表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/62

第八話-5

空を見上げ、軽く息を吐く。


楽しい・・・か。


今、俺は『楽しい』と感じられる事があるのだろうか。


趣味らしい趣味も無く、毎日を学校と勉強と、後は瑠璃と一緒に過ごす。それが終わり、ひとりになった時、俺は何をしているのだろう。


ぼんやりと本を読んだり、スマホを触ったり、少しゲームをしたり・・・か。


その中に、自分の成長に繋がる事はあるんだろうか。


バイトでもなんでも、出来る事が増えるって事は、自分の成長が見えるって事なのかな。

何かひとつでも出来る事が増えれば、それは自信に繋がって行くんだろう。

そして出来る事が増え、他の人からの信用や信頼が得られれば、それは大きな成功体験として次に繋がって行く。いや、ひとつひとつの小さな成功の積み重ねと、それを認めて貰える事が、自分と言うものを形作る土台になるのではないか。


もちろん、彼女が言う様に、嫌な事だって起こるだろうけれど、それだって長い目で見れば良い経験なのかもしれない。


今の俺に足りないもの・・・。


それは自信。


それがあれば、もっと瑠璃とも向き合えるだろう。


瑠璃に、『告白呼び出しになんて行かないでくれ』と言えるのだろうに。

そんな事をぼんやりと考えていると、後ろから声が掛かる。


「お待たせ・・・って、どうしたの?随分と神妙な顔しちゃって」

「・・・えっ?あぁ、瑠璃・・・ううん、何でもないよ」

「そう・・・?何か考え事か、憂い事でもあるようだったけど?」


・・・誤魔化しは効かないか。


まあ幼稚園の頃から一緒だし、俺の左腕の怪我の頃からはほぼ付きっ切りのようなものだ。そのせいか、お互いに中々隠し事は出来なくなってる。


もちろん、全てではない。


お互い気付かれないようにしている事はあるだろうし、少なくとも俺はある。

自分の気持ちは、瑠璃には気付かれないようにしないと・・・。


そう思ってはいる、いるけれど・・・。


瑠璃の顔を見たら、安心して気が抜けたのだろうか。


「瑠璃を呼び出した人と、どんな話をしたのか・・・気になってただけだよ」


思わず、本音が出てしまった。

しまったっと思った時には、もう遅い。言葉になって表れてしまったものを、消す事なんて出来ない。

こんなの、まるで瑠璃の事を縛っているみたいじゃないか・・・。


『気持ち悪い』とでも思われるだろうか・・・。


嫌われてしまうんじゃないか?


距離を取られてしまうんじゃないか?


そんな不安が、俺の心の中に沸き上がる。

同時に先ほどの『瑠璃を手放したくない』って執着に似た感情も、その鎌首を擡げたように感じ、動悸が激しくなり、胃のあたりに違和感が現れる。


ああ、瑠璃。お願いだ、俺の傍に居てくれ。


俺を見放さないでくれ。俺には、お前が必要なんだ。


お前が居ない人生なんて、何の意味も見いだせないんだ。


お願いだ・・・。


お願い・・・。


息が詰まり、喉が干上がる・・・。


お願いだからっ!!


目の前が回るような感覚が込み上げて来て、蹲り、胸を掻きむしりたい衝動に駆られる。


恐ろしい。


拒絶されるのが怖い。


俺の前から瑠璃が居なくなる時が、もうそこまで来ていると感じるだけで、これ程に心が壊れそうになるなんて・・・。


ああ・・・。



「告白なら断ったわよ。・・・言ったでしょ?今は彼氏なんていらないし、誰かと付き合うなんて考えてないもの」


事も無げな様子で、瑠璃はあっさりと言い切る。


確かに、今までだってそうだった。


でも、これからもそうだとは言い切れない。


相手の熱意が、瑠璃の想像以上なら?


相手がアイドルのような容姿であったら?


性格的に合いそうな人や、瑠璃が興味を持っている人に告白されたら?


そんな考えが頭から離れない。

ぐるぐると、頭の中を掻き毟るかのように、否定しても否定しても、何度でも沸き上がってくる。


何度も何度も・・・。


それに、相手に関係なく、俺から離れる事だって有りうる。

今回みたいに、瑠璃に干渉するような事を言って・・・。幸い、今回は気にしないでくれたみたいだけど、次もそうだとは限らない。


『気持ち悪い』と思われたが最後。もう、瑠璃の隣には居られなくなってしまう。


そんなの・・・。そんなのは・・・嫌だ・・・。


気が付けば、俺は泣いていた。


拳を握りしめながら涙を流していた。

大粒の涙が、ぽろぽろと零れ落ち、止める術が無かった。

まるで、小さな子供が知らない場所で、心細く悲しむように涙を零していた。


『瑠璃に嫌われたくない』


ただ、それだけが心の底からの沸き上がり、涙を溢れさせていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ