第十八話-1
ふたり並んで廊下を歩く。
私たちに向けられる、他の生徒の目が気にならないと言えば、それは多分噓になる。
それ程に、柚葉ちゃんは目立っていた。
今の柚葉ちゃんが、ではない。
今までの柚葉ちゃんが。
明るく大きな笑顔で、可愛らしいギャルだった柚葉ちゃん。
振り返る人の目には好意が、その背を追う目には恋慕があった。
誰にも愛されるような子と言えば、それは彼女・・・だった。
そう、『だった』
その姿を降ろした柚葉ちゃんに向けられる目は、あるものは驚き、あるものは失望、あるものはスマホを向ける仕草。
様々な目が向けられる。
刺すような視線、ひそひそと話す声の中、私たちは歩く。
少しだけ、私も肩に強張りを感じる。嫌な感じ・・・。
変わらない私と、変わった柚葉ちゃんとで。
「お帰り。柚葉、碧さん」
「お帰りなさい。・・・もうちょっと遅かったら、瑠璃が全部食べちゃってたよ?」
教室に戻れば、ふたりが笑って待っていてくれた。
いつもの笑顔と、肉詰めピーマンと小さなおにぎりと一緒に。
瑠璃ちゃんも真ちゃんも、聞きたいことはあるでしょうに、それよりも変わらない事を選んでくれている。
・・・違いますね。
普段通り接してくれている。
私のように余計な気を回すよりも、ふたりのような自然体の方が、安心できるのですね。
・・・
『安心』?『自然体』?
「さ、真のお料理の試食~っ!あーっ!!おにぎり、私の好きな『チーズ枝豆昆布』!」
満面に喜色を湛えて、瑠璃ちゃんの声が弾けた。
開いたタッパーを覗き込むようにして、両手を小さく握りこんでいる。
瞳が煌めき、その喜びが私にも伝わってくるよう。
「今日は最高ねっ!大好きなものが両方も食べられるなんてーっ!!」
「あはは。瑠璃は大袈裟なんだから」
「そう?だって好きなんだもの。仕方ないんじゃない?」
そう言いつつも、笑顔は崩れない。
・・・本当に、好きなんですね。
私と柚葉ちゃんは顔を見合わせつつ、小さく笑いあう。
・・・そうだ。本当は、朝からこうだと良かったんだ。
『触れないようにする事』と『変わらず接する事』。
同じように見えても、その実、大きな違いが・・・。
「碧さん、あたしたちも一緒に」
柚葉ちゃんの優しい声で、私は思考の中から現実に戻る。
判っているつもりのひとり善がりで傷つけたであろうに、柚葉ちゃんの笑顔は優しい。
見れば、瑠璃ちゃんも真ちゃんも、同じく優しく見つめてくれている。
小さく頷いて・・・。
「えぇ、いただきますね」
そう答えて、いつものように4人で机を囲む。
それにしても・・・。
「瑠璃ちゃんが、時々真ちゃんのおにぎり貰ってましたけど、その・・・『チーズ枝豆昆布?』だったんですね」
『チーズ枝豆昆布』??
見れば、タッパーの中には小さな・・・ふたくちくらいの大きさの・・・おにぎりがある。
ぱっと見は、よくある塩昆布を混ぜたおにぎり。でも、所々に鮮やかな緑色の枝豆、そしてプロセスチーズでしょうか?小さな塊。
見た目にはちょっと不格好ですけれど、瑠璃ちゃんがこれほど喜ぶと言う事は、美味しいのでしょうね。
ウキウキとした様子は微笑ましく、こちらの気持ちまで軽くしてくれるよう。
「はい、取り皿をどうぞ」
真ちゃんは、タッパーと一緒に巾着袋に入れていた、紙皿を手渡してくれる。
そして、小さなプラスチックフォークも。
きっと、こういう細かいところに目が届くから、瑠璃ちゃんや如月くんも安心して一緒に居られるのでしょうね。
自分の足りないところを、相手がフォローしてくれる。
相手の足りなかかった部分を、次は自分がフォローしてあげる。
それが、長い間に『信頼』に変わり、『一緒に居続ける』事になるのでしょう。そして、ふたりの間には、それを重ねてきた時間がある。その深さ、重さ。そして、選び続けた気持ち。
私と柚葉ちゃんの間には、まだ無いもの。
だから、私も柚葉ちゃんと、その時間を重ねよう。
決めただけじゃ意味がない。
忘れず、一歩ずつ、ゆっくりと、お互い一緒に居られるようになろう・・・。
「ん~~~っ!こにょ枝豆と昆布の相性が・・・」
「あ、碧さん。このおにぎり、意外と美味しいよ?枝豆の塩加減にチーズが合うの」
「あら、枝豆の食感とチーズの柔らかさ、合いますね」
3人がそれぞれに感想を口にすれば、真ちゃんの頬も緩む。
自分が作ったものを、皆が喜んで食べてくれるというのは、より判りやすく自信に繋がるのでしょうか。
フォークを持った手で、少し口元を隠しつつ小さく笑うと、
「あはは。見た目が変わってるから敬遠されるかもって思ったけど、気に入ってくれて良かった」
優しい目元でそう呟く。
フォークの先には、肉詰めピーマン。それをじっと見る瑠璃ちゃん。
え?・・・まさか?
そう思った矢先に、瑠璃ちゃんが口を開けば、真ちゃんはそのまま食べさせてあげている。
「ん~~~っ!もう、真ってばっ!恥ずかしいじゃないっ!!」
しっかりと食べて、その上の満面の笑顔で、そんな事を言う。
・・・先日の一件以来、もう隠す気も無いですね。
真ちゃんは照れながら、柚葉ちゃんも笑いながら、この時間が過ぎていく。
いつもと変わらない笑い声が、教室のざわめきに溶けていく。
・・・




