表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
72/106

第十八話-1

ふたり並んで廊下を歩く。

私たちに向けられる、他の生徒の目が気にならないと言えば、それは多分噓になる。

それ程に、柚葉ちゃんは目立っていた。


今の柚葉ちゃんが、ではない。


今までの柚葉ちゃんが。


明るく大きな笑顔で、可愛らしいギャルだった柚葉ちゃん。

振り返る人の目には好意が、その背を追う目には恋慕があった。

誰にも愛されるような子と言えば、それは彼女・・・だった。


そう、『だった』


その姿を降ろした柚葉ちゃんに向けられる目は、あるものは驚き、あるものは失望、あるものはスマホを向ける仕草。

様々な目が向けられる。

刺すような視線、ひそひそと話す声の中、私たちは歩く。

少しだけ、私も肩に強張りを感じる。嫌な感じ・・・。

変わらない私と、変わった柚葉ちゃんとで。


「お帰り。柚葉、碧さん」

「お帰りなさい。・・・もうちょっと遅かったら、瑠璃が全部食べちゃってたよ?」


教室に戻れば、ふたりが笑って待っていてくれた。

いつもの笑顔と、肉詰めピーマンと小さなおにぎりと一緒に。


瑠璃ちゃんも真ちゃんも、聞きたいことはあるでしょうに、それよりも変わらない事を選んでくれている。


・・・違いますね。

普段通り接してくれている。

私のように余計な気を回すよりも、ふたりのような自然体の方が、安心できるのですね。

・・・

『安心』?『自然体』?


「さ、真のお料理の試食~っ!あーっ!!おにぎり、私の好きな『チーズ枝豆昆布』!」


満面に喜色を湛えて、瑠璃ちゃんの声が弾けた。

開いたタッパーを覗き込むようにして、両手を小さく握りこんでいる。

瞳が煌めき、その喜びが私にも伝わってくるよう。


「今日は最高ねっ!大好きなものが両方も食べられるなんてーっ!!」

「あはは。瑠璃は大袈裟なんだから」

「そう?だって好きなんだもの。仕方ないんじゃない?」


そう言いつつも、笑顔は崩れない。


・・・本当に、好きなんですね。


私と柚葉ちゃんは顔を見合わせつつ、小さく笑いあう。

・・・そうだ。本当は、朝からこうだと良かったんだ。

『触れないようにする事』と『変わらず接する事』。

同じように見えても、その実、大きな違いが・・・。


「碧さん、あたしたちも一緒に」


柚葉ちゃんの優しい声で、私は思考の中から現実に戻る。

判っているつもりのひとり善がりで傷つけたであろうに、柚葉ちゃんの笑顔は優しい。

見れば、瑠璃ちゃんも真ちゃんも、同じく優しく見つめてくれている。

小さく頷いて・・・。


「えぇ、いただきますね」


そう答えて、いつものように4人で机を囲む。


それにしても・・・。


「瑠璃ちゃんが、時々真ちゃんのおにぎり貰ってましたけど、その・・・『チーズ枝豆昆布?』だったんですね」


『チーズ枝豆昆布』??


見れば、タッパーの中には小さな・・・ふたくちくらいの大きさの・・・おにぎりがある。

ぱっと見は、よくある塩昆布を混ぜたおにぎり。でも、所々に鮮やかな緑色の枝豆、そしてプロセスチーズでしょうか?小さな塊。

見た目にはちょっと不格好ですけれど、瑠璃ちゃんがこれほど喜ぶと言う事は、美味しいのでしょうね。

ウキウキとした様子は微笑ましく、こちらの気持ちまで軽くしてくれるよう。


「はい、取り皿をどうぞ」


真ちゃんは、タッパーと一緒に巾着袋に入れていた、紙皿を手渡してくれる。

そして、小さなプラスチックフォークも。

きっと、こういう細かいところに目が届くから、瑠璃ちゃんや如月くんも安心して一緒に居られるのでしょうね。

自分の足りないところを、相手がフォローしてくれる。

相手の足りなかかった部分を、次は自分がフォローしてあげる。

それが、長い間に『信頼』に変わり、『一緒に居続ける』事になるのでしょう。そして、ふたりの間には、それを重ねてきた時間がある。その深さ、重さ。そして、選び続けた気持ち。

私と柚葉ちゃんの間には、まだ無いもの。

だから、私も柚葉ちゃんと、その時間を重ねよう。

決めただけじゃ意味がない。

忘れず、一歩ずつ、ゆっくりと、お互い一緒に居られるようになろう・・・。


「ん~~~っ!こにょ枝豆と昆布の相性が・・・」

「あ、碧さん。このおにぎり、意外と美味しいよ?枝豆の塩加減にチーズが合うの」

「あら、枝豆の食感とチーズの柔らかさ、合いますね」


3人がそれぞれに感想を口にすれば、真ちゃんの頬も緩む。

自分が作ったものを、皆が喜んで食べてくれるというのは、より判りやすく自信に繋がるのでしょうか。

フォークを持った手で、少し口元を隠しつつ小さく笑うと、


「あはは。見た目が変わってるから敬遠されるかもって思ったけど、気に入ってくれて良かった」


優しい目元でそう呟く。

フォークの先には、肉詰めピーマン。それをじっと見る瑠璃ちゃん。


え?・・・まさか?


そう思った矢先に、瑠璃ちゃんが口を開けば、真ちゃんはそのまま食べさせてあげている。


「ん~~~っ!もう、真ってばっ!恥ずかしいじゃないっ!!」


しっかりと食べて、その上の満面の笑顔で、そんな事を言う。

・・・先日の一件以来、もう隠す気も無いですね。

真ちゃんは照れながら、柚葉ちゃんも笑いながら、この時間が過ぎていく。

いつもと変わらない笑い声が、教室のざわめきに溶けていく。


・・・

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ