表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/57

第十二話-3

昼休み。


久々に、友達と一緒にお昼を食べる時間。


そこかしこで仲の良い友達同士が隣り合い、場所を譲りながらも固まり、一緒にお弁当を広げている。


窓の外へと目を遣れば、初夏の爽やかな風が見えるよう。

青く広がる空の元、遠くの雲は固まり、陰りさえ見えぬ、ただひたすらの白。

木々が風に揺らめき、葉を触れさせる音すら聞こえてきそうなくらいの長閑さだ。

こんな日に、どこかの公園や広場でのんびりとお弁当でも食べたら、さぞかし気持ち良いだろう。

暖かな木漏れ日、頬を撫でる風。そして、風が運んで来る木々の騒めきや、水の気配。瑠璃とふたり、並んでサンドイッチでも食べられたら、それだけでも十分に幸せだろうな。


そんな事を考えつつ、皆で机を囲む。


皆と言っても、俺、瑠璃、柚葉ちゃん、それから碧さん。


普段はそう目立たない女の子・・・という訳でもない。口数は少なく、そうころころと表情が変わるような事も無いけれど、整った目鼻立ちと艶やかな黒髪が、人の視線を惹きつける。


「碧さん、お弁当にしようっ」


柚葉ちゃんの声は軽やか。


ゆっくりと微笑んで、耳に掛かった髪を梳くように流しながら、軽く頷く。

耳の上からすくいとった髪を編んで、後ろの少し低い位置で軽く束ねているのがトレードマーク。今日は大きめのリボンバレッタで結い目を留めていた。


制服を着崩す事も無く、それでもスカートは少し短い。足元のニーハイソックスが可愛らしさを演出しているようだ。


控えめな笑顔で、声を掛けられればゆっくりと目線を向けてくれる。


俺や瑠璃が一緒に居ても、落ち着いた気分でいられる女の子。藤原碧あおい


幸いとして、俺と瑠璃、柚葉ちゃんは席が隣り合ってるので、向きを変えるだけで食べる場所が作れる。そこに碧さんが椅子とお弁当を持ってやってくる。


もう、いつもの光景になったお昼休み。


・・・この身体になった当初、『ひとりでお昼を食べる不安』があった事など、もう遠い過去のよう。


女になった俺になんて、瑠璃すら近寄りもしないって思っていた。

それが柚葉ちゃんが中心に、いろんなお喋りが出来るようになるなんて・・・。


ありがたい。


瑠璃、柚葉ちゃん、碧さんだけじゃない。


クラスのみんなも・・・。もちろん、気を使ってくれてる人が大半なのも判ってるけど、それでも孤立せずに居られるのはありがたい。


だからこそ、少しでも出来る事が増えれば、それを見て貰いたい。

簡単な料理でも、出来るようになった結果を見て貰いたい。

それを体感して貰いたい。


本来はその為の卵焼き・・・だと思っていたのだけど。


でも今朝の事で、本当は『瑠璃に』食べて貰いたかった、と気付かされた。

自分の事なのに、判らない事ってあるんだね。


でも、柚葉ちゃんや碧さんに食べて貰いたい気持ちも嘘じゃない。


だから、これからみんなで食べよう。


お昼のお弁当に添えて、皆で。


「真の卵焼き、美味しかったのよーっ!・・・私の為に作ってくれたんだし、美味しいのは当たり前なんだけどね?私の為なんだしっ」


・・・瑠璃が、朝から食べちゃった事を除けば。


瑠璃が喜んでくれているのは嬉しいのだけれど、朝の出来事を思い返せば苦笑いが浮かんで来る。

結局、教室に付いた途端に包みを解いて、『いただきますっ』と食べていたのだから。


周囲のクラスメイトの目も気にせずに。


これには、柚葉ちゃんも碧さんも驚いていた。


普段から『節制』だの『見られ方が』だのって言ってるのは、瑠璃なんだから。


それだけ楽しみだったのか、それともハムスターになる程の不安の反動なのか。


いずれにせよ、皆にとっては、瑠璃の意外な一面だったんだろうな。


瑠璃がバッグの中から、自身と俺のお弁当を机に出す。

そして包みを開き、お惣菜用タッパーを開けると、俺の作った卵焼きが姿を現す。


・・・


・・・


2個減ってる。


・・・


俺は確か、『ひとつだけだよ?』って言ったはず。

瑠璃も頷いて納得したはずなんだけど?

少しジト目で瑠璃を見るが、あからさまに目を逸らされた。


何時の間に・・・。



「瑠璃?」



流石に、俺も少し呆れ気味に声を上げる。

食べたいのは判るけど、だからって・・・。


柚葉ちゃんや碧さん、もしかしたら他の人にも食べて貰うかもしれなかったのに。


「だって・・・」

「だって?」


責めるつもりは無いけど、理由くらいは聞いておきたい。

理由さえ判れば、次からどうするか考えられるのだから。

だからこそ、ちゃんと教えて欲しい。

俺は瑠璃が答えてくれるのを待った。


少しだけ間があって、


「真が作ってくれたと思ったら、我慢できなかったの・・・」


・・・まあ、可愛らしい理由で良かった。


その様子が可笑しかったのか、柚葉ちゃんも碧さんも、口元を押さえて、声を殺して笑っている。

普段の凛とした瑠璃からは、考えられない理由と仕草が、どうにもツボに入ったらしい。

ふたりとも肩を震わせ、前かがみになりながら笑いを堪えていたけど、


「あははははははっ!」


ふたり揃って声を出して笑い始めた。

その隣で少し不貞腐れ、顔を赤らめながら俯く瑠璃。


やれやれ・・・。


次は、少し多めに持って来るか。それとも、うちで食べてもらうかな?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ