表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】1000匹狩ればスキルMAX。ドラゴンという絶壁を前に、子供になった元部長が導き出した――「生存戦略」  作者: 月城 蓮桜音


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
30/50

第30話 「暖かい」で、良かったのに

 氷の粒が消え、空気がようやく静かになった。私は凍えた指を握りしめながら、白い世界の先へ進む。少し歩くと――また、白いアーチが見えた。

 

「……またかよ」

 

 さすがに勘弁してくれ。寒いのは、もう十分だ。私は警戒しながら近づいた。だが、数歩で違和感に気づく。白いのに、熱い。頬がじりじりと焼ける。息が熱い。鼻の奥に、石の焦げたような匂いが混じった。


 ……痛い。だが、すぐに痛みが引いていく。さっきのアイスハザードで切れた頬の傷も、もう塞がっていた。スキルMAXの『自然回復魔法(自動スキル)』が働いている。小さな怪我なら、十分もあれば勝手に治る。

 

 ――あの時、投げ出さずにカンストさせて良かった。


 アーチをくぐろうと近づく。白だと思っていた。……だが、違った。白いのは、表面に張り付いた氷のせいだ。そして、その氷の下から覗いていたのは――赤。これは白い石で作られたアーチではない。赤い石で作られたアーチだった。

 

「……灼熱ハザード?」

 

 私は足元を見た。黒い岩肌の割れ目から、赤い光が漏れている。地面が熱を持っている。足を着けたままでは火傷しそうだ。私は跳ねるように進みながら、揺らぐ空気の奥を睨んだ。


 熱が“吹く”というより、地面から“噴き上がる”。割れ目が赤く脈打ち、一定の間隔で熱波が襲ってくる。

 

「これも自然じゃない……誰かが操作してる」

 

 その時だった。前方の岩陰から、赤い影が飛び出した。小さな翼がある。鱗が赤い。

 

「……ドラゴン!?」

 

 次の瞬間、そいつは口を開いた。

 

 ――ゴォッ!

 

 火の息。真正面から熱が叩きつけられ、私は反射的に身を捻った。

 

「うわっ!!」

 

 熱が頬を叩き、髪が焦げる匂いがした。私は即座に手を振る。

 

「《ウォーター》!」

 

 水をぶちまけ、蒸気で視界が白くなる。――熱い。熱いけど、皮膚が焼けるよりマシだ。私は蒸気の向こうを睨みつけた。

 

「おい! お前が犯人か!」

 

 赤い影は、ぷいっとそっぽを向くように旋回し――

 

「ピューッ」

 

 そんな擬音が似合う速度で逃げた。

 

「待て!」

 

 私は《ウィンド》で身体を軽くし、跳ねる速度を上げる。氷の靴を作ってみたが、一瞬で溶けて意味をなさなかった。だから私は、足を置く時間をさらに短くする。『トン、トン、トン!』まるで熱い鉄板の上を走るみたいだ。いや、実際に熱い鉄板だ、これ。赤いドラゴンは、岩陰に隠れた。

 

「逃げるな!」

 

 私が追いかけて回り込んだ瞬間――

 

 ――ゴォッ!!

 

 今度は横から火が来た。

 

「くっ!」

 

 私は《アイスシールド》を展開する。

 

「《アイスシールド》!」

 

 氷の盾は、一瞬で削れて溶けた。蒸気が上がり、盾が消える。

 

「ちっ! やっぱり灼熱相手に氷は無理か!」

 

 私は舌打ちし、代わりに水を撒く。

 

「《ウォーター》!」

 

 火が水蒸気に変わり、熱が散る。完全に防げないが、直撃は避けられる。赤いドラゴンは、また逃げた。

 

「……っ、何なんだよお前!」

 

 逃げる。でも戻ってくる。攻撃してくる。でも、殺しに来ている感じじゃない。狙いが甘い。当たっても、致命傷にはならないように外している。

 

「……これ、私に追わせたいのか?」

 

 私はふと、背筋が冷えた。嫌な予感じゃない。“気づき”による冷えだ。赤いドラゴンは、わざと逃げている。わざと戻ってきて、私の注意を引いている。まるで――「こっち! こっち!」とでも言うみたいに。私は息を吐き、剣を抜いた。

 

「……分かったよ」

 

 追いかけてほしいなら、追いかけてやる。私は地面の割れ目を見ながら走った。熱が噴き上がるタイミングを読む。トンッ! 噴き上がりの直前に跳び、空中で《ウィンド》を強める。

 

「《ウィンド》!」

 

 身体がふわりと浮く。熱の柱を上から越える。着地は短く。足裏が焼ける前に次へ。赤いドラゴンは、ちらりと私を振り返った。

 

『……!』

 

 目が、少しだけ嬉しそうに見えた。

 

「……おい。まさか」

 

 私は眉をひそめる。こいつ、遊んでるんじゃない。必死なんだ。赤いドラゴンは、やがて大きな岩場へ飛び込んだ。岩の裂け目から、赤い光が漏れている場所。火口に近い。私はそこで、足を止めた。

 

「……ここか」

 

 熱で空気が歪む。地面の割れ目が、ゆっくりと脈打っている。赤いドラゴンは岩の上に止まり、こちらを見た。逃げない。代わりに、短く鳴いた。

 

『……グゥ』

 

 怒りじゃない。威嚇でもない。――頼む。そう言っているみたいだった。私は剣を下ろし、慎重に一歩近づいた。

 

「……何がある」

 

 赤いドラゴンは、翼で岩の下を示した。私は目を凝らす。そこには――黒い塊があった。溶岩が冷えて固まったような、硬い岩の塊だが、その形は不自然だ。中に何かがいる。

 

「……まさか」

 

 私はしゃがみ、岩の塊に触れた。熱い。だが、表面はもう“焼ける”ほどではない。そして、かすかに動いた。……中で。

 

「閉じ込められてるのか」

 

 赤いドラゴンが、ぐっと喉を鳴らした。私は状況を理解した。こいつは火口近くで昼寝していた仲間を助けたい。だが、溶岩が流れて――冷えて固まり、動けなくなった。力で壊せない。熱すぎて近づけない。だから、外から来た私に気づいて――追わせた。私は、口元を引きつらせた。

 

「……助けてほしいなら、最初からそう言えよ」

 

 言えるわけないか。ドラゴンだし。私は深呼吸して、手をかざした。この塊を割るには、力任せは危険だ。中の仲間を傷つける。なら――冷やして、割れやすくする。火山の岩は、急冷すると割れる。私は掌を向けた。

 

「《ウォーター》」

 

 岩の塊の表面に、水を薄くまとわせる。次の瞬間――

 

「《フリーズ》!」

 

 水が一気に凍り、表面が急激に冷える。ピキッ。小さな亀裂が走った。

 

「……よし」

 

 私はもう一度繰り返す。

 

「《ウォーター》……《フリーズ》!」

 

 ピキ、ピキ、ピキッ。亀裂が広がる。だが、次の瞬間――岩の割れ目から熱が噴き上がった。

 

「っ!」

 

 私は反射的に《ウィンド》で身体を浮かせ、熱を避ける。着地して、また冷やす。

 

「《ウォーター》!」

 

 蒸気が上がる。熱い。目が痛い。でも、手は止めない。――守ってるだけじゃない。助けるんだ。私は最後に、剣を抜いた。力任せに叩き割るんじゃない。亀裂に沿って、正確に。

 

「……いくぞ」

 

 スッ。刃を滑らせる。パキン、と音がして、岩の塊が割れた。中から、赤黒い小型ドラゴンが転がり出る。

 

『……ぐぅ……』

 

 生きている。動ける。でも、熱で弱っている。赤いドラゴンが駆け寄り、鼻先を擦りつけた。私は、思わず息を吐いた。

 

「……助けたぞ」

 

 その瞬間、周囲の熱波が、ふっと弱まった。灼熱ハザードの強さが落ちる。割れ目の赤い脈動も、少し落ち着いた。やっぱり……こいつらが原因だったんだな。


 赤いドラゴンが、私を見た。そして――ぷいっと顔を逸らした。さっきまで散々攻撃してきたくせに、急に照れているようだ。

 

「……お前さぁ」


 私は笑ってしまった。赤いドラゴンが、小さく鳴いた。

 

『……グゥ』

 

 私は剣をインベントリにしまい、短く頷いた。

 

「もう火、吐くなよ。危ないから」

 

 赤いドラゴンは、こくりと頷いた……ように見えた。私は熱で乾いた喉を鳴らし、前方を見据える。

 

 まだ、進まなきゃいけない。でも少なくとも、ここは通れる。私は息を整えた。

 

 ――次のアーチが、すぐそこに見えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ