第六話-4
顔を上げて、柚葉ちゃんの肩越しに見えたのは、見慣れたスクーター。
前篭にカバンを無造作に突っ込み、学生服のままヘルメットを被ったその人が跨っている。
ヘルメットが僅かに動いたかと思えば、速度を落として、俺たちのすぐ隣にその足を止める。
エンジンの音が軽く響く中、バイザー越しに見える顔。
祐也。
俺と瑠璃の幼馴染の祐也だった。
軽く手をあげてバイザーを開くと、その切れ長の目を細めて笑いかけて来る。
「やっ!おはよう、まこ・・・織部さん。それに北条さんと・・・秋山さん、だっけか?どしたの?こんな道端で?」
「祐也・・・。あ、うん、おはよう」
「ふう、おはよう。・・・相変わらず、変なタイミングで現れるわね、あんた」
ははっと、軽く笑うけれど、今現れてくれたのはとてもありがたい。
祐也が来てくれたおかげで、少し俺たちの周りの空気が和らいだように感じたのだから。
ちらりと、柚葉ちゃんの方を見る祐也。
それが合図かのように、いつもの明るい声に戻る柚葉ちゃん。
「おはよう、如月くん。いや、あたしが余計な事言っちゃって、なんか微妙な空気になっちゃってさ・・・」
あははと頬に手を当て、些か気まずそうに困り眉で答える。
でも、その声は張りを取り戻し、ぎこちなくも笑顔を見せてくれる。
あははと笑い返す祐也。
「え、なに?もしかして、恋バナでもしてた?あははっそりゃ余計かも。・・・だって、こいつら・・・」
「祐也っ!」
祐也の言葉を遮るように、瑠璃が声をあげる。
それはまるで、聞かれたくない事を遮るかのように。
相変わらず、祐也に対しては不機嫌を隠そうとしない瑠璃。
人前では見せない苛立ったような表情も、少し怒気を含んだような声も、柚葉ちゃんには馴染みが無い事だろう。
少し驚いたような顔をしている。
そんな柚葉ちゃんを気にするような素振りもなく、祐也に言い放つ。
「私、排気ガスの匂いって嫌いなの。話をするならエンジン止めて。エンジン止めないなら、先に学校行ってよ。私たちは後から行くから」
やれやれ・・・。
やっぱり仲悪いのかな、このふたり。・・・というか、瑠璃が一方的に祐也を嫌ってるのか・・・。
『悪い悪い』と声を残して、祐也はスクーターで先に学校に向かってしまう。
ちょっとだけ手をあげて、挨拶をして・・・。
その後ろ姿を見送って、改めて柚葉ちゃんに告げる。
「さっきの事だけど・・・柚葉ちゃんは悪くないよ。私たちに気のある人がいるのを、教えてくれただけだもんね。まあ、付き合ったり、彼氏がーって話にはならないから、今後はそれとなく断っておいてくれると助かるかな?」
「そうね。柚葉はいろいろ話し好きなのだから、私たちが彼氏欲しがってないって話を流しておいてくれると助かるわね」
柚葉ちゃんは困ったような顔をしていたけれど、納得してくれたのか、
「・・・そっかー・・・。それなら仕方ないね。繋ぎ頼まれたら、その都度話しておくよ」
それだけ言うと、また元のような明るい笑顔に戻る。
良かれと思った事が逆効果、なんてことはどこの世界でもある事だけど、色恋でもあるんだね。
いや、もしかしたら色恋での方が多いのかもしれない。
恋愛観なんて人それぞれ。
『付き合ってみなければ、どんな人か判らない』って人もいれば、『告白なんて好意の確認よ?お互いの事を知ってるから付き合える』って人もいるんじゃないかな。
今日の柚葉ちゃんと俺たちの行き違いだって、そこが根底なんだと思う。
だからこそ、柚はちゃんとは誤解を解いておきたかった。
・・・それだけ・・・うん、それだけ。
「さ、行こうよ。ホームルームが始まっちゃうよーっ!」
柚葉ちゃんの明るい笑顔と声が、輝く太陽に溶けて降り注ぐ。




