表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
99/106

第二十五話-1

綾香さんのおかげで、なんとなく息も吐けたし、気分も変わった。

琥珀も少し気が抜けたのか、いつものような明るさを取り戻している。

真の手を握って、ステップを踏むように歩を進める。


・・・今の真は、どうしたって女の子。


それは、病院で検査して貰って・・・色々調べた結果、突きつけられた避けようのない現実。


男の子に戻れる可能性はない・・・多分。

女の子になった逆が起こらないとも限らないけど、そんな事があるかどうかなんて判らないんだから、無いのと同じ。


それでも、真が元気に過ごしてくれるなら・・・と思えば、私たちは受け入れるしかない。

今の真を、そのまま。


おじさまも


おばさまも


お父さんも


お母さんも


琥珀も


・・・そして私も。


今までの、真と過ごしてきた過去と一緒に。

変わらない、昔のままの真として。


でも。


海からの風を受けて、靡く長い髪。

琥珀を見る、慈しむような瞳。


真自身は?


・・・幼い頃のような無邪気な笑顔は隠れ、歳相応な柔らかな笑顔。


受け入れられるものなの?


今までの自分じゃなくなって


まったく違う姿になって


それまで出来てたことが出来なくなって


周りからの見られ方も、全然違って


『変わってないよ』って言葉に救われつつも、現実がそれを否定し続けてきて


なによりも、自分自身がそれを認めたくないって、思ってて・・・。


あなたの心の奥にある闇は、どれほどに深く暗いの・・・?



・・・私には、それを想像する事さえ出来ない。

それが判ってるから、あなたはいつも平気な顔をして、『大丈夫だよ』って言うの?


・・・嫌だよ、そんなの・・・。


「瑠璃っ」


真の笑顔と共に、優しい声が飛んでくる。

はっとして顔を上げれば、琥珀と一緒に笑っている。


そうだ・・・。


女の子になって暫くは、まったく笑わなかったんだよね。

最初こそ驚いて、戸惑って、変なテンションになってたけど、落ち着くにつれて・・・。

嘆いて、泣いて・・・。


そして笑えなくなって。


でも、その真が、今笑ってる。


・・・笑ってくれている。


「・・・真っ」

「お姉ちゃんっ!」


ふたりの背を追い、少しだけ足を速める。

私の中の闇を伏せ、出来るだけの笑顔で。



・・・



「ふぅ・・・」


小さく息を吐いて、視線を落とす。

足元にあるのは、背にした大きな木の影。


モールの端にある、吹き抜けの広間。

真ん中にあるシンボリックな木の影が、私にひと時の涼を恵む。


ベンチでひとり、木の騒めきと風のアンサンブルを楽しむ。



海からの風も、建物と木に遮られれば、その強さも色も変わる。

枝を揺らす時は優しく、頬を撫でる時は緩やかに。

そしてスカートの裾を靡かせるときは、少しだけ強く・・・。


「・・・もうっ!」


足元を舞う木の葉に文句を言っても、風がその表情を変えてくれるわけはない。


それでも、ひと言くらいは言いたくなる。


『・・・あなたは、心の闇を吹き消せないの?』


無理だと判ってはいても・・・。


ガサリという音が、現実を連れてくる。

ベンチの足元に並んだ紙袋。

先程から、いくつかのお店で買い物をし、その戦利品が入っている。


夏用のアウター。

琥珀のワンピース。

真のシャツとパンツ。


これは、また次も一緒に出掛けよう・・・デートしようって約束の証。

眺めているだけで、顔が緩んでしまう。


風が髪を撫で、ふわりとなびいている。


真が琥珀を連れてお手洗いに行ってくれてるあいだ、ベンチで座っているだけ。

勝手にどこかに行くことも出来ないのに、なんとなく嬉しい。


それはきっと、『真が私の所に帰ってきてくれるから』・・・かな。


・・・


もうっ!

何言ってるの!?


まだ、真と一緒に暮らしてるわけでもないのにっ!

『私の所に帰って来てくれる』なんて、そんなの夫婦でしょっ!


やだもうっ!


段々と顔が熱くなり、俯き、膝に乗せた拳を握りこむ。

胸の奥が熱く、動悸が激しい。


胸が破裂でもするのはないかと思える程。

つい、両手で顔に風を送るが、焼け石に水とはこの事か。


周りを歩いている人々も、『何事か』と目を向ける。


きっと幸せが漏れ出してる、という事でしょうね。


でも、その『幸せ』は、私の幸せ。

真にとっての『幸せ』は、どこなんだろう。


・・・真の幸せ・・・か。


ふと顔を上げ、上階を歩く人に目をやれば、流れていく風が頬の火照りを拭ってくれた。


一瞬、強く吹いた風が、あたりの落ち葉を巻き上げて、モールの壁に沿うように持ち上げる。

何とはなしに目で追えば、2階の通路に人影が。

遠くても判る。


裕也だ。


あいつも、買い物なのかな・・・。

普段は本屋に行く程度なのに。


ん?


隣に居るのは、誰?

大人しそうな、ボブの女の子。

随分と親し気で・・・楽しそう。


え?・・・柚葉?


裕也は裕也で、デートなのかな?


・・・と、もうひとり?

顔までは判らないけど、髪の感じからして・・・ギャルっぽい子?

黒髪の間から見える・・・あれはビビッドレッド?

あんな子、学校に居たかしら?


『覚えがないわね』


顔は見えないし、話し声だって聞こえない。

でも、あの雰囲気は知っているような。


『誰だったかしら?』


何かが引っ掛かる。

私の中の声が、『知ってるよ』と言うけれど、まったく心当たりがない。


少し目元に力が入り、その女の子の顔を見ようとする。


・・・あれ?もしかして。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ