第十五話-3
校内のお昼休みなんて、皆にとっての解放時間。
だから、どこを見ても人、人、人。
もちろん、街中のような人だかりではないものの、この中から特定の誰かを探す・・・となると。
何処に居るか判らなければ、中々に大変な事。
でも、柚葉ちゃんは『食堂へ』と言っていた。
・・・
教室を出てから、普段よりも速足で廊下を抜けていく。
ひとの流れを避けながら食堂に向かうけれど・・・。
ふと、一階に向かう階段の前で、私の足が止まる。
コツンと小さな音が耳に届き、そこから動けない。
手摺りを掴みながら、頭に沸いた疑問が私を前に行かせない。
柚葉ちゃんは、食堂に行くと言っていたけれど、それは本当に?
教室での柚葉ちゃんは、私が余計な事をしたせいで落ち込んでいた。そんな状態で、人前に出たり人の中に居られるものかしら。
それに、お弁当が無いと言うのも本当なの?
・・・
もし、教室でみんなと一緒に居るのが苦しかったのだとしたら?
もし、ひとりで居たいのだとしたら?
柚葉ちゃん、あなたはどこへ行くの?
ひとりになれそうなところ?
それはどこ?
もう一歩、階段を降りようとするけれど、足が前に進まない。
それはまるで、身体が『違うよ』と言ってるかのよう。
何故?
柚葉ちゃんは、本当にひとりで居たいの?
私が隣に居ると、柚葉ちゃんは苦しいの?
言葉通りに、信じてあげれば良いの?
それとも、心の奥では『違うよ』って言ってるの?
教えて・・・
教えてよ、柚葉ちゃん・・・。
頭の中を疑問が駆け巡る。
判らない・・・。
手摺りを握る手に、熱が籠る。
呼吸が浅くなり、肺から空気を搾りだすように息をする。
悩む時間も無限にある訳じゃない。
このまま、どこに向かうか決められなければ、そのままお昼休みも終わってしまう。
そうなれば・・・。
もちろん、確信がある訳じゃない。
だけど、どこか否定しきれない私がいる。
『柚葉ちゃんとの縁が切れてしまう』
その言葉が脳裏を過るだけで、胃のあたりに圧迫感が広がる。
私の仕出かした事で、そのまま柚葉ちゃんとの接点が無くなれば、どれほどに後悔が押し寄せるだろう。
いや、私の事は自業自得としても、柚葉ちゃんの心はどうなるの?
ひとりでその傷を抱えて癒すの?
誰かを隣にして?
傷つけた私には、それを癒す機会さえ与えられずに・・・?
嫌だ。
嫌だ嫌だっ!
そんなの・・・。
睨むように目に力を籠め、ただ前だけを見据えて、私は階段を一歩踏み出す。
もう一歩、そしてもう一歩・・・。
階段を、一階へと降りて行く。
柚葉ちゃんは『食堂に行く』と言ったの。
だから、そこに行けば・・・。
もう一歩進もうとした、その時に。
不意に、真ちゃんの顔が浮かぶ。
優しい笑顔で、『待ってるから』と言ってくれた真ちゃん。
『全部食べちゃうよ?』と悪戯っぽく笑う瑠璃ちゃん。
ふたりは・・・なんで信じてくれるの?
こんな私を、なんで・・・。
「・・・っ!!」
答えが出るよりも、考えるよりも早くに私の足は階段を蹴る。
降りかけていた階段を強く踏み、元の踊り場へと舞い戻った。
足が床に着くと同時に踏みしめ、身体が前へ前へと押し出される。
何処へ行くのか自分でも判らないのに、まるで答えを知っているかのように身体だけが動いて行く。
『そうだ・・・本当に嫌なら、柚葉ちゃんには帰るって選択肢もある。トイレかどこか、見えないところに隠れる事だって出来る。・・・でも、真ちゃんは『柚葉ちゃんと一緒に戻って』って言った。瑠璃ちゃんも、帰ってくるって信じてた。・・・なら、探すところは、ひとりになれて、他の人が来なさそうで、見つかり難いところ・・・』
駆け足で人を避けながら、廊下を進んで行く。
ただまっすぐに前を見据え、普段のような笑顔ももう脱ぎ捨てて。
どんな顔をして柚葉ちゃんに会うかなんて、今は考えない。
ただただ、あんな悲しそうな顔をした柚葉ちゃんを放って置くなんて、私には出来ないって判ったから・・・。
だから・・・。
お願いだから、私を・・・。
私を、まだ友達で居させて。
気が焦るからか、それとも単に運動不足なだけか。
荒くなった息を整えながら、私は扉のノブに手を掛ける。
この向こうは、非常階段。
普段は誰も使っていない、校舎の端の端。
そう、ここは誰も来ない。
お昼休みだろうと放課後だろうと、変わりなく誰も居ない。
ここに足を運ぶのは、ひとりになりたいけど、『もしかしたら誰か来るかも・・・』という心に隙間のある人だけ。
・・・そう、かつての私の様に・・・。




