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第十二話-4

ゆっくりと笑いながらのお昼。


4人それぞれのお弁当を摘まみながら、俺の卵焼きに手を伸ばしてくれる・・・のだけれど。


そもそも8切れ入れて来た卵焼きのうち、2切れは瑠璃が食べてしまってる。

あと6切れを4人で分けるって・・・誰か1切れで我慢しなければいけなくなってしまう。


まあ俺のお弁当には卵焼きが入ってるから、俺が摘ままなければ良いだけなんだ。

それに、瑠璃が嬉しそうなのが何より。


塩胡椒だけで味付けた卵。細切りにしたジャガイモがベーコンの脂を吸い、シュレッドチーズが味を深める。

軽く味を調えられるようにと、カップに用意したケチャップも好評なよう。


皆が笑顔で食べてくれる。


家族が喜んでくれるのとは、また別の喜びがそこにはある。


それに他愛のないお喋りも、連休中のそれぞれの様子を聞けるのも、こういう場があってこそ。

自然と頬が緩み、目を細めて笑える。

大きな声ではないけれど、皆でゆっくりと笑えるのは、きっと幸せな事なんだな。


周囲の他のグループもそうだ。

皆が楽しそうに笑いながら過ごせている。

でも、その中に入らない人もいる。

クラスの皆が皆、教室に残ってお昼にしている訳ではない。


誘われても断る人。


皆が集まったり声を掛けたりする前に、一旦教室を離れ購買へ行くのか、それとも適当に時間を潰すのか、しばらく後に戻って来て机でひとりお昼を食べる人もいる。


多分だけど、他のクラスの友人のところへ行く人もいる。


屋上や、グラウンド横のベンチで食べてる人もいる。


様々に皆が時間を使う中、今こうして集まれるのが俺は嬉しい。


「じゃあ、碧さんもバイト始めたの?」


意外そうに瑠璃が問う。

微笑みながら、小さく頷く碧さん。


優しい目元に、少しだけ赤みが差したようにも見えた。・・・見間違いかな?


「ええ。うちの近くのお店なんだけど、いつもバイト募集してたから、いい機会かなって思って」

「へ~・・・意外ねーっ。碧さんって、なんとなく『お嬢様』って感じだから、バイトしてる姿がイメージ出来ないやっ」


大きな笑顔の柚葉ちゃんと、口元を隠しながら小さく笑う碧さん。

元気さと控えめな優しさが、意外なくらいに距離感を感じさせない。

ただ自然にそこで寄り添っているよう。


知らない人が見たら、『仲の良い幼馴染』に見えるのかもしれない。


極々自然に笑いあえる関係。


今のこの関係だって、このクラスになってからのものだけど、でも自然に受け入れられている。


誰も疑問に思わないような雰囲気が、そこにはある。


「それにね・・・」


碧さんが、控えめに話を続ける。


「ちょっと気になる事もあったから・・・」


少し俯きながら柚葉ちゃんを見て、また少し視線を外す。

・・・

なんだろう、少しだけ妙な『間』があったようだけど・・・。


「気になる事?」


特に碧さんの様子を気にするでもなく、柚葉ちゃんは話を続ける。

そこにあるのは、ただ友達の様子を気にする女の子の姿。

小首を傾げながら、碧さんの話の続きを促す。


「それは・・・」


言い淀みながら、僅かに頬を染める。

なんとなく妙な雰囲気が流れだしている。

多分、柚葉ちゃんには悪気はないし、あるのはただの興味だけ。

碧さんは、思ったよりも柚葉ちゃんの食いつきが良くて戸惑っている・・・のかな?


俺が何か言うよりも、瑠璃がひと言話を逸らせてくれれば良いのだけれど。


そんな思いを込めて瑠璃に視線を送ってはみるが、肝心の瑠璃は自身のお弁当のおかずに夢中だ。


やれやれ・・・。


「あ、バイトと言えばさ・・・」


俺が話を逸らしたくて話し始めた途端に、碧さんと柚葉ちゃんの視線が俺に集中する。


あれ?


ふたりとも、今の話を続けたかった?


・・・かと思ったが、視線は『俺』ではなく、『俺の後ろ』に向かっていた。


なんだろう?と思いつつ振り向けば、近づいてくる祐也の姿がそこにはあった。

手には文庫本を持ち、口元に人差し指を当てながら忍び足で・・・。

その姿のまま立ち止まる祐也をジト目で見ながら、


「なにしてるの?」


俺は思わず、抑揚のない声を出す。


怪しくて警戒するというよりは、怪しくて呆れる・・・と言うのが適切かもしれない。

大体、昔から・・・と言うか幼馴染だからって、今は『男』と『女』なのだから、あまり子供の頃のような悪戯をする時の雰囲気を出すのはどうかと思う。


この間だって、自分で『年頃の男女には距離感が大事なんだ』とか言ってただろうに・・・。


まったく、何をやっているんだか・・・。


「「こんにちわ、如月くんっ」」


俺の考えなどどこ吹く風か、柚葉ちゃんと碧さんが祐也に声を掛ける。


明るい、弾んだような声。


柚葉ちゃんはいつもの事だけど、碧さんがこんな弾んだ声を出すのを、俺は聞いたことが無かった。


今この瞬間、ふたりの表情を見ることが出来ないのが恨めしい。

それと同じくらい、見えない事に安堵を覚える。

俺の頭に過った考え・・・それは・・・。


「祐也・・・。あんた、子供じゃないんだから、節度ってもの考えなさいよ」


こういう時だけは反応が早い。

瑠璃がおかずを口に運ぶ途中で手を止め、呆れ顔で言い放つ。


節度・・・ね。

朝から『我慢出来ない』って、卵焼きつまみ食いしてたのは、節度があるんだね。


・・・可愛いから良いけどさ。


悪戯をしようとしていた当の本人はと言えば、「あははっバレちゃ仕方ないな」と一向に悪びれる様子もない。


普段なら、人前では一歩引いたような態度を取る癖に、今日はどうしたのか。


聞いてみるべきとも思ったけれど、手元にある文庫本が目に入る。


あれは・・・。


「やあ、織部さん。頼まれてた本、持ってきたよ」


とまあ、わざとらしく笑顔で話しかけて来る。

そっか、本を借りる約束していたっけ。

祐也はいろいろ本を持ってるから、ついつい買わずに借りちゃうんだよね。

もちろん、何でもかんでも持ってる訳じゃないけど。


俺の席までやって来て、俺に本を手渡してくれる。

そして、お弁当の近くに置いてあるタッパーに気が付いたのか、「おや?」と首を傾げた。

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