第二十三話-4
「・・・混んできたね」
周りを見渡して、琥珀ちゃんが小さく呟く。
・・・まだ席に余裕は見えるけれど、ステージ前の空間自体そう広くない。
これからのお昼時、もっと多くの人が、この席を使うのだろう。
本当は、俺か瑠璃が気が付かなければならないのだろうけれど・・・琥珀ちゃん、ありがとうね。
「・・・そうだね。そろそろ移動しようか」
瑠璃も琥珀ちゃんも頷き、空になった重箱を名残惜しそうに見つめた。
「美味しかったね」
瑠璃のひと言が、俺に笑顔をくれる。
「うん、すごく美味しかった」
そして俺の目を見ながら、少し笑って、
「・・・毎日食べたいな」
なんて呟くものだから、ちょっとだけ表情が強張る。
毎日・・・毎日かぁ・・・。
目を瞑って少しだけ考える。
「流石に毎日は・・・」
そのひと言に、少しだけ瑠璃が俯く。
「・・・そっか」
「いや、あ・・・嫌とかじゃなくってさ。その・・・」
「・・・?」
どうしよう。言って良いものか・・・。
「そうだよね。これだけ作るの大変だもんね。・・・ごめんね、厚かましくって」
俺の目を見ず、少し震えたような声・・・。
「まあ、大変なのはそうだけど・・・」
「・・・」
「・・・カロリーが・・・」
「・・・は?」
「毎日、こんなの食べてたら、絶対カロリーオーバーだよ」
「・・・」
「太るよ?」
余計な事だとは思ったけど、これははっきりさせておかないと。
今日のお弁当は、瑠璃と琥珀ちゃんの為の『特別な』お弁当。
普段とは違う、言わば『ハレ弁』。
当たり前だけど、カロリーなんて計算してないし、コントロールなんてしてない。
そんなの毎日食べたら・・・。
「・・・」
あ。
見れば、真っ赤になった瑠璃が、目の前でハムスター化している。
肩を怒らせ、両手を握りしめて、頬をぱんぱんに膨らませていた。
「・・・~~~~///っ!!」
肩を震わせながら、俺を睨みつける。
・・・睨んでるんだけど、頬を膨らませてるからか、全然怖くない。
むしろ、可愛い。
・・・なごむなぁ。
でも、その隣では、琥珀ちゃんがついに吹き出してしまう。
「あはははっ!お・・・お姉ちゃん、ハムスターだよっ」
「こ・・・琥珀まで笑わないでよっ!」
「だって~・・・あはははっ」
お腹を抱えて笑っている琥珀ちゃん。
俺も、堪えきれずに肩を震わせてしまう。
ますます頬を膨らませる瑠璃。
・・・ちょっとだけ、涙目になってきたかも。
笑いすぎたかな・・・。
「あはは・・・ごめんよ、瑠璃。でも、毎日でも食べたいって言ってくれて嬉しいよ」
「・・・だって・・・本当の事だし」
小さく頷き、言葉を続ける。
「うん。・・・これからも、瑠璃に喜んで貰えるよう、頑張るよ」
「・・・うん」
少し俯きつつも、頬を染めて頷く瑠璃。
そう、これからもっと出来るようになれば。
いつか、母さんみたいになれれば・・・ね。
「大丈夫だよーっ。お姉ちゃん、料理出来ないんだから」
良い雰囲気だったのに、琥珀ちゃん・・・。
瑠璃は真っ赤になって慌てている。
「ちょっ・・・琥珀っ!?・・・あの、出来ない訳じゃなくて、その、苦手というか・・・練習が・・・」
両手を振って、違うアピール。
その仕草も、愛らしい。
・・・まるで子供の頃に戻ったようで、
「あははっ」
つい笑ってしまう。
そうだ。
瑠璃は、苦手な事がいっぱいなんだ。
でも、なかなか言い出せなくて。
どうしてもお姉ちゃんでいたくって。
だから頑張ってて。
それでも出来ない事があって。
ムキになって、真っ赤になって、泣きそうになって。
でも、それで良いんだ。
だって。
俺と瑠璃は、ふたりでひとりなんだから。
「・・・瑠璃」
「な・・・何よ・・・。私だって料理、練習するし」
「そうだね。でも、俺がもっと練習して、作れるものを増やすから」
「わ・・・私だって・・・」
「瑠璃が、『美味しい』って毎日言ってくれるように、俺、頑張るから」
「うん・・・えっ?」
瑠璃が、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。
そして、両手で口元を隠しながら、俺を見上げている。
顔も真っ赤・・・なのは、さっきからずっとか。
「毎日・・・?」
両手の向こうから、呟きが漏れる。
目を大きく見開いて、ぷるぷると震えだして・・・。
隣にいる琥珀ちゃんも、言葉なく瑠璃を見ている。
微かにそよぐ風。そして沈黙。
そして、ついには耳まで真っ赤になってしまった瑠璃。
「うん、毎日。・・・あれ?さっき、瑠璃が自分で言ったんじゃ・・・」
「そうだけど・・・そうだけど」
もはやパニック状態。
どうしていいのか判らなくなっているのだろう。
「毎日、ご飯作ってくれるなんて・・・」
視線が泳ぐ。
「真兄ちゃんが、お嫁さんだっ!」
・・・
は?
お嫁さん?
琥珀ちゃんは、ニコニコとしながら、俺と瑠璃を交互に見て大きく笑う。
頬杖をつき、少しだけ羨ましそうに。
でも、なんで俺がお嫁さん?
「だって、ご飯作ってくれるのって、お母さんだもん。だから、真兄ちゃんがお嫁さんになるんだよね?」
あぁ、そういう?
「ちょ・・・ちょっと、琥珀!?」
瑠璃が慌てたように口を挟む。
ああ、良かった。
流石に、そこまでは考えてないって突っ込むよね?
「お嫁さんになるのは私よっ!昔から決めてたんだからっ!」
あれ?瑠璃も何言ってるの??
「・・・あ」
自分で言った事に気が付いたのか、ピタリと固まる。
真っ赤だった顔から血の気が引き、俺の方を見直してから、改めて真っ赤になっていく。
ぱくぱくと口だけが動いている。
「あの・・・あの・・・」
隣でにんまりと笑っている琥珀ちゃん。
首も両手を全力で振って、慌てている瑠璃。
もう言葉も出てない。
なんだろう。
どちらも可愛すぎて困る。
胸が苦しくなってくる。
それにしても。
・・・昔から・・・か。
その言葉に、少し肩から力が抜けたようで。
『ははっ』と笑いながら、
「・・・なんだ、一緒か・・・」
そう呟いていた。




