第二十四話-2
「でもね」
「・・・」
「その中で、ひとりだけ・・・『男』とか『女』って括りで俺を見る人がいる」
瑠璃は驚いたように肩を震わせ、琥珀ちゃんの目元には力が入る。
浅い息・・・。
「・・・真、それは・・・」
瑠璃が首を振り、俺の腕にすがる。
先程までの元気はどこに行ったのか、と思えるほどに、今の瑠璃は弱々しい。
でも、それは俺が苦しむのを見たくないから。
がさつで騒がしくて、適当で危なっかしくって・・・それでも、心の底から優しい瑠璃だから、今の俺を見たくないんだ。
でも、これは俺の・・・向き合わなければならない事。
だから、このひと言だけは・・・。
「・・・っ」
喉が干上がる。
胃のあたりが、気持ち悪い・・・。
握る拳に力が籠り、ジワリと汗が滲んでくる。
それでも・・・
「それは・・・」
瑠璃の手に力が入り、肩に頬を寄せる。
「・・・俺が」
足が震える。
次のひと言を言うのが怖い。
「俺自身が・・・」
涙が溢れそうになる。
瑠璃が掴む力が強くて痛いくらいだし、息が出来ない程に肺が締めあげられる。
「っ・・・」
そして、次のひと言を口にしようとした、その刹那に。
琥珀ちゃんが、俺の胸に飛び込んできた。
「・・・え?」
背にその細い腕を回して、俺を抱きしめる様に・・・。
「琥珀ちゃん・・・?」
「琥珀・・・」
震える肩。
小さな嗚咽が、胸から伝わって来る。
「・・・っ」
小さな声。
「・・・っ」
嗚咽が混ざったくぐもった声は、何を言ってるのか判らないけれど・・・。
小さく、何度も頷き、その小さな背中を抱いてあげる。
「・・・大丈夫だよ。ありがとう、琥珀ちゃん」
瑠璃も、琥珀ちゃんの背を抱き、頬を寄せてあげる。
「・・・ごめんね」
そのひと言が、風に流れていく。
◇◇◇◇
「・・・お姉ちゃん、ごめんね」
小さく呟き、項垂れる琥珀。
・・・楽しい雰囲気に、水を差されたような格好にはなったけど。
でも、きっとどこかで、誰かが言わなければならなかった事・・・だと思う。
本当なら、私が気付いて・・・真と一緒に苦しんであげるべきだった・・・とも思う。
それを、この子は・・・。
真は、琥珀の頭を撫でながら、笑顔で話しかけている。
自分だって苦しいだろうにね・・・。
小さく息を吐いて、周りを見れば、少し歩いた先に・・・なんだろう?・・・お好み焼きのお店?
ログハウスっぽい外観で、オープン席もあるちょっとおしゃれなお店。
その割に、入り口に掛かった看板と暖簾が、妙なセンスをうかがわせる。
「あら?」
入り口脇の小窓のところに、『氷』の旗と、ソフトクリームのポスターが。
渡りに船、とはよく言ったもの。
そこでアイスでも食べながら、メイクを直させて貰おうかしら。
「ねぇ、琥珀?アイス、食べない?」
多少思うところはあるものの、それでも笑顔で私は言う。
「・・・え?」
まだ少し涙の痕がある顔を向け、小さく首を傾げる。
その顔に残る僅かな怯え・・・。
「ほら、あそこの・・・なに?お好み焼き屋さん・・・?」
「お好み焼き・・・」
お好み焼きという言葉に、真が少し心配そうな顔をする。
「・・・なに?」
「・・・いや」
なんだろう?
「・・・太るよ?」
んなっ!?
思わず目を見開いてしまう。
「お弁当、少し多めに作ったけど、全部食べちゃったでしょ?そのうえ・・・」
う・・・
「お好み焼きまで食べたら、絶対太るよ?」
・・・
え?ちょっと待って?
私、『アイス食べない?』って言ったよね?
・・・なんで、お好み焼き食べることになってるの?
そりゃ、お好み焼きは大好きだけど、そんなに食べられる訳ないじゃないっ!
ちょっと頬を膨らせつつ、鋭い目を飛ばす。
悪気無さそうな、呑気な真に向かって。
「・・・アイスっ!アイスを食べるのっ!!大体、お弁当食べて、そんなの入るわけ・・・」
あっ
微笑みを浮かべた真。
その手に撫でられつつ、少し笑ってくれた琥珀。
「あははっ。お姉ちゃん、ムキになってる~」
・・・まったく。
指をさして笑うなんて、はしたないわね。
でも。
さっきまで泣いてた琥珀が笑ってる。
私に、怒られるんじゃないかって怯えてた琥珀が、楽しそうに笑ってくれている。
ちょっとだけ顔が緩んで、息を吐く。
「もう・・・」
真も笑ってくれる。
「仕方ないわね」
ふたりに歩み寄ると、琥珀の頬を撫でてあげる。
小さく頷く真。
微笑む琥珀。
私は琥珀の手を取り、
「さ、行こう。・・・どんなアイスがあるかなー」
ゆっくりと歩き出す。
握り返してくれる、琥珀の手が温かい。
それはきっと、琥珀の心の温度。
私なんかより、ずっと温かい。
「お姉ちゃんっ!」
「ん~?なぁに、琥珀」
琥珀が笑っている。
元気に。
「あたし、メロンがいいっ!」
「メロンか~・・・あるといいね~」
ふたり、顔を見合わせて笑いあう。
半歩下がっていた真も、優しく笑ってくれる。
目の前のお好み焼き屋さんは、そこまで混んで無さそう。
お昼時が過ぎたからかな?
店員さんも、少し余裕があるように見えた。
・・・ん?あれ??




