第八話-6
それほど長い時ではないけれど、ひとしきり泣いた後、顔を上げると瑠璃は優しく微笑んでくれる。
そして俺の左手を取り、その胸に押抱いて、まるで大切な宝物に触れる様に、優しく撫でてくれた。
愛おしそうに、何度も何度も繰り返し、その柔らかな指で。
「この左手が・・・私を守ってくれた証だよね。・・・お転婆で、喧嘩っぱやくて、がさつで全然女の子らしくなかった私を・・・守ってくれた・・・大事にしてくれた」
そして薬指と小指を、その両の手に包み、祈るかの様に額に押し当て、申し訳なさそうに、俯き、力無く呟く。
「でも、そのせいで・・・この手は力を失くしてしまった。真の好きな剣道だって・・・。竹刀が握れなくなったのも、私のせい。だから、私は真の力になりたいの」
そして、改めて俺の目をまっすぐに見ながら続ける。
俺の答えなど、聞くまでもないと言わんばかりに・・・。
「真が再び前に進む時まで、私には彼氏も何もいらない。真が女の子になって困る事があるなら、私が解決する力になる。私に出来る事は、何でも協力してあげる。だから・・・」
瑠璃の真っ黒な瞳が潤み、俺の瞳を映す。
きっと俺の瞳にも、瑠璃の瞳が映っているのだろう。
「今は、お互いがお互いを必要としてる、と思うの。・・・お願い、私を頼って・・・」
肩を震わせている俺を見ながら、瑠璃の瞳にも涙が浮かんでいた。
お互いがお互いを・・・。
俺には瑠璃が。
瑠璃には俺が。
今だけでも良いから、この関係が続いて欲しい。
俺と瑠璃を幼馴染で居させて欲しい。
お願いだから・・・。
それを望ませて・・・。
「・・・うん」
俺は、それだけ答えるのが精いっぱいだった。
瑠璃に嫌われてない。
瑠璃が去らない。そして、力になってくれる。
それだけで、嬉しくて堪らなくなった。
もう一度、涙が溢れて来る。
今度は悲しみや後悔の涙じゃない。
嬉しさの涙だ。
見れば、瑠璃も同じように涙を流している。
ふたり、笑いながら泣いていた。
そして・・・。
「あ、でも、俺・・・じゃなくて私っていう事。そこはちゃんと女の子らしくしないとダメよ?」
「・・・はい」
ふたりで涙を流しながら、約束をした。




