第二十四話-3
「はーいっ!いらっしゃいませーっ!!・・・って、あれ?」
やっぱり、見間違いじゃなかった。
「・・・やっぱ、瑠璃と真ちゃんじゃない。どうしたの?」
「・・・それはこっちのセリフなんだけど?」
同じクラスの綾香さんだ。
三角巾にエプロン。髪は後ろでお団子にしてるから、ぱっと見では判らなかった。
それに・・・
「私はバイト・・・というか、うちの手伝いなんだけど?」
へ~・・・家族でお好み焼き屋さんやってるんだ。
あ、だからネイルしてないんだ。
「それはそう。飲食でネイルなんて、不衛生だって言われるわ。・・・私だって、それくらいの分別あるわよ?」
・・・へー・・・
「・・・なによ」
「別に」
なんとなく緊張が漂う中、綾香さんの後ろに影。
と、思えば、それはお客さん。
「あのー・・・お会計を・・・」
お客さんからすれば、店員が何やらクレーマーと話してるように見えたのだろうか。
遠慮気味に声をかけてきた。
というか、クラスでも仲良いわけじゃないからって、クレーマーはないか。
「あ、はーいっ!少々お待ちくださーいっ!」
・・・誰お前?
何その明るくて優しい笑顔と、営業用の猫なで声。
笑顔のまま、パタパタとレジに向かい、テキパキと会計を済ませると、
「ありがとうございました~っまたお越しくださいっ!」
「ごちそうさまでしたー」
綾香さんも、お客さんも、お互いに笑顔で言葉を交わす。
見送る時の軽い会釈。
少しだけ首を傾げたような、可愛らしい仕草。
それは、私の知らない綾香さん。
・・・そっか。
そんな顔、するんだね。
学校では、そんなに絡むことがなくて。
なんとなく、お互いに『よくわかんない相手』とか思ってて。
連休明けに、髪色変えたりしてたの真が気が付いて、それに嫉妬して。
苦手意識ばかり先にあったけど、それって、ただの一面しか見てなかったって事・・・か。
カランコロンと軽やかな音を残して、お客さんが私たちの隣を通り過ぎていく。
「おいしかったねー」
「うんっ、また来ようね」
笑顔で言葉を交わしながら、ゆっくりと去っていくふたり。
その笑顔が幸せそうで、このお店・・・綾香さんのお父さんの焼くお好み焼きが、あんな笑顔を作るのかと思えば、
『料理が出来るのって、凄い事なんだよね・・・』
正直、羨ましくなる。
あっ
真と目が合い、少しだけ笑ってくれた。
・・・そうだね。
「・・・ごめん、お待たせ」
戻って来た綾香さんが・・・
些か仏頂面で話しかけて来る。
・・・まぁ、それはお互い様かもしれない。
「あ・・・あのね。メロンのアイスって、あるかな?」
「・・・メロン?あるけど・・・あっ」
綾香さんの視線が、私から隣の琥珀に移る。
普段なら、多少の事に物怖じしない琥珀だけど、今は、私の手に伝わる力も、少しだけ強い。
・・・マズいな。
少しだけ、心臓が跳ねる。
少し肺に空気を送り、頭をはっきりさせる。
琥珀を驚かせないよ・・・
「あーっ!妹さん!?えっ?いくつ?・・・めっちゃ可愛いんだけど!?」
・・・こっちが驚いたわ。
「なに?瑠璃、あんた妹居たの?・・・もー早く教えなさいよっ!私ひとりっ子だから、妹とか羨ましくって仕方ないのよっ・・・あ~・・・可愛いわね~・・・お名前は?」
めっちゃ早口なんだけど、なんなの?
って、琥珀が怖がって・・・
「あの・・・琥珀って言います。お姉ちゃんが、いつもお世話になって・・・」
あ、普段の琥珀だ。
思わず目を見開いてしまう。
「え~?しっかりしてるね~っ。お姉ちゃんにお世話になってるのは、私の方だよ~。瑠璃、いつもありがとうね~?」
・・・
どうしよう。どう答えれば良いのか、わかんない。
なんか、目の前が回って来たし、琥珀や綾香さんの声が遠くなってきた気がする。
ねぇ、足元揺れてない?
地震?地震じゃないの??
てか、綾香さん、なんでそんなに早口?
聞き取れないんだけど?
真も笑ってないで助けてよっ!
「そっかー。水族館、良いよねー。私も時々見に行っててさ。・・・飽きないよね」
「はい。今日はペンギンさんが見られなかったので、次は」
「・・・そうだね。ペンギンさん、可愛いもんね?」
そう言って笑う綾香さん。
大きく口を開け、歯を見せながら笑う様は・・・。
『昔は・・・私もこんな風に笑ってたんだっけ』
そんな思いが、頭をめぐる。
少しだけ・・・小さくだけど笑ってしまう。
「ふふっ」
琥珀を見る笑顔のまま、綾香さんの目が私に向く。
一瞬、瞳に影が走った気がしたけれど、それもすぐに消え、にっこりと笑ってくれる。
私も笑顔になるけれど・・・答えられてたかな?
「っと、メロンアイスだったね?ちょっと待って・・・」
笑いながら、コーンを取ろうとした綾香さん。
でも、琥珀の目元に視線が向くと、その手が止まった。
「あー・・・」
・・・なにやら、宙で手を掻くような仕草をすると、
「瑠璃?・・・悪いんだけど、テラス席で待っててくれない?オープン席の奥、曲がったところだからさ」
・・・?
「うん、そこまで持ってくから。・・・風が通らないと思うから、そっちで待ってて」
そう言って、お店の・・・厨房の方に引っ込んでしまった。
なんだろう?
琥珀も真も、何が何やらよくわかっていないっぽい。
けれど、言われたように席へ。




