第十八話-4
「碧さんは、肌奇麗だからコンシーラーはいらないね?」
「そうね。・・・使うとしても、唇の端のあたりに少しだけかな?」
「じゃあ、ちょっとだけ」
そう言いつつ、口角のあたりに指が触れる。
優しくゆっくりと伸ばす感じで、まるでマッサージでもしてもらっているみたい。
些かくすぐったくもあるけど、普段触られる事なんてないものね。
「ファンデーションも、色は濃くなくて良いよね?」
「そうだね。碧さん、色白だし」
「シェーディングは?」
「んー・・・おでこの左右と、頬から顎に掛けてで良いんじゃない?ハイライトも、弱め・・・かなぁ?」
ふたりで話しながら、ブラシで塗ってくれる。
軽く置くような感じだから、私が普段やってるメイクとそんなに変わらないんだけど。
「目元は、ちょっと濃いめにする?」
「んー・・・碧さん、少したれ目っぽいから、ラインを目尻側太めにしようよ。で、少し上に跳ねるようなラインに」
「そうね。シャドーも目尻太めにして・・・」
「あ、ラインの上からもう少し濃いめのブラウンを重ねて。少しぼかすように」
「涙袋の所もライナー入れないと」
「仕上げは白ラメ・・・。で、あとは黒でラインを入れて・・・と」
結構、目元のメイクに時間掛けるんですね。
ふたりとも、毎日これやってるんですか。
・・・慣れたら、早く出来るようになるんでしょうか?
「リップは、今回は赤にする?」
「強く見せるならはっきりした色の方が良いだろうけど、碧さんならピンクベージュの方じゃない?チークとも合わせやすいでしょ」
そう言いながら、ブラシを唇に。
そしてチークも。
・・・
「うん、良いんじゃない?」
「だね。普段よりもギャルっぽいよ、碧さん」
しばらくいろいろと相談しながらメイクしてくれたふたり。
鏡を覗けば、そこには・・・。
いわゆる『白ギャル』メイクに仕上がった私がいた。
普段、ナチュラルメイクしかしない私だけど、今日はふたりにお願いしてギャルメイクにして貰いました。
念願だったメイク。
変わりたい、変わった私の目標・・・と言うのかな?
今までとは違う、ちょっと強気になれそうな気がする。
それくらいには、私の心が弾んでいる。
でも、これで終わりじゃない。
スカートだって、今までよりも折り込んで短くして。
シャツの裾も出して、ラフな感じで。
襟元も少し大きく開いて、セクシーさをアピール。
袖口は折り返して、最後にカーディガンを腰巻きスタイルにして・・・。
見た目だけでも、ギャルっぽい感じに。
そう、見た目だけ。
中身は今までと変わらない私、藤原碧。
でも、今日だけは、今までの私じゃダメ。
柚葉ちゃんも私も、琢磨なんかに振り回されたくないの。
はっきりと断るの。
『もう、あなたと関わるなんてお断り』だって、はっきり言い切るために・・・。
そのために。
なんとなくだけど、メイクしてもらったら勇気が湧くというか、テンションが上がるというか。
『出来る気がする』って、私の中の何かが励ましてくれる。
いいな、この気分。
「それにしてもさ」
メイク道具を片付けながら、綾香さんが不思議そうに私を見る。
「メイクを変えるだけで、そんなに変わる?碧さんの、優しくて大人しいところが変わる訳じゃないでしょ?」
そう、もっともな事を言ってくれる。
それには柚葉ちゃんも賛成なようで、
「そうだよ・・・。見た目がギャルっぽくなったって、碧さんは碧さんだよ。いつもの控えめで、親切な碧さんのままだよ」
と、心配そうな顔で言う。
さっきまでは楽しそうにメイクしてくれてたのに、それと心配は違うのね。
それに、メイクしたって中身が変わる訳じゃない。
今までと一緒。
それはそう。
ふたりの言う通り。
メイクしたって、私の性格が変わる訳じゃない。
別人になる訳じゃない。
私は私。そこは何も変わらない。
でも、変わる切っ掛けにはなる。
変わるって意思を、表に出す事にはなる。
昔々の時代、まだ化粧が『けわい』と言われてた時代・・・よりも前かな?
呪術的な意味があった頃の化粧は、自分とは違う『モノ』になる儀式だったって、何かで読んだ事がある。
今までの私では出来ないことも、『けわい』で変わった私なら出来るかもしれない。
柚葉ちゃんを、守れるかもしれない。
琢磨に負けない私になれるかもしれない。
・・・ううん、なるの。
その為の姿だもの。
だから。
「うん、変わらないよ。私は私のまま・・・。でも、ふたりがメイクしてくれたから、いっぱい勇気を貰ったの。琢磨なんかに負けないくらいの勇気。・・・だから、変わるの。私は私のままで、ちょっとだけ強くなるの」
ふたりに向かって、私はそう宣言する。
そして、
「だから、ありがとう。ふたりが居てくれたから、私は変われるの」
今までに無い笑顔で、ふたりに感謝を伝える。
それはきっと柔らかで、でも向日葵みたいな笑顔。
柚葉ちゃんがいつも見せてくれていた、そんな笑顔。
・・・だと、良いなぁ。
柚葉ちゃんも綾香さんも、少しだけ顔を見合わせてから笑ってくれる。
小さくクスクスと・・・そして、
『あははっ!』
と、笑いあう。三人で、一緒に。




