第十六話-3
私とて驚いたけれど、そこまでの衝撃は無かった。
でも柚葉ちゃんにとっては、価値観が壊れる程の事だったのね・・・。
・・・
これは、言っても良い事なのかな・・・?
言わない方が柚葉ちゃんには良いのかもしれない。
でも、それでは柚葉ちゃんも私も、私たちの関係も、何も変わらない。
言うのが怖い・・・怖いけど、でも・・・。
「ねえ、柚葉ちゃん。幼馴染って、時間の積み重ねが無いとなれないのかな?時間だけで、あんな特別になれるのかな?」
「・・・え?」
「私ね、思うの。その・・・間違ってるかもしれないけど・・・時間だけじゃ、特別な幼馴染にはなれないんじゃないかって。『私は、あなたの隣にいるよ。これからもずっと』って、お互い思えるから特別になれるんじゃないかなって・・・」
「ずっと隣に・・・?」
私は小さく頷く。
改めて柚葉ちゃんの顔を見つめて、ゆっくりと微笑む。
「多分だけど、瑠璃ちゃんと真ちゃん・・・それに如月くんも、『ずっと一緒に居たい』って思ってたから、あんな関係になったんだと思うの。傍に・・・隣に居る事を、自分で選んで」
でも、柚葉ちゃんの顔に浮かぶのは戸惑い。
その奥にあるのは、なんだろう・・・恐れ?
少しだけ項垂れて、目が宙を泳ぐ。
小さく浅い息を吐き、小説を握る指先が僅かに震えている。
「一緒に居る事を『選ぶ』・・・の?自然に『なる』んじゃなくて、自分で『選ぶ』の?」
「うん、選ぶの。・・・自分で、ね。だから、何があっても、ぶつかる事があっても、傍に居られるんじゃないかな・・・」
「・・・」
・・・不安だよね。
私だって、不安だもの。
先の事なんて判らない。選んだ結果として、もっと相手を傷つける事だって有るかもしれない。
選ばなければ、ただの友達で居られるかもしれない。
けど、いろんな喜びも苦しみも、共に味わうような事は出来ないんじゃないかな・・・。
だから、私は選びたい。
ううん、違う。
私は、決意を込めて言葉にする。
もし受け入れられなくても、それでも、自分の気持ちに嘘を吐きたくないっ。
「柚葉ちゃん。私は、あなたの隣に居たい。楽しい事も悲しい事も、悩みもいろんなことを共にしたいの・・・」
その言葉のひとつひとつを発するだけで、心の中に脅えが走る。
動悸に胸が震え、鳩尾が締め付けられるよう。
指も腕も、脚にも震えが走るほどの緊張感。
それでも、私の心の信じるままに言葉を紡いでいく。
「これから、いろんな事があると思うの。ぶつかる事も、喧嘩する事もあるかもしれない。楽しい事ばかりじゃないかもしれない。でも、ひとりで辛い思いを抱えるよりも、ふたりで分かち合えれば、きっと良い思い出が作れると思うの」
「・・・思い出」
「うん、そしてその積み重ねが、きっとこの関係を特別にしてくれるの」
「・・・特別?」
私は頷く。今までの様に小さくではなく、大きく、確信を込めて。
彼女の手を取り、震える指先を握ってあげる。
その指先から伝わる温かさを感じながら、今までにない笑顔で、柚葉ちゃんに語り掛ける。
「そうっ!幼馴染じゃなくても、幼馴染みたいにはなれるんだよっ!きっとなれるっ。私と柚葉ちゃん、ふたりならきっとっ!!」
柚葉ちゃんの瞳は、まだ不安に揺れる。
小さく弱く握り返す手もまた、心の内を伝えてくるようだ。
浅い息使い。
何事かを伝えようと、微かに震える唇。
言い掛けては噤んで視線を逸らす。そしてまた、私の目を見て口を開こうとするものの、俯き黙り込む。
その姿は弱々しく、いつもの元気な柚葉ちゃんからは想像もできない。
でも、これも彼女の一面・・・。
ううん、きっとこれが本当の柚葉ちゃん、なんじゃないのかな・・・。
寂しくて不安で、誰かと一緒に居たいけど、でも特別じゃないって判ってて。
誰かの一番に・・・特別になりたいけど、その確証が持てなくて。
手の振えが、その事を雄弁に語っているように感じられた。
でも。
柚葉ちゃんの瞳が、私の目をまっすぐに見据える。
潤んで揺れていても、その奥には小さな火が見えるよう。
握り返す指先にも僅かに力が戻り、何事かを決心したのか、口元を結んでいる。
そして柔らかく微笑むと、
「あたしも・・・あたしもなりたい。碧さんと一緒に、幼馴染みたいになってみたいっ」
そう告げた。
また震えだす指先、そして不安げな瞳・・・。
「・・・でも・・・」
「・・・うん。これからの事だもんね、不安な事っていっぱいあるよね?私だってそうですよ?」
にこりと笑いながら、私は柚葉ちゃんの手の温もりを感じる。
それは記憶の彼方。
もう会えない、あの子の手の暖かさのようで。
そう・・・この暖かさがあるから、私はきっと柚葉ちゃんと一緒に居たいと思えるんだ。
ずっとずっと・・・離さずに居たいから。
「・・・うん」
まだ『不安』が揺り戻して来る柚葉ちゃんに、私は・・・。
「一緒なら、きっと大丈夫っ!・・・だから・・・今日の事は、ごめんなさい・・・」
消え入りそうな声で、そう呟いた。




