第二十三話-2
瑠璃を見れば、チーズ枝豆昆布おにぎりに齧り付き、幸せそうな顔。
「ん~~・・・この枝豆の食感が・・・」
満面の笑みで頬張っている。
このあいだもハムスターになっていたけど、今日は正真正銘のハムスターだ。
頬一杯にして、幸せそうな瑠璃を見ていれば、こっちまで笑顔になる。
・・・というか。
こんな瑠璃を見るのは、いつ以来だろうな。
小さい頃は、いつも騒がしくて。
バタバタと走り回っては、そこらで転んでて。
雑で、がさつで、いろいろ出鱈目で。
食べるのが大好きで、目いっぱいに頬張って。
「・・・~~~・・・っ!!」
そうそう、たまにこんな風に喉に詰めて・・・って!?
「あ、ちょっとっ!!瑠璃っ!?」
・・・子供ではあるまいに、目いっぱいに頬張った挙句に、うっかり喉を詰まらせそうになるなんて・・・。
少し蹲る様になりながら咳き込み、お茶を口にする。
流し込むのが良いとは思えないけど、でも・・・また咳き込み、涙目になりながら荒い息をしている。
隣では、琥珀ちゃんが心配そうな目を・・・してない。
どちらかと言えば、半分以上呆れてる目だ。
小さくため息を吐いて、
「・・・お姉ちゃん、はしゃぎすぎ。真兄ちゃんに、呆れらてれも知らないよ?」
あはは・・・琥珀ちゃん、しっかりしてる・・・。
とは言え、放って置くわけにもいかないので、席を立ち、瑠璃の背中をさすってあげる。
涙目で、情けなさそうな顔をする瑠璃だけど、俺としては昔の瑠璃を見てるみたいで、なんとなく頬が緩む。
「ほら、ゆっくりお茶飲んで?」
「・・・うん、ごめんね・・・」
こんなやりとりも懐かしい。
・・・小学校の時、夏休みのお泊り会の時だったかな。
学校の校庭で、保護者と一緒に猪肉でカレー作ったりバーベキューした時、はしゃいだ瑠璃がこんな風になったっけ・・・。
あれはあれで大変だったんだけど。
瑠璃の背中をさすりながら、あの時の光景が頭をよぎる。
あの頃から、随分と変わった・・・。
俺も。
瑠璃も。
俺が左腕の自由を失った時に、瑠璃は自然に笑える心を失ってたんだな。
それは・・・本当は大きなハンデのはず。
大きな大きな心の傷。
きっと自分では・・・いや、誰であっても癒せない。
それほどの・・・。
まだ少し咳き込んでるけど、落ち着いてきたかな?
もう一度お茶を飲んで、少しだけ息を吐く。
「・・・ふう」
「もう大丈夫そう?」
まだ少し頬が赤いけれど、表情は落ち着いている。
少しだけ目を伏せて、もう一度優しく笑ってくれる瑠璃。
「うん・・・ありがとう」
席に戻り、改めてお弁当を食べる。
琥珀ちゃんを見れば、ピーマンの肉詰めを摘まんで、俺の方を見て悪戯っぽく笑っている。
・・・ん?
琥珀ちゃんってピーマン苦手だったっけ?
なんて考えていたら、箸を俺の方に差し出してくる。
そして、
「はい、真兄ちゃんっ!あ~んして?」
・・・
「え?えぇっ!?」
・・・多分、他意は無いんだろうけど、あーんって・・・。
めっちゃ恥ずかしいんだけど?
でも、せっかく琥珀ちゃんが食べさせてくれるんだし、ここはいただくかな?
ぱくっ!
うん、ちょっと恥ずかしいけど・・・いいな。
「あははっ!やったーっ!真兄ちゃんが食べてくれたーっ!!」
「・・・うん、美味しいよ。ありがとう、琥珀ちゃん」
破顔して喜ぶ琥珀ちゃんを見れば、少しくらいの恥ずかしさなんて、どこかへ消えていく。
でも、出来ればこういう事は、琥珀ちゃんの好きな人にしてあげて欲しいかな。
・・・で、なんで琥珀ちゃんは口開けて待ってるの?
え?
あーんか?
俺が『琥珀ちゃん、あ~んっ』って、するの待ってるの??
・・・まぁ期待されてるなら、お返しするべきだよね?
うん。
取り皿から、同じピーマンの肉詰めを摘まむけど、ちょっとだけ手が震える。
「はい、琥珀ちゃん。お返しのあ~んっ」
「あ~~~んっ!」
ぱくりと頬張る琥珀ちゃんが、いつもより幼く見えた。
嬉しそうに頬張る琥珀ちゃん。
「ん~っ!おいしいっ!」
満面の笑み。
それを見て、思わずこちらも笑ってしまう。
「えへへっ真兄ちゃん、ありがとうっ!」
「ううん、琥珀ちゃんこそありがとう。美味しかったよ」
あれ?
少しだけ、寂しそうな目・・・?
それも気のせいだったのか、ちょっとだけ拗ねたような表情を浮かべる琥珀ちゃん。
「もーねーっ・・・羨ましかったんだよ?・・・真兄ちゃん、お姉ちゃんとは『あ~んっ』してるのに、あたしにはしてくれないんだもん」
え!?
琥珀ちゃんの言葉に驚くと同時に、瑠璃の方に目を遣れば、少し気まずそうな顔をして目を逸らしている。
先頃、一緒に蜜柑山を歩いた時におはぎを食べたのを、そう伝えていた・・・という事か。
まぁ、嘘じゃない。
あ~んしてくれたのは瑠璃の方だけどね。
少し肩を竦めて、苦笑い・・・いや、照れ笑いをして、もう一度、今度は卵焼きを摘まんで、琥珀ちゃんに差し出してあげる。
ちょっと目を丸くしてから、大きな笑顔を作って、ぱくりと食べてくれる。
「どう?美味しい?」
俺の言葉に、大きく頷いてくれる。
「とってもおいしいよっ!」
その言葉が、胸の奥を温かくする。
「ありがとうっ・・・お・・・私が最初に作れるようになったのが、その卵焼きなんだ。喜んでくれて、とっても嬉しいよ」
自然と出た言葉が、己の心にも届くよう。
そう、嬉しいんだ。
琥珀ちゃんが、瑠璃が喜んで食べてくれるのが、この上なく嬉しい。
今まで、瑠璃や両親に支えて貰うばかりの生活だったけど、料理を通じて笑顔を返せるようになれるんだ。
俺の料理で、みんなが笑顔になってくれる。
瑠璃が笑顔になってくれる。
その事が・・・。
これ程に、心を満たしてくれる・・・。
変な言い方かもしれないけど、俺には久しく無かった感覚が、今この手に戻ってきている。
左手に力を入れ、小さく・・・不格好ではあるけれどガッツポーズをしてみた。




