第十話-2
涙で潤んだ瞳に、驚きの色が踊る。
その愛らしい口元を震わせながら、何かを伝えてくれようとするも、声にならない。
きっと言葉に出来ない感情が、心の中を掻き乱すのだろう。
必死に『声にしたい』と願うその姿。
然して親しくもなく、お互いの事などそう多くを知らないはずなのに、今の彼女の心の中にある嵐の強さだけは判る。
昔、俺が剣道を始めた頃に感じた、瑠璃との心の距離の正体。
その正体を言葉にすることが出来ず、苦しみ悩んだ記憶。
整理のつかない感情に振り回される焦燥感。
胸が閊え、湧き出す言葉が気持ちに沿わず、齟齬を感じるもどかしさ。
表現しようにも、正体の見えない不安感。
ただ気持ちが焦り、不快な気持ちだけが膨らみ続ける苛立ち。
彼女の中にあるのは、きっとそんな理不尽に対する・・・そして、その理不尽を言葉にする語彙を持たない自分への怒り。
もしそれが臨界を超えれば・・・。
自分への侮蔑。
情けなさや悔しさに、心が押し潰されそうになる。
どこかで誤魔化しても、絶対にその気持ちは戻ってくる。
何度でも、何度でも。
明確に、その気持ちに言葉で『形』を与えられるまで、何度でも戻ってくる。
それでも・・・。
気持ちから目を逸らす事は出来る。
何かの切っ掛けがあれば、『今は』気持ちを見ないように出来る。
俺にとって、それは『真に認められた』事だった。
『祐也って凄いなっ!あっという間に上達してさ。俺、うかうかしてたら追い抜かれちゃうよ』
真は覚えてないだろうけど、俺の気持ちがどれだけ軽くなったか・・・。
あれからだな。
真と仲良くなれたのは。
瑠璃の事を、あまり気にしなくて済むようになったのは。
だから、今は。
「ありがとう、秋山さん」
俺は笑顔で、もう一度彼女に感謝を伝える。




