第16話 有能な相棒
ダンジョンの入り口で詰まった息は、すぐに楽になった。なぜだろうと首を傾げていると、肩に乗っていた猫が、自分のステータスを開いてみせた。
「え、君もステータス画面あるの!?」
そこじゃない、と呆れた顔をする猫。まさか、人生二周目で猫にダメ出しされるとは……。まあ、自分のステータスを見ろと言いたいのであろうことは理解したので、自分のステータスを開く。
「【図鑑】が光ってるな」
今度は【図鑑】を開く。すると、『毒』に関係しているスキルが赤く表示されていた。
「まさか、森で得たスキルに助けられたのか。もしかして、あの森をクリアできていなかったら、このダンジョン『ミズホ』には入れなかったのか」
ちゃんと理由があったんだな、と安心する。ジルは悪い人ではないことは理解している。ただ……なぜ、ダンジョンがあることを教えてくれなかったのか、とても気になっていた。
「まあ、聞いても教えてくれないんだろうからね。とりあえず、進めるところまで進んで、必要なスキルを上げつつレベル上げしていこう」
私はどんどん進んで行く。このダンジョンは地上から、地下に向かって進むタイプで、最下層にはまだ誰も到達していないらしい。
「よし、これで十五階まで降りて来たかな。そろそろ昼飯の時間だろうか」
インベントリから弁当を取り出す。すると……、
「シャ――ッ!」
私はビクリと肩を揺らす。私の動きが止まったところで猫が、弁当を叩き落とした。何てことだ。せっかくエリスさんが持たせてくれたのに! ムッとした顔で、私は猫を睨む。すると、猫は小さなねずみの魔物を咥えてきて、私の弁当を与えた。
「ギュエッ!ギュギュッ、ギュッ、ギュ――」
弁当を食べたあと、苦しそうに呻いていたねずみは、パタンと倒れて動かなくなった。あ、もしかして、食べ物は空気中の毒に侵されるのか!
「危ないところだったんだね。怒って悪かった。助けてくれて、ありがとう」
私は申し訳なさそうに、猫に頭を下げて謝った。猫は「気にするな」と、右前足を振ってくれた。……人間っぽい仕草というか、ジェスチャーが上手い猫だよなあ。
「しかし、これでは食事が摂れないな。腹が減っては戦ができぬと言うし……」
「にゃー」
猫は私に声をかけ、防御魔法を自分を中心に広げて見せた。
「なるほど! 毒の入らないスペースを広く取って、その中でインベントリを開けば良いのか! さすがだね。教えてくれて、ありがとう!」
これからは防御魔法をしっかり展開してから弁当を食べようと、心に誓ったのだった。
★★★
そんな我々は、私の空腹が限界になるまで狩りを続けることにした。あれから三時間ほど経った。地下三十階まで来たのだが、もう冒険者の姿は見かけなくなっていた。いや、魔物としかすれ違わなくなっていたのだった。
「ふむ。なあ、相棒。一度戻ってスキル確認しないか? 『毒』に関わるスキルを強化してから先に進むほうが良さそうだと……『虫の知らせ』って分かるかい?」
猫は鷹揚に頷いた。え、本当に分かるんだ? すごいな。まあ、それなら私の言いたいことは通じているのだろう。猫は、降りてきた階段に向かって首をクイッと動かした。「帰るぞ」と言っているようだった。
「あはは。ここまで人間っぽいと、君が猫の姿でもまったく困らないね。まさか、猫と意思の疎通が取れる日が来るとは思わなかったけどね」
それから一時間。普段は二階の自室までしか階段を上り下りしない私は、ぜいぜいと肩で息をしながら、入り口が見えてきた残りの段を必死に上っていた。
「あと少し!」
ラストスパートだと気合を入れる私の肩から、猫はふわりと軽く舞い上がり、入り口から出て行く。
「あ……」
三十階分の階段を、わざわざ歩いて上った私は、少し先で止まり振り向いた猫の顔をじっと見つめる。
「……たぶん、あれは『体力つけろ』って顔だな」
そして「早く来い」とでも言うように、猫はまた首をクイッとして見せた。




