表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/62

第十四話-1

校門前。

普段よりも早めのバスで登校して、ぼんやりと空を眺めながら人を待つ。

5月の空は、徐々に濃くなりつつある蒼が広がり、柔らかな乾いた風がゆっくと吹き抜ける・・・。

が、今日は違う。

薄い灰色雲が空の大半を覆い、西側には日差しを遮るような暗い雲が姿を現している。

山から吹き下ろす風はまだ涼しく、ゆっくりと、時に強く吹き抜けて行く。

私は、風を避ける為に、道から少し入った校門横の壁に背中を預けている。それでも時々、巻いた風がスカートの裾を揺らす。

捲れてしまう程ではないけれど、それでも時々は気にしなければ、うっかり『見えて』しまうかもしれない。

・・・『見えて』しまう程の長さではないはずだけど、それでも・・・。


『・・・まだ慣れませんね』


1年の時は普通の長さだったスカート丈。

制服自体を着崩す事はしないけれど、今はあの頃よりも短くしている。

・・・理由なんて単純なもの。

その方が可愛いから。

だから、スカート丈を短くしただけじゃない。ニーハイソックスも普段から使ってる。

これだって可愛い。

漫画やアニメで見る印象と、そんなに変わらないくらい可愛い。

他にもいろいろ変えられれば、もっと可愛くなれるのかしら?

・・・

でも多分、それは他の人に言っても信じて貰えない。

そんな風に、私は見られてる。

大人しくて、落ち着いてて、静かで、控えめな優等生。

気遣いが出来て、誰にでも親切な女の子。

本が好きで、図書委員で、真面目で優しい碧さん。


それが皆から見た私。藤原碧。


私の事を知ってる人は、誰でもそう言う。

場合によっては、私が知らない人までがそんな事を言う。

見た目の印象。

話した感じ。

人伝に聞いた。

・・・などなど。


昔・・・と言っても、中学時代だけど・・・から知ってる人は・・・やっぱりそう言う。


もちろん間違ってはいないけれど、だからと言って、それが私の総てではない。

私だって年相応におしゃれだってしたいし、友達と一緒にお出掛けして、いろいろはしゃいで回りたい。

気になるスイーツがあれば食べてみたいと思うし、ネイルだって試してみたい。

メイクだってもっとしたいし、ピアス・・・は怖いけど、アクセサリーだって楽しみたい。

彼氏だって欲しいし・・・その先の事だって・・・その、色々興味はある・・・。


でも、それを口にする勇気が無い。

試してみたくても、望む事があっても、踏み出す勇気が無ければ現実にはならない。

それは判ってる。

・・・判ってても、難しい事ってある。


「はあ・・・」


小さく息を吐き、呼吸を整える。

今目の前に広がるのは、学校に向かって坂を上ってくる生徒たち。

ひとりとして同じ人は居ないのに、恰好はみな変わらない。

その中で、少しずつ他の人との違いを出して、個性を見せている。

大きめの上着で袖元をゆったりと隠している人。

襟元を緩めて、少し肌を見せてる人。

指先を大きめのネイルにして、ピアスを付けてる人。

髪の色や、メイクの違いも個性。


私は、そこに混ざれてはいない。


素直に、『羨ましいな』と思う。

自分の『好き』や『好み』、『やりたい事』を自由に言える。

これは普通の事。誰かに止められるような事ではない。

でも、周りの人からの印象や扱われてきた過去が、常に壁として立ちはだかる。

もし私が、明日いきなりギャルっぽい恰好をしたら、皆はどう言うだろう?


『可愛いね』

『素敵だね』

『かっこいいね』


絶対、そんな事は言わない。


『碧さん、どうしたの?』

『何かあったの?困った事でもあった?』


多分、言われるのはこっち。


他人からの印象って、突き詰めてしまえば『他人の勝手な妄想』でしかないけれど、他人は悪意無くその『妄想』を言葉にする。

本人が『どうしたいか』『どう思っているか』よりも先に。


正直、息苦しい。


これが、私の考え・・・というか、私の『他人に対する妄想』なのも判ってる。

他人はそこまで私の考えや好みになんて興味無いのも判ってる。

それでも考えてしまうし、相手の考えを汲み取ろうとしてしまう。

それが、私のこれまでの歩いてきた道だから・・・。


『・・・嫌になるなぁ・・・』


何とは無しに、空を見上げる。

朝見た天気予報では、今日は終日曇りの予想。

降水確率だって高くはない。

でも、だからって雨が降らない訳じゃない。

不意に風向きが変わり、少し強く吹き付けると、水と埃が混ざったような匂いが鼻腔に入ってくる。

もしかしたら、観測されるかされないか程度の、弱い雨が近づいているのかもしれない。

先程からの考えに加えて、雨の予感が追い打ちを掛ける。

人によっては、『こんな気分の時に学校には行きたくない』って素直に言えるだろうに。

でも。

そんな時でも、学校でしか会えないような人が居るなら、来る理由にはなるんだろうか?

もしかしたら『友達』

もしかしたら『恋人』

それとも『憧れる人』かもしれない。

ただ会えるだけで嬉しくなる、そんな人が居れば、気分が沈む事は少ないのかもしれない。


視線を坂に下ろせば、『その人』たちが見えて来た。


ちょっとだけ気分が軽くなり、頬が緩むのが判る。

もう少し近付いたら、手を振って挨拶をしよう。

今のこんなつまらない考えなんて捨てて、ただ楽しく接する事が出来れば・・・、きっともっと仲良くなれるはずだから。


私は笑顔を作りながら、ふたりに手を振る。

いつも仲の良いふたり。

友達の瑠璃ちゃんと真ちゃん。

幼馴染で同級生で、デートするような間柄。

お互いの心の内を曝け出しあえるような、そんなふたり。

・・・まあ、クラスメイトの前でイチャつけるくらいには親密。

そこまで行くと、羨ましいって気持ちも湧かなくなりますね。


「おはようございます。瑠璃ちゃん、真ちゃん」


私は笑顔でふたりに挨拶をする。


「おはよう、碧さん」

「おはようございます、碧さん。今日も早いのね」


ふたりとも笑顔。

以前は、瑠璃ちゃんは気を張っていたような印象だったけど、先日の一件以来少し柔らかくなった感じがする。

それは、真ちゃんもかな?

自信が無く、少しオドオドしたところがあったけど、最近は落ち着いてる。

料理を始めたとは言ってたけど、それが関係するのかしら?

出来る事が増えて、それが自信に繋ると、自己肯定感が上がる・・・という事なの?

・・・なんにしても、ふたりは少し心に余裕が出来たみたい。

ふふっと思わず笑顔が零れる。

良いなぁ・・・。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ