第八話-4
柚葉ちゃんは友達だ。大事な友達。
その子が、何か判らないけど不安を抱えているなら、力になってあげたいと願う。
だから、微笑みつつも少し真面目な顔と声で、
「柚葉ちゃんが可愛いのは、いつもの事でしょ?友達になった時から・・・ううん、その前から、ずっと可愛いなって思ってるよ。・・・だからね、何か・・・柚葉ちゃんに困った事があるなら、力になってあげたい。柚葉ちゃんの可愛さが、曇って欲しくないからね」
そう告げて、愛らしい瞳をしっかりと見つめる。
長い睫が大きく跳ね、大きな瞳をさらに大きく見開く柚葉ちゃん。
頬が赤いのは、メイクで使ったチークのせいか、それとも照れているのか。
ふたり見つめ合ったまま、少し時間が過ぎる。
ややあって、柚葉ちゃんの口元が震えだし、少し小さな声で・・・震えたような声で、笑いだした。
「あ・・・あははっ!も、もう、真ちゃんったら、揶揄っちゃダメだよ。・・・普段の真ちゃんと、キャラが違いすぎだってっ!もう、びっくりしちゃうよ・・・」
「・・・」
「・・・本当に大丈夫だよ?不安な事なんて、何もないよ?」
「・・・」
俺は優しく見つめながらも、柚葉ちゃんから目を逸らさない。
けれど、俺は彼女を追い詰めたい訳じゃないし、怖がらせたい訳じゃない。
ただ、不安があるなら力になりたいだけだ。
だから、少し微笑んでから彼女から離れた。
「驚かせちゃったならごめんね。・・・少し、いつもの柚葉ちゃんらしくない感じだったから心配しちゃったの。・・・何も無いなら良いの。ごめんね」
「・・・うん」
少しだけ目を逸らし、頬を染めながら大きく息を吐く。
まだ落ち着かないのか、胸に手を当てて何度か細かく息を継ぎ、最後に2回大きく息を吐く。
俯いた顔を上げ、空を見上げる柚葉ちゃん。
もうそこに、憂いの影はない。
いつもの可愛らしい笑顔の似合う彼女が、そこには居た。
柱から数歩離れて、空に向かって大きく伸びをする。
「・・・ん~~~っ!!」
腕を大きく上げて、胸を張り背を伸ばす姿は、なんというか猫のような可愛らしさ。
しなやかな肢体が長く伸ばし、両の腕を広げる様子は、柳のような柔らかさを感じさせる。
スラリとしたその身体。・・・胸がもう少しあれば、本当に完璧なのにと思ってしまう。
・・・こういう感性は、まだ俺が男である事を残してるんだと思う。
声には出さないけどね。
軽やかな足取りで、昇降口の階段を下り、そして改めて俺の前まで駆けて来る。まるで跳ねる様に。
ふわりと舞うスカートや制服の裾よりも、彼女のサラリとした髪が跳ね、風に揺らめく様子に目を奪われる。
そしてその柔らかな笑顔を向けられた。
ふふっと笑う柚葉ちゃんは、もういつもの明るい彼女に戻っている。
そして、「そろそろバイト行くねっ」とくるりと振り向きながら告げ、そのまま階段を降り始める。
「うん、頑張って」と、離れていく背中に声を掛けると、少しだけ振り向いて、軽く手を振ってくれる。
彼女が階段を降り、校門に向かい始めた時、その背中にもう一度だけ声を掛ける。
「ねえ、柚葉ちゃんっ。バイトは楽しい?」
一瞬、振り返った柚葉ちゃんの顔に影が見えた気がした。
でも、それも気のせいかと思うほどに、彼女の笑顔は明るい。
大きく頷き、その良く通る綺麗な声で、
「楽しいよっ!出来る事が増えるのって、すっごく楽しいっ!・・・そりゃ、嫌な事も無い訳じゃないけど、それ以上に楽しい事がいっぱいだよっ」
そう言って、大きな笑顔を見せてくれる。
俺の方を向いたまま、数歩軽やかにバックステップをすると、くるりと1回転ターン。
そして大きく手を振って、「またねっ!」と声を残して走り出した。
校門を出て坂を下り始めれば、もう姿は見えなくなる。
またね、柚葉ちゃん。
彼女の背を見送り、また柱に凭れ掛かる俺。




