第十二話-1
休み明けの朝。
昨日の日中に降った雨の名残なのか、少し空気が湿っぽい。
学校へと続く坂道。その先にある山の緑が、朝日に照らされて濃く輝いている。
つい先頃までは、まだ葉の裏は白が勝っていた。一度風に吹かれれば、山の新葉たちは揃って白く棚引く雲の様に見えたもの。
それが今日になってみれば、緑の鮮やかさは光を弾くほどだし、風に靡く様はまるで白と緑のモザイク。
吹き下ろす風に運ばれる香りは、少しだけ強くなった様に思えた。
ひと呼吸ごとに、爽やかさが肺に広がっていく。
上空に雲は無く、天蓋は青く抜けるよう。山裾に薄く広がる靄のような雲だけが、僅かに日の光に陰りを落とす。
気持ちのいい日、とはこういう日の事を言うのかな?
それとも、そう感じる事が出来ているのか。
俺・・・私は瑠璃とふたり坂道を歩く。
連休明けで、久々に見る知人やクラスメイトの顔。
『変わりないな』と思う人も、『変わっちゃったな』と思う人も、どちらもいる。
その中には、『えっ?』と思うような変わり方をした人もいる。
それは・・・。
近く・・・というか、道路は挟んで反対側を歩いているクラスメイト。
元々ギャルっぽい恰好をしていた子だけど、久々に見れば・・・
栗色の長い髪は裾の方に向かって薄く脱色して、何カ所かに朱色が細く長く差し色で入っている。少し巻いていた髪も、パーマをあてたのかストレートに揃えている。
良く見れば、右サイドの髪は長いままだけど、左側は肩に届かない位で切り、耳も見える様に整えてある。
その耳にも、ピアスが何個か・・・。大きな丸いリングピアスが良く目立つ。
制服の上着はかなり大きめで、袖口からはブレスが見え隠れ。スカートは3つ折り?4つ折り?
でも、カーディガンを腰に巻いて、後ろから『見える』のは防いでいるようだ。
ネイルもしてるけど、これは意外と短め・・・と言うか普通の爪の長さ?あまりデコってはないようだけど・・・、何というか、典型的な『ギャル』だよね。
俺や瑠璃とは別の・・・ギャルっぽい子たちで集まってるグループの子。
綾香さん。
藤崎綾香。
あまり話した事は無いけど、大声で喋るではないし、笑うではないし。
どちらかと言えば、ギャルっぽいだけで普通の子かな?
・・・でも、確か実家がお好み焼き屋で、手伝いもしてるって・・・。
え?あのカッコで??
なんて考えながら見ていると、向こうも気が付いたのか、少し笑いながら手を振ってくれる。
俺も、ちょっと微笑みながら手を振り返したけど・・・。
その途端に、瑠璃の少し不機嫌そうな視線が飛んできた。
「・・・どうしたのよ」
「え?いや・・・あ、ほら、藤崎さんがギャルっぽさが増したなって思って・・・」
ちょっと苦笑いを浮かべながら、反対側を歩いている綾香さんの方を見る。
「え?そう??」と、不機嫌さを消しながら顔をそちらに向ける瑠璃。
・・・切り替え早いな・・・。
ふたり、目が合ったのか、手を振る綾香さん。
瑠璃は、両手が鞄とバッグで塞がっているから、小さく会釈をしたのみ。
ふたりとも、笑顔が可愛いなあ。
そんな考えが、俺を笑顔にする。
これが切っ掛けで、瑠璃と綾香さんが仲良くなれば良いのに。
・・・と思えたのも一瞬の事。
隣に居たはずの瑠璃の姿が、俺の視界から消える。
え?
今の今まで隣に居たのに??
反対側の綾香さんは、特に何事も無いように歩いて行く。
今の間に何が?
ドキリと心臓が跳ねる様に打ち、気持ちに焦りが生じる。
何があった?
瑠璃は?
目を、耳を、感覚に集中して瑠璃を探そうと動き始め、振り返り掛けたが・・・。
瑠璃は、俺の3歩ほど後ろに立ち止まっていた。
・・・ハムスターの様に頬を膨らませて・・・。
「・・・瑠璃・・・なにしてるの?」
「・・・」
答えてくれない。
正直、こういうのがとっても困る。
瑠璃は、不機嫌な時でもちゃんと『不機嫌ですっ!』って行動を取るし、ある程度は言葉にしてくれるんだけど、今回のこれは何??
何か不満でもあるのかな?
それとも、俺が何かやったの?
あ、お弁当?
いつもなら俺のお弁当だけだけど、今日はもうひとつ包みを持って貰ったから?
それとも、その中身の事を「内緒だよ?」って教えなかったから?
・・・あれは、お昼にみんなで・・・。
いや、多分違うな。
そもそも教えたらサプライズにならないのもあるけど、瑠璃ならその場で食べたがるから教えなかったんだし。
それに気付かれたのかな?
それとも、久々の学校に気分が乗らないとか?
・・・なんだろ、判んないや・・・。
首筋に、汗が流れるような感覚がある。
少しだけ、喉に引っ掛かり・・・乾くような、嫌なベトつきのような・・・そんな違和感が走り、不安感が頭を擡げてくる・・・。
でも、俺は瑠璃に向かって足を進める。
「・・・瑠璃?」
「・・・」
相変わらず、ハムスターになったままの瑠璃は動かない。
「・・・瑠璃ってば・・・」
もう1歩近づいたあたりで、瑠璃が俺をキッっとした目で射貫く。
そして・・・
「真のえっちっ!浮気者っ!!」
大きな声ではないし、俺にだけ聞こえるような声だけど、はっきりと言い切る。
・・・え?何?
嫉妬なの?
「え?・・・な、なんで・・・」
「藤崎さん見てデレちゃうし、手なんか振っちゃって・・・」
え?手を振るのって浮気なの??
いや、そもそもデレてないけど?




