第十八話-3
早い話、柚葉ちゃんにしたように、付き合ってすぐに身体の関係を求めたり、二股三股をしてみたり、復縁を求めたり紹介を求めたり・・・と、それは結構やりたい放題をしている・・・と。
「まあ、あくまでも噂・・・だけど」
そう言って話を終えようとする綾香さん。
それでも、
「でも、実際に、私の友達も声掛けられてるし、そういう目的で寄って来てるのは間違いないかもね」
そう言いつつ、溜息を吐く。
「自分で選んだって言っても、後悔してる子だっているんだよ・・・」
親切そう、大人しそうな外見で人を油断させて、少しでも『良いかな』と思わせれば、肉体関係を迫る。
学校の中で変な噂が飛び交わないのは、学外だからだったんですか・・・。
厄介・・・ですね。
「で?どうするつもりだったの?」
あまり興味なさそうな風で、私に問い掛ける綾香さん。
ただ断るだけ、では話は終わりそうにない。
「・・・出来れば、話をして諦めて貰えれば、と思っていたんです。・・・けど」
「けど?」
小さく溜息を吐いて、話を続ける。
「・・・話した程度では、終わらないかもしれませんね」
その言葉に、皆が小さく頷く。
皆の心の中には、『今回は引いても、またどこかで目立たない形で寄ってくるのではないか』という、気持ち悪さがあるようだ。
私だってある。
「・・・強い言葉で驚いて貰って、その印象が強ければ、抑止になるかとも思ったんです」
私のその言葉に、綾香さんは苦笑いしながら手をヒラヒラさせている。
甘い・・・という事なのでしょうね。
綾香さんがこの件に関わってくれた事で、より状況の悪さが判ってきましたし、もう少し考えなければ・・・。
それに、柚葉ちゃんの不安な様子。
琢磨と関わるのも、私が矢面に立つのも、どちらも彼女の心の負担になっているかもしれません。
・・・今回は、断るだけにしましょうか。
やや消化不良なところはあるかもしれませんが、出来る事があまりなさそうです・・・。
気持ちが決まれば、やや気分が軽くなったようで、少しだけ目元の力が抜けるよう。
柚葉ちゃんに視線を送れば、少しだけ柔らかく微笑んでくれる。
それでも、袖は握ったままで・・・。
瑠璃ちゃんと真ちゃんも、やや不安気な様子はあるものの、用心だけはしてくれるでしょう。
綾香さんは、変わらず私を見る。
やや鋭い目を向けてはいるけれど、口元には少しだけ綻びが・・・。
それでも、少しだけは違う事をしなければ。
・・・
放課後。
「それじゃ、私たちは帰るけど・・・。碧さん、無茶しないでよ?」
いつものように、真ちゃんのバッグも一緒に肩に掛けつつ瑠璃ちゃんが言う。
瞳には一抹の不安を纏い、その影が背中に落ちる。
ほとんどの生徒が去った後の教室。
照明すらも半分消してあり、窓から入る日差しが室内を僅かに朱に染める。
僅かにある雲の落とす影が私の身に重なり、朱をまるで光の園のように見せた。
廊下から聞こえる話し声もどこか遠くに思え、『現実と夢想の間とはこのような所か』などと余計なことを考えてしまう。
・・・それも僅かな間。
いつものように笑顔で、瑠璃ちゃんと真ちゃんに小さく手を振る。
「うん、ありがとう。また来週ね、瑠璃ちゃん、真ちゃん」
少しだけ息を吐いて、小さな笑顔を見せてくれる瑠璃ちゃん。
隣の真ちゃんは、何やらスマホを触っているけれど、手を振った事に気づくと、少し心配そうな顔をしつつも手を振り返してくれる。
「また来週ね、碧さん。・・・本当、危ない事は無しだよ?」
「うん、大丈夫。ありがとう、真ちゃん」
お互いに笑顔で、ふたりの背を見送る。
隣に居る柚葉ちゃんも、机で頬杖を突いてる綾香さんも、軽く手を振り、ふたりの背を見ていた。
もう教室に残っているのは、私たち3人だけ。
廊下を歩く人は、その影さえも見ることは出来ない。
週末の放課後なんて、残りたい人は居ない、という事。
私は改めて、柚葉ちゃんと綾香さんに向かい、
「ごめんね。私のわがまま聞いてもらっちゃって」
そう言って、少し頭を下げる。
でも、これは私だけでは出来ない事だから・・・。
どうしても、ふたりの力が必要だから。
だから・・・。
不安が消えないままの瞳で、私を見る柚葉ちゃん。
少し呆れつつも、どこか楽しそうな綾香さん。
ふたりとも、バッグから自分のメイクポーチを出してくれる。
私が持ってないような、いろんなコスメ。
カラーだって、私は控えめというかナチュラル系ばかり。
でも、ふたりのカラーパレットには、いろんな色が。明るい色から暗めの色まで、それこそ幅広く。
シャドウもチークも、何種類も・・・。
これだけでも判る。
メイクって、経験がものを言うんだって。
「じゃあ始めるから、碧さんは座ってね」
柚葉ちゃんに促されて、私は椅子に座る。
机の上には、何種類ものコスメ。
ふたりはその中から、私に似合いそうな色を探してくれている。




