表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/62

第十二話-2

「いや、ただ藤崎さんが今までよりギャルっぽくなってたから・・・」

「じゃあ、私もギャルっぽくなった方がいいの?そしたら、真は私だけを見てくれるの?」

「ええ?・・・いや、なんでそんな話に・・・」


そもそもギャルが好きなんて話した事無いよ。


久々に見た子が雰囲気変わってたら、気が付いちゃうでしょうに・・・。


「別にギャルが好きな訳じゃないよ。ただ、藤崎さんが変わったから、気になって見てただけだよ」

「気になるって・・・。私が居るのに、他の女の子を見るの?私が居るのにっ!」

「私が居るのにって・・・。クラスメイトなんだから、少しくらいは見たりするよ・・・」

「やっぱりっ!!やっぱり見てるんじゃない!私を見ずに、他の人見てるじゃないっ!」


うーん・・・。俺はただ、藤崎さんの雰囲気が変わったから、ちょっと気になっただけなんだけど・・・。


なんで『浮気』だの『ギャルっぽくなる』だのって話になるの?


どうすれば収まるの?

正直、困り果てている。

さっきから瑠璃はハムスターになったままだし、「他の人を見てるっ!」って怒ってばかりだし。

何か不満が起きた切っ掛けでも・・・って、それは藤崎さんがイメチェンしたのに気が付いたからで、挨拶程度に手を振ったりはしたけど、別にデレた訳じゃないし・・・。

俺はギャルが好きな訳じゃないし、それを言えば瑠璃以外好きな子なんて居ないんだし。


でもそれは瑠璃だって判ってるはずだよね?


だったら何が・・・?


「なんで黙っちゃうの?私の事、面倒だと思ってるの?」

「そんな事、思ってないよ」

「うそっ!」

「本当だよ?」

「うそよっ!」

「だから、本当だって・・・」

「うそうそっ!うそだっ!」

「本当だよ?面倒なんて思ってないよ??」

「・・・う~~~・・・」

「ね?信じて?」

「・・・」


肩を震わせ、眉を顰める瑠璃。


その真剣さは、痛いほどに俺の心に突き刺さる。


それでも・・・。


「・・・」


あー・・・黙っちゃった・・・。


見れば、瑠璃は拳を握り締め、俯いて下唇を噛んでいた。

僅かに瞳が揺れ、涙が零れないよう堪えている。


心の中の強い気持ちに振り回され、まるで言葉に出来ない不安に押し潰されているかのよう。


こんな瑠璃を見るのは、いったい何時以来だろうか。


俺が怪我をした時?


剣道を諦めた時?

いや、その時は大泣きしていたっけ。


おじさんに怒られた時?


お転婆が過ぎて、おばさんに怒られた時?

いや、違う。


祐也が、俺と同じ道場で剣道を始めた時だ。


あの時は確か・・・。


散々ゴネて、『真の隣にいるのは私だもんっ!!』って泣いたんだっけ・・・。



・・・懐かしいな。



思えば、瑠璃はずっと俺の隣に居たんだよな。


お互いの家がご近所で。

両親同士も幼馴染で友達で。

俺たちも小さい頃から一緒に居て。

一緒に遊んで、ご飯を食べて、昼寝をして。

幼稚園も小学校も一緒。

でも、小さい頃の瑠璃は元気でお転婆で、男の子とでも平気で喧嘩してたんだよな。

背が伸びるのも早くて、足も速くて、俺は置いて行かれそうだった。

でも、瑠璃は隣に居てくれた。

ずっとずっと、隣に居てくれた。


俺が、『瑠璃が離れるかもっ』て不安な時でも、変わらず一緒だった。


そうか・・・。


俺はずっと瑠璃と一緒で、ずっと瑠璃を見てたんだ。

そして、瑠璃はずっと俺と一緒で、ずっと俺を見ていたんだな。


瑠璃は、『俺が左手の自由を失ったから』一緒に居るんじゃないんだ。


俺と同じで、『ただ一緒に居たい』んだ。


ただ自然に、俺と瑠璃は一緒に居て良いんだ。


そう思えれば、ハムスターと化した瑠璃の不満も、少しだけ理解出来る。


いや、俺には実感としてあったじゃないか。

瑠璃が『告白』の呼び出しを貰った時に感じる、もやもやした感じ。

今の瑠璃の心にあるのは、あの不安なんだろうな。

いつも、『断ったわよ?』と、事も無げに言ってくれる安心感。

俺は、瑠璃にそんな安心感をあげてないんだな。


だから・・・。


俺は少し膝を折って、瑠璃を見上げる。

瑠璃の瞳が俺を見下ろし、唇を噛みしめている。


震える肩。

泣きそうな瞳。


・・・そうだね、不安だよね。

俺も、瑠璃が告白で居ない時は、このくらい不安だもの。


でもね・・・。


俺は少しだけ微笑みながら、瑠璃の髪に手を伸ばす。

柔らかく綺麗な髪。

左手に伝わる感触が優しい。

柔らかく、解けるような手触りが伝わって来る。

そのまま、少しだけ瑠璃の頭を撫でてあげる。

少しだけ、驚いたような表情を浮かべ、そしてまた元の様に不機嫌を纏ってしまう。


いや、不機嫌じゃないな。


『不安』だな。


日の光が強くなり、僅かに瑠璃の表情が見えにくくなるけれど、俺は気にしない。

大丈夫、瑠璃が見せてくれた弱さだもの。

絶対、振り払って見せる。

だって、俺は今、瑠璃だけのものだから。

だから、この笑顔も瑠璃だけに。


「瑠璃・・・。今日はお弁当とは別に、包みを持って貰ったよね?あれ、なんだと思う?」


少しだけ覗き込むように首を動かしながら、俺は瑠璃に問う。

瑠璃も少しだけ考えるようだけど、もちろん判る訳はない。

無言のまま、小さく首を振る。


うん、そうだよね。


「あれはね、俺・・・私が作った卵焼きなんだよ。瑠璃に食べて貰いたくって作ったの」

「・・・私に・・・?」


瑠璃の瞳に、驚きが広がる。

堪えていた涙が、瞳一杯に溢れそう。

そんな瞳を見つめながら、俺は目を細めて小さく頷く。


「今ね、料理を練習してるんだ。・・・まだ出来ない事ばかりだし、失敗も多いけど、でも瑠璃が食べてくれたら・・・って思ったら頑張れるんだよ。美味しく作りたいって、心の底から思えるんだよ」

「・・・」

「お・・・私はね?瑠璃が喜ぶ顔が見たい。瑠璃に『美味しいっ』て喜んで貰いたい。私の料理で、瑠璃に元気になって貰いたい・・・そう、願ってるの」

「私に・・・」

「そう。瑠璃に、だよ」

「・・・私・・・」


俺は大きく頷き、瑠璃に笑顔を返す。


不安そうな顔のまま、まだ涙目の瑠璃。


その頬を、俺は左手で軽く触れる。

柔らかく、ちょっともちっとした肌触り。

そういえば、この間は俺の頬を摘まんで遊んでいたな。

そんな事を思い出せば、自然と「ははっ」と笑いが零れた。


・・・自然に笑える。


いや、俺は笑えない訳じゃない。

笑顔も作れるし、楽しければ笑う。

でも、こんな風に誰かの前で自然に笑う事が出来るなんて・・・多分、瑠璃と祐也の前だけじゃないかな。

どこか負い目のある俺だけど、ふたりの・・・いや、家族の前では笑っていたい。


笑っていたい・・・。


小さな事かもしれないけど、きっとそれは大切な事。

笑う事が出来ないなんて、そんな苦しみは瑠璃には味わって欲しくない。

瑠璃の笑顔が、俺の隣にあれば・・・。


そして。


俺の笑顔が、瑠璃の隣にあれば・・・。


それだけで、俺たちは多分幸せなんだ。

だからこそ、瑠璃には笑っていて欲しい。

そんな思いを込めて、瑠璃の瞳を見つめる。

少しだけ目を細め、微笑みを返してくれる瑠璃。


そして・・・。


「ねえ、その卵焼き・・・。教室についてから食べちゃダメ?」


少しだけ微笑みながら、それでも真面目な口調で聞いてくる。


それが少しだけ可笑しくて、途轍もなく愛おしくて。


・・・こんな時くらい、正直に甘えて欲しいな・・・なんて思えてしまう。

お昼時に、皆にも見せてから食べて貰いたかったけど・・・。


俺は小さく笑いながら、


「ひとつだけだよ?」


そう告げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ