の中で、一瞬だけ黒い炎のようなものが揺らいだ。


 その奥に、誰かの影が見えた気がした。


 金色の髪。


 額のティアラ。


 けれど、輝きは黒く濁っている。


「触れてはなりませんわ!」


 鋭い声が飛んだ。


 レフィーナは驚き、伸ばしかけていた手を引いた。


「ご、ごめんなさい!」


 ディートリーゼは、すぐに表情を取り繕った。


「……古い装置ですわ。壊れたら困るだけですの」


「はい。触りません」


 レフィーナは素直に頷いた。


 だが、ディートリーゼの手は、扇子を握ったまま小さく震えていた。


 水晶の中の黒い影は、もう消えている。


 何もなかったように、古びた光だけが揺れていた。


 レフィーナは少しだけ不安そうに水晶を見つめる。


 ディートリーゼは、そんな彼女から目を逸らした。


「行きますわよ」


「はい」


 二人は再び歩き出す。


 時を止める少女は、未来を知らない光の少女を、塔の奥へ連れて行った。

お読み頂き、ありがとうございます。

更新は週2~3回を目安に予定しています。

感想・評価・ブックマークを頂けると、今後の執筆の励みになります。

どうぞ宜しくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。