第十四話-2
そういえば・・・。
「そう言えば、先日言ってたデート。行先は決まりました?」
私はちょっと意地悪っぽく、気になっていた事を聞いてみる。
ふたりとも、お互いに勇気を出して関係を進めたのだし、きっと行先を決めるだけでも楽しいのだろう。
どんな話をしたのか、それを考えるだけでもこちらまで楽しくなる。
そして、それが事実だとでも示すかの様に、ふたりとも頬を赤く染めて俯く。
けれども・・・。
「うん、水族館に行く事にしたの」
「良いですね、水族館。デートの定番ですね」
「そうなの。祐也のお勧めでね。・・・あいつ、こういう時に良い案持って来るから困るのよね」
あれ?
「・・・え?あの・・・デートに行くのに、行先を如月くんに相談したんですか?」
私の疑問に対して、ふたりは顔を見合わせてから同時に頷く。
え?
ふたりがデートするんですよね?
なんでここで如月くんが出て来るんです?
そもそも、先日のお昼に、瑠璃ちゃんは如月くんに凄い剣幕で噛みついてましたよね?
真ちゃんも、その場を納められず困ってましたよね?
その原因作ったのって如月くんなのに、どうして相談出来るんです??
『あれだけ揉めてたのに・・・』
些か唖然としていた私の様子に気が付いたのか、瑠璃ちゃんが口を開く。
「その・・・私って、休みの日は家の手伝いと勉強ばかりだし、真もそんなに外に出掛ける事って無いから・・・」
「うん、それでいざ『デートしよう』って言ったは良いけど、どうにも行先思いつかなくて・・・」
ふたりとも、意外な事にあまり出掛けない人だったんですね。
・・・あ、でもなんとなく判ります。
瑠璃ちゃんは、いつも真ちゃんにべったりだったし。
真ちゃんは、瑠璃ちゃんか如月くんと一緒のところを多く見てましたもの。
というか、私と柚葉ちゃんを加えた4人以外と、積極的に交流してる様子ってなかったですね。
なるほど・・・。
「流石に近所の公園ってのも味気ないしね」
「そうそう、仕方ないから話してみたら、『水族館はどう?』って」
いや、幼馴染でもデートのプランまで話せるものなんです?
プライバシーとか秘密の関係とかって、考えないんでしょうか?
「でも意外だよね?祐也が水族館が好きだなんて」
「そう??でもあいつ、『年間パスポート』買ったって言ってなかったかしら?」
「?いつ?」
「うーん・・・良く覚えてないけど、確か・・・去年くらいじゃなかった?」
「・・・ああ、免許取って行きたいところがあるって言ってた時っ!」
「そうそうっ!それよっ!」
本当、先日の騒動は何だったんでしょうか・・・。
柚葉ちゃんはショック受けてるみたいだったし、周りの皆は驚くしで、結構大変だったんですけどね。
・・・でも、幼馴染の絆って・・・それくらいでは壊れたりしないんですね。
私は笑顔のまま、小さく息を吐く。
そして羨望と・・・どこか諦めの籠った視線を送る。
三人の間にあるのはただの感情ではなく、一緒に過ごしてきた時間そのものが、今の関係を築いているんですね。
・・・
私には、そんな相手が居なかったな・・・。
胸の奥に、僅かな冷えがある。
痛み?
苦しさ?
・・・これは何?
締め付けられるような、息苦しさのような・・・。
「ふふっ。やっぱり仲良しさんなんですね」
それでも、精一杯の笑顔で、ふたりを見る。
瑠璃ちゃん。
真ちゃん。
如月くん。
そして、柚葉ちゃん。
私が大好きな人たち。
そのちょっと照れたような笑顔が、私の心に光をくれる。
今は、それで良い。
きっとこの先、私は一緒に光になれる人を作るから。
だから。
今この幸せな場所に一緒に居させて。
「・・・そうね。なんだかんだ、祐也とは長い付き合いだし・・・」
「幼稚園の頃からだもんね?気心が知れてるから、どうしても雑な付き合い方になっちゃうけどね・・・」
「まあ、感謝が無い訳じゃないわよね」
「お・・・私は、ちゃんと感謝してるよ?」
まあまあ。
素直じゃありませんね。
ちゃんと素直にならないと、どこかで後悔する事もあるかもしれませんよ?
・・・
それは・・・私の事・・・かな。
後悔・・・か。
幼稚園の頃、仲の良かったあの子・・・。
小学校に上がった時別れてから、もう会えなくなってしまった子。
いつも元気で、明るくて、可愛い笑顔の似合う素敵な女の子。
世界が、家族と通っていた幼稚園だけだった頃。
卒園して小学校に上がっても、世界は変わらないと思ってた。
またすぐに会えると思ってた。
また一緒に絵本が読めると思ってた。
一緒にかけっこが出来ると思ってた。
ずっと楽しい時間があるんだって・・・。
でも、そんな現実は無かった。
私が小さい頃には、お母さんは身体を壊して入院していた。
家には、お父さんと私のふたり。
病院に居るお母さんに会えるのは、週末だけ。
お父さんは、仕事と私の世話で忙殺されていたと、今なら判る。
仕事に行く時に寄る事の出来る幼稚園に、私は預けられていた。
その幼稚園が家の近くでは無い事を知ったのは、小学校に上がってからの事。
・・・小学校に、私の知っている子は、誰一人いなかったのだから。
世界は・・・時間は、無慈悲だ。
過ぎ去ってしまえば・・・離れてしまえば、どれだけ望んでももう手は届かない。
望んでも、取り戻したくても、時間が過ぎてしまえば、記憶すらあやふやになってしまう。
手を伸ばす事が出来るようになっても、今度はもうその子が何処の誰なのかも判らなくなってしまう。
思い出したくても、もう顔も・・・名前すら思い出せない。
忘れない為に何度も眺めたアルバムさえも、何時しか開かなくなってしまった。
離れて、忘れて、苦しくて・・・。
何時しか、苦しさから逃れる為に本を手に取った。
思い出の彼方のあの子。
彼女と一緒に読んだ絵本の記憶。
もし、彼女のまた会えた時に、『一緒に読もうね』と言えるように・・・。
でも、それが私を『優等生』『優しくて物静か』『本が好きな碧さん』という、他人の目の檻に閉じ込めた・・・。




