第21話 君は……君こそ魔王だ。
いきなり「次はドラゴンと戦え」と言われた私は、その場で固まり、声すら出せなかった。君、やっと話せるようになったと思ったら、めちゃくちゃな無茶振りをしてくれるね!?
「まあ、すぐにとは言わないさ。ただ……次に相手をするのはドラゴンであることを理解した上で、挑んでほしい」
「いやいや、ちょっと待って!? まだ『森』と『ミズホ』の【図鑑】を埋めただけだよね!?」
「うん? 『ミズホ』とな?」
「ああ、『ミアズマホール』のことですよ。長いから、そう呼んでいるんです」
ジルが丁寧に補足してくれる。が、そこではない。たしかに七年間、必死に【図鑑】を埋めてきたが、私はただの十五歳の少年なのだ。
「あー。たしかに、そうだねえ。成人してない子に、いきなりドラゴンと戦えなんて、虐待とか言われるのだろうか? フェリスランドの成人は十六歳。あと一年あるね。その間に腹を括っておくれ。その間に、わたくしもやるべき仕事を片付けなければならないしね」
二足歩行の猫は、たった一年でドラゴンを斃せるようになると思っているのだろうか? その前に、私が斃すことが前提なのはどうなのさ!
「いやいや、待って!? それって、私に選択権はないの!?」
「「ない」」
ジルと猫の声が重なった。
「拒否権すら、ないのか……」
私の呟きに、猫は静かに頷いた。
「ない。貴殿は――そのために選ばれた」
「シュン、何を戸惑うことがあるんだい? 君は『ミアズマホール』の最下層まで、初めて到達した猛者なのに。『神託の宝箱』すら開けて、こうやって帰って来れただろう?」
「あの祭壇の宝箱、名前があったのですね……」
「ジル、喋りすぎだ。シュン、これはこの世界を救うために必要なこと。あと数年で、ドラゴンとの全面戦争が起こると神託が下ったのが二十年前。ようやくドラゴンと渡り合える〝核〟を持つ貴殿を探し出したのだ。頑張ってくれ給え」
「え……? 私はそのために、この世界へ呼ばれたのですか?」
「うん? 説明しなかった……ああ、時間がなくて、そこまで説明していなかっただろうか。すまないね、シュン。だが、現実はこんなものさ」
「えええ――っ!? それ、本気ですか? 私に一人でドラゴンを退治しに行けと?」
「ああ、もちろんだ。冗談でも何でもない。これは決定事項なのだよ、シュン」
「……嘘だろ」
口から漏れた声は、自分でも驚くほど乾いていた。猫は当然のように言う。
「嘘ではない。準備を始めよ、シュン」
「……勘弁してくれ」
思わず、前世の口調が漏れた。十五歳の喉から出た声とは思えないほど、渋く、疲れていた。しかし、猫は有無を言わせない視線で私を見据える。
「一年後だ。逃げるなよ、シュン」




