第二十四話-4
そこは
サンシェードの下、通りからも少し影になった席。
海からの風も、お店の影になるからか柔らかく、お店の中の喧騒からも離れていた。
・・・きっと、静かに食べたいお客さんや、何か訳アリな人を通す為の席なんだろうな。
訳アリ・・・か。
琥珀を席に座らせると、椅子を動かして隣に座る。
近くに他のお客さんはいない。
私はポーチを出すと、
「琥珀?ちょっとこっち向いて」
そう言って、メイクを直してあげる。
赤くなった目元を隠すだけでも、印象は随分と変わるのだから。
「・・・ありがとう、お姉ちゃん」
琥珀のお礼に、少しだけ苦笑い。
メイク道具をポーチにしまいながら、
「お礼は、綾香お姉ちゃんの言ってあげて?きっと喜ぶから」
そう、綾香さんに・・・。
小さく頷き、微笑む琥珀。
同じように、真も微笑んでくれる。
・・・あぁ、ありがたいな。
今の私たちには、この静かな時間が心地いい。
少しだけ息が吐ける・・・。
「ありがとうね、綾香お姉ちゃんっ!」
と、思った途端に琥珀が声を上げる。
えっ?と思い、振り向いて見れば、お盆にアイスとジュースを乗せた綾香さんが、笑いを堪えた顔で立っている。
・・・もしかして、聞かれたのかな?
無言のまま頷く綾香さん。
見れば、真も私から目を逸らしながら、顔を埋めて笑っていた。
・・・気が付いてたなら、教えなさいよ・・・もう。
笑いを堪えつつ、テーブルにアイスとジュースを並べてくれる綾香さん。
それでも最後には堪えきれなくなって、
「瑠璃って、こんな可愛い顔するんだね~っ」
なんて言いつつ大笑い。
真も琥珀も、同じように笑ってる。
私は少し憮然としてたけど、それでも最後には笑ってしまう。
そう、笑えた。・・・自然に。
・・・
「はい、琥珀ちゃん。あ~んっ」
「あ~んっ」
ぱくり
「ん~~~っ冷たくて美味しい~っ!」
「やった~っ!琥珀ちゃん、美味しい頂きましたーっ!」
「「わ~いっ!!」」
・・・
笑うしかないのかな、この状況。
奥まったテラス席で、私たちはゆっくりアイスを頂いている。
観光地なんかにありそうな、ちょっと良い『濃厚ミルクメロン』
メロンの甘い香りが強く、それに負けないミルクのコク。
少し疲れた身体に甘さが染みわたるようで、心が震えるよう。
・・・なんだけど。
私の隣では、綾香さんが琥珀に、アイスを『あ~ん』して食べさせている。
琥珀としても、それを嫌がる事はない。
まるで、私や真に甘えるのと同じように、綾香さんに甘えている。
初対面なのに、よくそこまで砕けられるわね・・・。
そんな事を考えながら、ジュースに口を付ける。
・・・甘い。
アイスも甘い。
口の中に残る甘さと香りが、ふわりと鼻に抜ける。
何とはなしに息が吐け、自然と頬が緩む
隣に目を遣れば、真も微笑みながら琥珀と綾香さんのやり取りを眺めている。
優しい顔。
さっきまでの、少し影があるような顔は、もう見えない。
ふわりとした、海の香りを含んだ風。
柔らかな風が、私たちの肌を撫でていく。
スプーンですくって食べるアイス。
ついついゆっくり食べてしまうけど、思ったよりも解けるの早いかも?
少し大きな口で、アイスの頭をパクリ。
ん~~・・・。
やっぱり、一度に食べると・・・甘さと香りが身体中に広がっていく。
「・・・美味しいっ」
私の意識とは関係なく、身体が言葉を発する。
ひとくち、もうひとくちと食べ進めれば、その度に身体が震え、顔が緩む。
甘さが頭に届いたのか、もういろいろ緩みっぱなし。
「えへ・・・」
あ。
思わず変な声が出てしまった。
なんとなく嫌な予感がして、琥珀たちの方に目を遣ると、
「~~~///!?」
まるでおもちゃを見つけた猫のような、爛々とした瞳が4つ、私を見詰めている。
琥珀はニンマリと、そして綾香さんは・・・、
「え?なに?今の『えへっ』って何?・・・めっちゃ可愛かったんだけど?」
めっちゃ食いついてきた。
「なに?どういうこと?瑠璃って、学校だとそんな声出さないよね?なんで?可愛いのにっ!」
めっちゃ早口だし。
でも、少し考えるそぶりを見せて、
「・・・そっか、判ったわ・・・。そういうことね」
何勝手に納得してるの?
「・・・私の事、『お姉ちゃん』って思ってくれて良いのよ!?」
げふんっ!!
思いっきりむせる。
食べていたアイスが気管に流れたのか、ゲフゲフと咳き込んでしまう。
慌てたのか、勢いよく席を立った真が、また私の背中をさすってくれる。
優しく、ゆっくりと・・・時々、ポンポンと叩くのも挟みながら。
「げふ・・・いきなり・・・何言い出すのよ・・・」
涙を浮かべながら、綾香さんに目を向ける
流石に、ちょっとだけ怒った風で。
「なにって・・・瑠璃、甘えるの下手でしょ?」
「う・・・」
図星だ。
「人と関わるのも下手だし、カッコつけてるっぽいけど、中身ポンコツだし」
「・・・うぅ」
「真ちゃんの世話焼きは出来ても、他の事に気が回らないじゃない?みんなも頼って欲しいって思ってるのに」
「・・・」
返す言葉もない。
「だから、私がお姉ちゃんになってあげる。さぁ、『綾香お姉ちゃんっ!』って甘えて良いのよ」
・・・
いや、そこが判らない。
なんで、私の対人スキルの低さが、綾香さんを『お姉ちゃん』呼びすることに繋がるのよ。
「・・・判らない?」
うん、判らない。
「そんなの・・・」
うん。
「私が、そう呼んで欲しいからよっ!」
・・・真面目に聞いてた私が馬鹿でした。
でも・・・。
なーんか、肩の力が抜けたな。
ふうっと息を吐いて、琥珀といちゃついてる綾香さんの隣に座る。
何事かと、ふたりとも私を見るけれど、
・・・恥ずかしいな、これ。
「あ・・・ありがとう、綾香さん・・・」
その言葉に、琥珀は満足そうに何度も頷く。
真も、優しく頷いてくれる。
そして、綾香さんも・・・
「そこは、『綾香お姉ちゃん』じゃないの~?」
・・・あんたは、なんでブレないのよ。
頬杖をつきながら、ニヤニヤ顔。
少しだけ見上げるような目線が、やたらと可愛いく感じてしまう。
ついでに、その・・・机に乗ってる胸が気になる。
・・・こんな事してあげたら、真も喜ぶのかしら・・・。
いやいや、大体今は女の子同士なんだし、そもそも真の方が大きいんだし・・・喜ぶのは、私の方か。
などと考えていれば、琥珀が私の顔を凝視している。
「?」
どうしたんだろう?
「お姉ちゃん・・・」
「ん?」
「・・・おっぱい好きなの?」
げふんっ!!
2度目っ!!
また気管の変なところに入ったっ!
これには真も苦笑い。
また背中をさすってくれる。
でも、なかなかおさまらなくて。
「ほら、瑠璃おいで」
抱きしめられるように抱えられて。
真の肩に顔を埋めながら、背中をさすって貰えて。
ふう・・・と、ひと息つけた。




