第十八話-2
「・・・まあ、そういう訳で、困ってるんです」
小さな溜息と共に、うんざりとした表情で私は語る。
机に頬杖を突きやや猫背になりながら、私はふたりに相談を持ち掛けた。
いや、正しくは『相談』と称して、琢磨に関わらないようにして欲しい旨を伝えている。
柚葉ちゃんと私に、あんな手紙を出した相手です。
私たちが断れば、また別な手近な人にアプローチをする事に疑いはないでしょう。
被害・・・嫌な思いをするのもそう呼ぶのなら・・・を未然に防ぐ事が出来るなら、『私』の過去を話す程度、どうと言うものでもないでしょうし。
意外そう・・・とは少し違う、困ったような顔の瑠璃ちゃんと真ちゃん。
小さく俯き、僅かに目を逸らす柚葉ちゃん。その手が握る袖口は、もう皺が目立つ程。
少しだけ柚葉ちゃんに目を遣りつつも、ふたりは口を開かない。お互いの顔を見て小さく頷き、改めて私に向かってくれる。
その姿が、なんとも嬉しい。
「昔好きだった人から、改めて・・・か」
「・・・好きだったかどうかは判らないです。断られたって、『そっか』くらいでしたし・・・。あ、まあ残念ではありましたけど・・・。でも、今はそれが良かったと思っていますし」
強がりでもなく、今はそう言える。
・・・柚葉ちゃんからの手紙がなければ、違ったかもしれないけど。
でも、断ることに迷いは無かったと思う。
彼に執着はなかったし、それに今は・・・。
「で、断るのよね?」
「はい。それはもう。出来る事なら、『まったく芽が無いな』って思ってくれるくらいの断り方が出来れば良いのですけれど」
そう言いつつ、肩を竦めて見せる。
やや目を閉じ、少し口元に笑みを乗せながら。
・・・私はどうしたんでしょう。
こんな話、楽しい訳がないのに。
なのに、琢磨を目の前にした時に、どんな事を言えば驚くだろう。どんな姿を見せたら、彼はもう私たちに近づこうと思わないだろう。
それはあくまでも、柚葉ちゃんと私、そして瑠璃ちゃん、真ちゃんから琢磨を遠ざけるだけのもの。
それ以外の意味なんて無いはずなのに・・・。
何故、少しでも『楽しい』と感じているの?
ふうっと小さく息を吐き、少しだけ間を取る。
自分の心を落ち着かせる為にも。
『楽しい訳ないじゃない』
そう言い聞かせても、答えが返って来る訳じゃない。
でも、せめて何が『楽しい』のか、くらいは知りたい。
そうでなければ、どこかで取り返しのつかない間違いがあるかもしれないから・・・。
でも・・・。
ふと顔を上げると、不安気な面持ちの柚葉ちゃんの瞳が私を映していた。
・・・あれ?
そこに映った私は、いつもの鏡の中にいる私じゃない。
やや高揚した、楽し気な色に染まった瞳。
控えめであろうとしていた事さえも、どこかに忘れてきてしまったかのような笑みを湛えた口元。
これは・・・私?
ガラッと大きな音を立てて、近くのドアが開く。
その音が私を再び現実へと引き戻し、その目が背筋に冷や水を浴びせた。
私たちがいつものように机を囲っている事に、少し驚いたような表情を浮かべたものの、再び冷ややかな瞳に戻る。
肩にかけたバッグを少し揺らし、やや斜に私を見つつ足を進めようとした綾香さん。
そう接点は無いし、仲が良い訳でもない。
先程だって、私の作った雰囲気を嫌い、さっさと教室を後にしたくらい。
それでも。
今、私たちの様子を見て、柚葉ちゃんの隣に足を運んでくれる。
・・・立ったまま、その隣に居るのは圧が強そうだから辞めて欲しいけど。
「朝から変だったけど、変わらず変な感じね。・・・何かあったの?」
そんなに抑揚のない声で言われると、隣に座っている柚葉ちゃんが肩を竦めている。
・・・今の柚葉ちゃんには、責められてるように聞こえるのかも・・・。
なので。
「あまり大きな声では言いたくないから・・・綾香さん、申し訳ないけど、こちらへ」
と、私の隣まで来てもらう。
そして耳打ちする風で、私に来た、琢磨からの手紙の事を話す。
もちろん、周りには少し聞こえるように。
「はあ、なるほどね・・・。あいつなら、やりそうだわ」
呆れ半分、不機嫌半分な風で上体を起こす。
そして手近な椅子を掴むと、私の隣に持ってきてそれに座る。
・・・話しに加わってくれるの?
少しほっとした。
あまりこの事を長く引っ張りたくないから、協力してくれる人が増えるのは有難い。
「でさ、琢磨の事は、どこまで知ってるの?他の学校の子に手を出してるのは聞いてる??」
・・・え?他にもあったんですか?
私たちは顔を見合わせ、無言で首を振る。
そこには、思ったよりも面倒な事がありそうで・・・、少々嫌な予感がする。
「・・・そっか。まあ、私も他所の学校に行ってる友達から聞いた話、なんだけどさ・・・」
そう前置きをして、綾香さんは話し始める。




