第二十五話-2
誰か判りそうになったその刹那に、視界に影が差す。
「え?」
何かと思えば、見覚えのない男がふたり、左右から私を覗き込んでいる。
ひとりは、薄手のパーカー。頭までフードを被り、ポケットに手を突っ込んだまま、猫背気味に見下ろしている。
もう一人は、派手な柄物のTシャツの上に、大きめのシャツを羽織っている。袖を無造作に捲った腕には、ブレスレットが何本か見える。
ふたりともに、ピアスやアクセをジャラジャラと付けて、口元に馴れ馴れしい笑いを浮かべている。
『うわ、ナンパだ・・・』
思わず、眉間にしわが寄る。
折角、あの女の子が誰なのか判るかもしれないところだったのに、水を差されてしまった。
もう少しで形になりそうだった認識が、割り込んできた男たちのせいで砕けていく。
「ねえ、おねえさん。さっきから見てたけど、ひとりだよね?」
パーカー男が、顔を覗き込んでくる。
近いし、つけてる香水の匂いで咽そうになる。
「俺らも暇しててさ。一緒に遊ぼうよ?」
「って、普通に可愛いよね」
「さっき目が合った瞬間、一目惚れしてさ。これ、絶対運命だってっ!」
柄シャツの男が大袈裟に笑いながら言う。
なんだろう。
ナンパってテンプレな誘い方ってあるのかな?
漫画やアニメでもよく見かける格好とセリフ回し。ひと言ふた言何か言ったら、即退場するタイプのモブ。
「・・・ナンパモブ」
呆れた目と口調で小さく呟けば、ふたりともに眉間にしわを寄せる。
それも一瞬の事。
「はあ?なにそれ、酷くない?」
「警戒なんてしなくて平気だってっ!俺ら、怪しくねーし」
苦笑しつつも、目元は笑っていない。
嫌だな・・・。
それが正直な感想。
だからと言って、それを素直に言い切るわけにもいかないと思えば、多少なりと穏やかに断ろう。
「私、友達と一緒なので。・・・他を当たってください」
興味なさげに短く言い切り、男たちの間から先ほどの女の子を探す。
けれども、既に姿はない。
祐也と柚葉?の姿も消えていた。
・・・にも関わらず、目の前の男ふたりは消えていない。
むしろ、ニヤついた笑いを浮辺ている。
「え~?おねえさんの友達?それ、絶対可愛い子だよね?」
「いいねぇっ!おねえさんひとりより、ふたりの方が絶対楽しいって!」
むしろ、食いつきが良くなってしまった。
「・・・お断りです。やめてください」
キッと睨みつける様に断るけれど、ふたりが去る様子はない。
それどころか、少し近づいてる?
「絶対楽しませるからさっ!俺ら、こう見えても経験豊富だしっ」
「そうそうっ!友達も一緒に、楽しもうや」
ザワリとした不快感が、まるで肌に張り付いたかのように感じる。
男たちの視線が、纏わりつくようで気持ちが悪い。
鳥肌が立つし、首筋の後ろのあたりがゾワゾワするようで・・・軽く吐き気がする。
何、この気持ちの悪さ。
思わず眉間に力が入り、眉が逆立つ。
睨みつける目にも力が籠るけれど、男たちが気にした様子はない。
『なんなの?こいつら・・・』
意識よりも先に、身体の方が危険を訴えるのか、両手で身体を抱えようとしてしまう。
モールの騒めきも、他人の笑い声も、まるで遠くから響くようにぼやけている。
「おねえさん、警戒しすぎ~。お互いに、気持ち良くなるだけなんだからさ~」
「そうそう、もっと軽く行こうよ~」
・・・ダメ。
無理。
生理的に無理。
喉の奥で、何かが蠢くような不快感。
こんな風に絡まれる事は初めてだけど、これ程に不快とは・・・。
嫌だ。
嫌だっ!!
誰か・・・。
男たちの影に飲みこまれそうになった、その時。
「ねぇ、お兄さん。その子、俺の彼女なんだけどさ」
誰だろうか。
男の割には、低くない声・・・声変わり前の少年?
男たちの後ろから聞こえて来たその声。
『助かった』
と、思ったのもつかの間。
そこに居たのは、背も高くなく、体格だってそうしっかりはしていない・・・華奢な男の子。
髪は癖っ毛で、顔つきも中性的な優しそうな人。
メンズの大きめサイズのシャツを、まるで羽織でも羽織るかのように着ている。
その優し気な顔で、
「俺の彼女に手を出すの、辞めてもらって良い??」
抑揚のない声で告げる。
振り向いた男たちは、まず驚き、そして安堵し、最後に笑いだす。
それはそうだろう。
どう見ても強そうには見えないどころか、体格的には女の子とそう変わらないようなのだから。
私とて、助けては貰いたいけれど、それは本人が安全ならの話で。
こんな、どう見ても喧嘩なんか出来そうにない人相手に、助けを求めるのは・・・。
「わ・・・私の事はいいから、逃げてよ。危ないからっ!」
怖くて藁にもすがりたい気持ちだけど、だからといって怪我はして欲しくない。




