第13話 『魔力』と『魔力切れ』
眩しい光に、私は目を覚ました。どうやら、お日様がてっぺんにあるらしい。……ああっ! 早朝の水汲みをサボってしまった! 私は慌ててエリスさんに謝ろうと立ち上がる。が、次の瞬間――
「ドテッ!」
何てことだ……。私は立ち上がることすらできなかった。
「何の音だい!? シュン、大丈夫かい!」
「あ、エリスさん! その、水汲み、できなくて……」
「そんなことは良いんだよ! 今は、体の調子を戻さなきゃダメさ! 早く元気になるんだよ!」
「は、はい……」
私は、胸の奥がじんと熱くなり、目尻に涙が滲んだ。
「ジルがもうすぐ来るからね。先に何か食べられそうなら持ってきてあげるけど、どうだい?」
「あ……はい。お腹、減りました。猪のシチューがあったら、それを食べたいです」
「シュンはシチューが好きだねえ! すぐに持ってきてあげるよ」
「あ、ありがとうございます」
笑顔で部屋を出て行くエリスさんに、心から感謝した。
★★★
シチューを食べ、ホッと一息ついた。この世界に来た日から、何となく立ち止まってはいけないような気がしていた。今、無理やりにでも立ち止まれたからか、いつもより肩の力が抜けた気がした。
「やあ、シュン。調子はどうだい? 昨日のことは、覚えている?」
「あ、はい。覚えています。ご心配をおかけして、申し訳ありませんでした」
私は深々と頭を下げる。自分の至らなさを痛感して俯いていると、ジルが心配そうに私を下から覗き込んだ。
「大丈夫かい、シュン。君はまだ幼いんだから、そんなに丁寧に謝らなくても大丈夫だよ。失敗だって、どんどんすべき年頃だろう。危険には遭わないでほしいけどね」
彼は、わざと下手くそなウインクをして見せてくれた。ジルになら、正直に話しても良いのではないだろうか。
「それで、シュンは私に何を聞きたかったんだい? もしかして、『魔力切れ』が初めてだったのかな?」
「あ、はい。なぜこんなに体調が悪いのか分からなくて……。もしかして『次のスキル』に手を出したから、ペナルティを受けたのかと思ってしまって……」
「……『次のスキル』が使えたのかい?」
「いいえ。発動しそうではあったのですが、失敗しました」
ジルの手が、勢いよく伸びてきて、私の肩をガシッ! と掴んだ。少し荒く揺さぶられる。
「良いかい、シュン。今後は絶対に、自分の使えるスキルまでしか使っちゃダメだ。私と約束してくれるかい?」
「は、はい。必ず約束を守ります」
私はやってはいけないことをやってしまったようだ。申し訳なくて、俯いてしまう。
「あ、いや、悪い。シュンが『スキル持ち』である可能性は理解していたのだが、私がちゃんと危険を説明しなかったのが悪い。シュンはちゃんと理解できるだろうから、一通り説明しておこう。それがなぜ危険なのかを知っておく必要があるしね」
私はしっかりと頷き、聞く姿勢になる。ジルは優しく微笑んでから説明を始めた。
「まず、魔法を使うと魔力が減ることは理解しているね? この世界では、魔法を使うと魔法のレベルではなく、己のレベルが上がるんだ。では、魔法のレベルを上げるにはどうするかというと、その属性の魔物を斃すこと。君に見えている『次のスキル』は、たまに現れる『特別な存在』にだけ表示されるんだ」
「ジルさんも、見えていますよね?」
「私も見えているよ」
「なぜ『次のスキル』は使っちゃ駄目なのですか?」
「シュンは、何段階までスキルを上げたことがあるかな?」
「その、レベルMAXまで……」
「もしかして、気づかないうちになっていたのかな? スキルはね、レベルが上がるごとに使用する魔力量が減るんだよ。シュンはスライムを斃したかい?」
「はい。水魔法がレベルMAXなんです」
「ああ、斃しやすいからね。それは仕方ないか。例えばレベル2の飲料水を出す魔法を使うとするだろう? レベル2のままでは、バケツ一杯が限度だろうね」
「なるほど。私が水瓶すべてに水を貯められているのは、水魔法のスキルがMAXだったからなんですね」
「そうだね。それで『次のスキル』は、数を斃して一定の魔力量を超えないと使えないようになっているんだ。その理由は……もう、分かるよね?」
「『魔力切れ』を起こすと、気を失ってしまうから……」
「そうだよ。今回は根性で動けたから助かったけれど、もし森の奥深くで倒れていたら、助からなかったかもしれない」
「はい。二度と『次のスキル』は使いません。教えてくださって、ありがとうございました」
私は深々と頭を下げた。ジルは私の頭を優しく撫でてくれる。
「分かってくれたなら、もういいよ。シュンは賢いから、理由が分かれば約束を守ってくれるだろう? それに、限界まで魔力を使い切ったことは、己の限界を知るいい機会になったと……今なら言えるからね。ふふっ」
ジルの説明は分かりやすい。これで、同じ魔法でも、数をこなしたスキルは、勝手に燃費が良くなることを理解できた。
「今日まではしっかり休むんだよ。まだ力が入りにくいだろう? 体調を戻してからのほうが、効率も良いからね」
大きく頷いた私は、ジルが撫でてくれる大きな手の温かさと、子猫の息遣いを感じながら、すぐに眠りについたのだった。




