第十二話-3
昼休み。
久々に、友達と一緒にお昼を食べる時間。
そこかしこで仲の良い友達同士が隣り合い、場所を譲りながらも固まり、一緒にお弁当を広げている。
窓の外へと目を遣れば、初夏の爽やかな風が見えるよう。
青く広がる空の元、遠くの雲は固まり、陰りさえ見えぬ、ただひたすらの白。
木々が風に揺らめき、葉を触れさせる音すら聞こえてきそうなくらいの長閑さだ。
こんな日に、どこかの公園や広場でのんびりとお弁当でも食べたら、さぞかし気持ち良いだろう。
暖かな木漏れ日、頬を撫でる風。そして、風が運んで来る木々の騒めきや、水の気配。瑠璃とふたり、並んでサンドイッチでも食べられたら、それだけでも十分に幸せだろうな。
そんな事を考えつつ、皆で机を囲む。
皆と言っても、俺、瑠璃、柚葉ちゃん、それから碧さん。
普段はそう目立たない女の子・・・という訳でもない。口数は少なく、そうころころと表情が変わるような事も無いけれど、整った目鼻立ちと艶やかな黒髪が、人の視線を惹きつける。
「碧さん、お弁当にしようっ」
柚葉ちゃんの声は軽やか。
ゆっくりと微笑んで、耳に掛かった髪を梳くように流しながら、軽く頷く。
耳の上からすくいとった髪を編んで、後ろの少し低い位置で軽く束ねているのがトレードマーク。今日は大きめのリボンバレッタで結い目を留めていた。
制服を着崩す事も無く、それでもスカートは少し短い。足元のニーハイソックスが可愛らしさを演出しているようだ。
控えめな笑顔で、声を掛けられればゆっくりと目線を向けてくれる。
俺や瑠璃が一緒に居ても、落ち着いた気分でいられる女の子。藤原碧。
幸いとして、俺と瑠璃、柚葉ちゃんは席が隣り合ってるので、向きを変えるだけで食べる場所が作れる。そこに碧さんが椅子とお弁当を持ってやってくる。
もう、いつもの光景になったお昼休み。
・・・この身体になった当初、『ひとりでお昼を食べる不安』があった事など、もう遠い過去のよう。
女になった俺になんて、瑠璃すら近寄りもしないって思っていた。
それが柚葉ちゃんが中心に、いろんなお喋りが出来るようになるなんて・・・。
ありがたい。
瑠璃、柚葉ちゃん、碧さんだけじゃない。
クラスのみんなも・・・。もちろん、気を使ってくれてる人が大半なのも判ってるけど、それでも孤立せずに居られるのはありがたい。
だからこそ、少しでも出来る事が増えれば、それを見て貰いたい。
簡単な料理でも、出来るようになった結果を見て貰いたい。
それを体感して貰いたい。
本来はその為の卵焼き・・・だと思っていたのだけど。
でも今朝の事で、本当は『瑠璃に』食べて貰いたかった、と気付かされた。
自分の事なのに、判らない事ってあるんだね。
でも、柚葉ちゃんや碧さんに食べて貰いたい気持ちも嘘じゃない。
だから、これからみんなで食べよう。
お昼のお弁当に添えて、皆で。
「真の卵焼き、美味しかったのよーっ!・・・私の為に作ってくれたんだし、美味しいのは当たり前なんだけどね?私の為なんだしっ」
・・・瑠璃が、朝から食べちゃった事を除けば。
瑠璃が喜んでくれているのは嬉しいのだけれど、朝の出来事を思い返せば苦笑いが浮かんで来る。
結局、教室に付いた途端に包みを解いて、『いただきますっ』と食べていたのだから。
周囲のクラスメイトの目も気にせずに。
これには、柚葉ちゃんも碧さんも驚いていた。
普段から『節制』だの『見られ方が』だのって言ってるのは、瑠璃なんだから。
それだけ楽しみだったのか、それともハムスターになる程の不安の反動なのか。
いずれにせよ、皆にとっては、瑠璃の意外な一面だったんだろうな。
瑠璃がバッグの中から、自身と俺のお弁当を机に出す。
そして包みを開き、お惣菜用タッパーを開けると、俺の作った卵焼きが姿を現す。
・・・
・・・
2個減ってる。
・・・
俺は確か、『ひとつだけだよ?』って言ったはず。
瑠璃も頷いて納得したはずなんだけど?
少しジト目で瑠璃を見るが、あからさまに目を逸らされた。
何時の間に・・・。
「瑠璃?」
流石に、俺も少し呆れ気味に声を上げる。
食べたいのは判るけど、だからって・・・。
柚葉ちゃんや碧さん、もしかしたら他の人にも食べて貰うかもしれなかったのに。
「だって・・・」
「だって?」
責めるつもりは無いけど、理由くらいは聞いておきたい。
理由さえ判れば、次からどうするか考えられるのだから。
だからこそ、ちゃんと教えて欲しい。
俺は瑠璃が答えてくれるのを待った。
少しだけ間があって、
「真が作ってくれたと思ったら、我慢できなかったの・・・」
・・・まあ、可愛らしい理由で良かった。
その様子が可笑しかったのか、柚葉ちゃんも碧さんも、口元を押さえて、声を殺して笑っている。
普段の凛とした瑠璃からは、考えられない理由と仕草が、どうにもツボに入ったらしい。
ふたりとも肩を震わせ、前かがみになりながら笑いを堪えていたけど、
「あははははははっ!」
ふたり揃って声を出して笑い始めた。
その隣で少し不貞腐れ、顔を赤らめながら俯く瑠璃。
やれやれ・・・。
次は、少し多めに持って来るか。それとも、うちで食べてもらうかな?




