第二十一話-2
もっとゆっくり来ても良いのに・・・。
いつものような凛とした瑠璃ではなく、歳相応な可愛らしい瑠璃と並んでいられる、滅多にない時だったのに。
まあいいかと思っていれば、琥珀ちゃんは目をキラキラとさせてバスが来るのを見ている。
「琥珀ちゃんは、バス乗る事はないの?」
少し気になったので聞いてみれば、笑顔のままで大きく頷いてくれる。
「いつも、学校までは自転車だから。バス乗るのって、久し振りなのっ!」
そっか、と思ったけれど、よく考えれば、琥珀ちゃんが通ってるのは俺たちの母校で、そこまで俺も瑠璃もバスで通ってたんだよな・・・。
まさかと思って瑠璃を見れば、静かに頷くのみ。
確か5~6㎞くらいのはずだから、無理じゃないのはわかるけど。
でも、途中道の狭いところもあるし、危ないんじゃないかな・・・?
「危ないから、バスにしたら?って、何度も言ってるんだけどね・・・」
瑠璃も少し心配そうな顔で答える。
それには俺も同意だ。
運転の荒い車だっているんだし、なるべくなら安全に通学して貰いたい。
それを知ってか知らずか、到着したバスに飛び乗る琥珀ちゃん。
「早くはやくっ!」
乗り込み口ではしゃぐ琥珀ちゃんを見ながら、俺と瑠璃は顔を見合わせて苦笑いする。
「はいはい・・・あ、真?荷物は持つわよ?」
乗り込む直前でも、瑠璃は俺の荷物の事は忘れないようだ。
「え?ああ、これくらいは別に平気だけど・・・」
いつもならここで、断っても食い下がって来るけど・・・。
「・・・そう?」
今日は、あっさりと引き下がってくれた。
バスという公共の場だと、流石にゴネたりしないって事なのかな?
ま、それはそれで。
先に乗り込んだ琥珀ちゃんは、早々と一番後ろの一列並んだ座席のところに向かっていた。
他の乗客もいない事もあって、貸し切りのような状態。
好きに座れるのだから、一番後ろの窓側に座る。海が見える側だ。
そして、俺たちに手を振って、早くはやくと急かした。
その様子に、俺たちも頬を緩めながら、琥珀ちゃんのところへ足を運ぶ。
琥珀ちゃんの隣には、瑠璃が座るのかと思えば、
「真が琥珀の隣ね」
といって、俺を座らせる。そして、俺の手からバッグを受け取り、俺の隣に・・・ちょうど俺を挟むように腰を下ろす。
そして、ふたりとも俺を見て微笑んでくれる。
両手に花・・・って、照れるんだね。
普段、学校に行くために使っているバスも、今日は特別な乗り物だ。
乗っているのは俺たちだけ。
通学に使う学生が居ないからか、停留所に止まる事もない。
通り過ぎる車も少なく、静かに滑るようにバスは進んでいく。
少し高くなってきた日の光が、海の上に光の輪を広げている。
緩やかな波が輪を揺らし、跳ねる光がまるで輝く粉のよう。
はしゃぐ琥珀ちゃんは、海を見て喜び、俺の腕に抱き着いては笑顔になる。
この時ばかりは、瑠璃もお姉さんしている。
少したしなめながら、ゆっくりと笑い、慈しむような瞳で琥珀ちゃんの笑顔を眺めている。
穏やかな時間。
俺たちだけの幸せな世界。
『こんな時間が、ずっと続けばいいのにな・・・』
少し前までは、そんな事を考える余裕も無かったのだから・・・。
だからこそ、この時間が何より愛おしい。
他愛もない話と笑い声。
笑顔のふたりに囲まれた、緩やかな空気。
窓の外の流れる景色。毎日見慣れた街のはずなのに、今日は少しだけ違う。
高校の近くを過ぎ、駅を超えて、バスは旧道を進む。
昔は、山を越えるか海沿いを迂回するしかなかった道も、今は大きなトンネルで繋がれている。
古く小さな集落であったであろう町も、今では海水浴場とそれに隣接するホテルが出来て、それなりに賑わいがある。
街と街を繋ぐ道沿いでしかなかった場所。
観光ホテルと、その関連施設が並んだ一帯。
そこがバスの終点。
その一角に、水族館はある。




