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プリンセスナイトサーガ  作者: 中津海人
第2章 旅立つ光

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第18話「信頼の刃」

 ミッドベルン中部。


 ファルスヴェール大草原。


 見渡す限り、草原だった。


 遠くには、白い塔を持つ王城が見える。


 風は冷たく、空は高い。


 その広い平原に、ミッドベルン軍は整然と並んでいた。


 中央にはセリア。


 右にジャン。


 左には、ラーフェン。


 帝国軍は、現れない。


 兵の列も。


 怪物の群れも。


 魔導砲もない。


 ただ。


 平原の向こうに、一人の女が立っていた。


 黒い鎧。


 黒い外套。


 地面へ突き立てた大剣。


 暗黒の姫騎士。


「……一人か」


 ジャンが、低く言う。


「罠です」


「分かっている」


 セリアは答えた。


 だが、その目は揺れない。


「だからこそ、私が行く」


「姫様!」


「軍を動かすな」


 セリアは、大剣を抜く。


「正々堂々、一騎打ちだ!」


 白銀の鎧が、平原を駆ける。


 暗黒の姫騎士も、大剣を引き抜いた。


 白と黒が、中央でぶつかる。


 轟音。


 衝撃が、草原を揺らした。


 黒い魔力が、大地を裂く。


「ダーク・エンチャントブレード!」


 白い聖気が、それを押し返す。


 暗黒の姫騎士の剣は重い。


 受けるだけで、腕が痺れる。


 けれど、セリアは退かない。


「セイクリッド・エンチャントブレード!」


 白い光が、大剣を包む。


 次の瞬間。


 刃の周囲に、炎が走った。


 さらに、氷の粒が舞う。


 風が、セリアの足を押し出す。


 雷が、剣身を走る。


 全属性。


 聖の根源から引き出される、万能の力。


 暗黒の姫騎士が、初めて一歩退いた。


「聖王剣・十文字斬!」


 白い斬撃が、二つ重なる。


 黒い外套が裂ける。


 暗黒の姫騎士は、大剣で受けた。


 だが、足元の土が深く沈む。


 暗黒の姫騎士は、押し返す。


「ダーク・リヴェリオン!」


 闇の力が襲い掛かる。


 セリアは迎撃する。


「聖王剣・ホワイトファング!」


 白い光が、牙のように連続して突き出される。


 一撃目で闇の力を払い、二撃目で攻撃。


 暗黒の姫騎士は避ける。


 けれど、逃げ道を風が塞ぎ、氷が足元を縛る。


 雷が、黒い鎧を打つ。


 平原の端で見ていた兵士たちが、息を呑む。


「押してる……!」


「セリア様が、暗黒の姫騎士を……!」


 暗黒の姫騎士が大剣を上段に構え、黒い力を集結させる。


 大地が軋む。


 だが。


 セリアもそれを受け止めるべく、大剣を上段に構える。


「私は、一人で戦っているんじゃない」


 白い光が、強くなる。


 後方の兵たち。


 傷ついた兵。


 城壁を守った者。


 自分を信じて立った者。


 そのすべての意思が、胸の奥へ集まる。


「――ゴッド・ジャッジメント!」


 空が白く染まった。


 平原を覆うほどの聖光が、大剣へ落ちる。


 セリアの一撃が、暗黒の姫騎士を弾き飛ばした。


 黒い鎧が砕ける。


 暗黒の姫騎士の身体が、地面へ叩きつけられた。


 白い光が、平原の中央に残る。


 ミッドベルン軍から、歓声が上がった。


「勝った!」


「セリア様が勝った!」


 ジャンも、思わず剣を握りしめる。


 だが。


 次の瞬間だった。


 背後から。


 ドン、と鈍い衝撃が走った。


「がはっ……!?」


 セリアの身体が、大きく揺れる。


 白銀の鎧の背が裂ける。


 激しい痛みが、背中から胸へ突き抜けた。


 彼女は、ゆっくりと振り返る。


「……ラーフェン?」


 そこにいた。


 ラーフェンの身体が。


 けれど、その目は。


 人間のものではなかった。


 赤く濁り。


 瞳孔は細く裂け。


 口元からは、獣のような息が漏れている。


 その手にした長剣が、セリアの鎧を貫いていた。


「ラーフェン……」


 セリアは、大剣を振れなかった。


 目の前にいるのは、敵ではない。


 命を救った部下。


 自分を支え続けた騎士。


 ラーフェンの姿をしていた。


 長剣が引き抜かれる。


 セリアの膝が折れた。


「姫様!」


 ジャンが駆け出そうとする。


 だが、平原の地面から黒い鎖が伸びた。


「シャドウ・バインド」


 ジャンの足を絡め取り、動きを止める。


「離せ!」


 ジャンが剣を振るう。


 だが、黒い鎖は切れない。


 倒れていたはずの暗黒の姫騎士が、ゆっくりと立ち上がった。


「……惜しかったな、セリア」


 声は、いつも通り冷たい。


「お前は強い」


 暗黒の姫騎士は、傷ついた鎧を押さえながら歩いてくる。


「だから、正面から倒すことはできなかった」


 セリアは、膝をついたまま大剣を握る。


「ラーフェンに……何をした」


「我が身を囮とする危険な策だった」


 暗黒の姫騎士は言った。


「だが、ぎりぎりで勝てたか」


 仮面の奥から、セリアを見下ろす。


「最強のお前を倒すには、お前が最も信頼した部下の肉体を使うしかなかった」


 セリアの指が震える。


「脳は、ゴブリン系エボルモンスターのものへ置き換えた」


 暗黒の姫騎士は、淡々と続けた。


「ラーフェンという人間の判断も、記憶も、命令系統も消した」


「……っ」


「残ったのは、使える肉体だけだ」


 セリアは、ラーフェンを見た。


 彼は、獣のように唸っている。


 けれど。


 ほんの一瞬だけ。


 その目が揺れたように見えた。


 暗黒の姫騎士は、セリアの額へ手を伸ばす。


「聖のティアラは、こちらで預かる」


「やめろ……!」


 セリアが、手を伸ばす。


 だが、黒い鎖が腕を絡め取る。


 ティアラが外された。


 白い光が、平原へ弾ける。


 セリアの身体から、力が抜ける。


 その瞬間。


「ガ、ガァァァァーーーッ!!」


 ラーフェンが、吠えた。

お読み頂き、ありがとうございます。

更新は週2~3回を目安に予定しています。

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どうぞ宜しくお願い致します。

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