第31話 ドラゴンに『ヤバい人』認定される
次のアーチをくぐった瞬間、空気が変わった。鼻の奥がツンとする。目が少しだけ痛い。
「……毒、か」
だが、私はもう『ミズホ』で毒に慣れている。毒抵抗系のスキルを複数持っているが、すべてMAXだ。正直、毒だけであれば、次のアーチまでは――散歩みたいなものだった。
そう思った瞬間。前方の岩陰から、影がいくつも飛び出した。小型のドラゴン。鱗の色は濁った紫。口元が妙に湿っている。ヨダレが緑色、か?
「……またドラゴン!?」
次の瞬間、そいつらが一斉に口を開いた。――シュゥゥゥッ! 霧のような毒が、矢のように飛んでくる。空気がざらつく。喉が焼けるように痛い――はずなのに、平気だ。
「うわっ、服!!」
私は反射的に身を捻った。毒は効かない。だが、服が溶けるのは困る。
「《アイスシールド》!」
薄い氷の盾を展開し、毒を弾く。氷がじゅっと溶け、白い煙が上がった。
「ちょっ、やめろって! それ、私じゃなくて服に効いちゃうから!」
私は跳ねるように動き、当たる直前でヒラリと毒を避ける。右へ。左へ。前へ。後ろへ。必死に逃げているだけなのに、ドラゴンたちは何故か慌てたように、毒を吐き続けた。
『……!?』
毒を吐く。外れる。また吐く。また外れる。私は剣を抜いた。斬るためじゃない。距離を取らせるためだ。
「ほら、そっちはダメだって!」
ひらり、と身体を捻る。毒が岩に当たり、表面がじゅっと溶けた。
「……うわ。岩まで溶けるの、やばくない?」
そう呟いた瞬間、一本だけ遅れて飛んできた毒が――腕をかすった。
「……っ」
肌が、じわっと熱い。次の瞬間、片腕の服が溶けて、だらりと垂れた。
「……あああああ!」
私は腕を見て固まった。……服が。服がやられた。この後、ボスドラゴンと会って交渉しなければならないのに……。着替えなんか持ってきてないぞ? インベントリに入れておけば良かったか? まあ、でも。毒そのものは、何も効いていない。痛みも、痺れもない。むしろ、さっきの灼熱より楽だ。
「……毒、効かないんだよな。私」
ケロッとしている私を見て、毒ドラゴンたちがピタリと固まった。
『……えっ?』
そんな顔だ。完全に「えっ?」って顔をしている。次の瞬間、ドラゴンたちは翼をバタつかせ――
「ピューッ」
またしても、その擬音が似合う速度で逃げた。
「……待て! 待て待て待て!」
私は追いかけようとして、すぐにやめた。追いかけたら、もっと服が溶けるだろうと思ったのだ。
「はぁ。なんだか……私がヤバい人みたいじゃないか……」
私は溶けた袖をつまみ、ため息をついた。毒が効かないだけなんだけど。別に、好きで無効化してるわけじゃないんだけど。
……いや、スキルMAXにしたのは私か。私は気を取り直し、前を見た。毒の池の向こうに、さらに奥へ続く道が見える。
そして――次のアーチに手を伸ばした、その瞬間。
『ほお……ここまで辿り着くとはな』
声がした。頭の中に直接響く、重たい声だ。
『良いだろう。我への謁見を許そう』
「……は?」




