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第十二話-5

「お、その卵焼きって・・・」


タッパーを指差しながら俺に尋ねる。


そうかと、祐也には教えてなかった事を思い出して、俺が作った事を伝えると、


「へーっ!ま・・・織部さんがねぇ」と、驚きを隠さない。


当然と言えば当然の反応だけど、それでも少しは思う事もある。

剣道と瑠璃の事ばかりで、他に興味が無かった頃とは違うし、男女関係なく料理くらいは出来ないと生活していく上で不便はあるだろうとは思う。


そりゃ、料理に興味を示して無かった奴が、いきなり料理始めたら驚くだろうけどね。


しかしなるほど、デリカシーが無い、か・・・。


気にした事無かったけど、瑠璃の言う通りなのかもな。


などと考えている一瞬に、


「そうよ!?真が、私の為に作ってくれた卵焼きなの。すっごく美味しかったんだからっ」


と、自慢気な瑠璃。


いつもの凛とした雰囲気はどこへやら。


胸を張り、『どうだっ』と言わんばかりだ。

それだけ喜んで貰えるなら、作った側としては有難い限りなんだけど・・・。



でも、困ったな。



この流れだと、最後に残った卵焼きは瑠璃が食べる事になる。


祐也にも食べて貰って、感想聞きたいんだけどな。



さて・・・。



「あら。瑠璃ちゃん、私が作ったおかずも、ちょっと食べてみてくれます?自信あるんですよ?」


そう言いながら、碧さんが自身のお弁当から、ブロッコリーの塊(大きめ)を摘まみ、瑠璃に勧める。

鮮やかな緑が綺麗で、そこに少し灰色をしたソースが絡まっている。


塩だれかな?


穏やかな笑顔で差し出されたそれを、瑠璃は反射的に口に入れる。その瑠璃が顔を逸らした間に、祐也が手を伸ばして卵焼きを摘まみ、ケチャップを僅かに潜らせると、流れる様に口へと運ぶ。


「あっ」っという間、とはこの事だろう。

俺も柚葉ちゃんも言葉が無かった。

瑠璃は、口の中にブロッコリーがあるから、そもそも喋れない。

碧さんの表情が変わってないところを見ると、狙っていた・・・のかもしれない。


でも、そんな事が可能とも思えないが。


もぐもぐと口を動かし、一息に飲み込んでから、


「うわっ!これ、すっごいウマい。こんな卵焼き、俺初めて食べたよ。ま・・・織部さん、凄いね」


そう褒めてくれる。

それはとっても嬉しいんだけど・・・。


嬉しいんだけども。


隣で、口の中のブロッコリーと格闘している瑠璃が、今にも噛みつきそうな目で祐也を見ている。


なんだろう、こんなの見た事あるよ。


・・・


確か、近所のチワワが、ご飯食べながら周りを威嚇してる。そんな感じ・・・。


「ブロッコリーの塩だれ炒めだけど、お味はどうかしら、瑠璃ちゃん?」


碧さんは、穏やかな顔を崩さずに、ゆっくりと瑠璃に問う。


口の中のブロッコリーを飲み込み、にこやかな笑顔を浮かべる瑠璃。


「うん、美味しかったよっ!塩だれの風味も良かったけど、ブロッコリーにもちょっと塩味が効いてたのが、食べやすくて好きっ。碧さんって、料理上手なんだね」

「ふふっ、ありがとう。最初に茹でる時に、ちょっとお塩強めにしてみたの。冷めても美味しいかなって」


口元に手を当てて、柔らかく笑う碧さん。

それにつられて、微笑む瑠璃。

良かった・・・。碧さんが、瑠璃の事を判ってくれてるお陰だな。


俺だと、どうしても瑠璃と祐也の両方に気を使っちゃうから、纏めきれなくなるんだよね。


助かった・・・。


と、思ったのもつかの間。


瑠璃はお弁当箱を机に置いて立ち上がると、祐也の前に進み出る。

身長差があるからだけど、下から背伸びでもするように祐也を睨み上げている。


あーあ・・・。


先程までの穏やかさはどこに行ったのやら、今は噛みつく一歩手前だ。


これには、碧さんもちょっと困り顔。


隣の柚葉ちゃんに至っては、どうしようかという慌てが透けて見えるようだ。


それは俺も一緒。

このふたり、本当によくぶつかるなぁ・・・。

思わず溜息が出る。


「あの卵焼き、最後の一個だったのよ!?私が食べるはずだったのに、なんであんたが食べちゃってるのよっ!!」


瑠璃の剣幕に押され、少したじろぐ祐也。

苦笑いを浮かべながら、俺に助けを求めるのか、視線を送る。


でもごめん。流石に今の瑠璃は止められないや。

俺が小さく首を振って答えにすると、さらに困り顔になる。


「・・・悪かったよ・・・。卵焼きひとつで、そんな目くじら立てないでくれよ・・・」

「卵焼きひとつですって!?真が、私に作ってくれた卵焼きなのよ?その最後のひとつなんて、特別じゃないっ!」


・・・なんだか、判ったような判らないような事を突きつける。

見れば、拳を握り締めている。


子供の頃なら、この後手を出して先生に怒られるんだよな・・・。でも、流石にそれはない。


ちゃんとやって良いことと悪い事の区別は出来る年頃だ。


だからこそ、感情のやり場に困る、と言えばそう。



でも、ここで『そうだよ、卵焼きくらいまた作ってあげるから』と言うと、『特別』って思ってくれてる瑠璃が傷つくし。


かといって、『そうだよ、特別なんだから。祐也が悪い』とも言えない。


そもそも、瑠璃に明言してなかったけど、祐也が来たら食べて貰うつもりだったんだ。その為に、お弁当とは別にタッパーに入れて来たんだからね。・・・俺の説明が足りなかったせいか・・・。


「祐也って、ほんと昔っから私と真の間をちょろちょろと邪魔して・・・っ!」

「いや、それは・・・っ」

「それは?それって何よ??」

「いや・・・その・・・」

「何よっ!!はっきり言いなさいよっ!」

「・・・」


流石に、そろそろ他のグループの子たちが『何事?』と注目しだす。

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