第六話-2
「えっ!?」
思わず大きな声が出るけれど、心底驚いてしまっている。
確かに今は女の子になっているけれど、俺は元々男なんだ。
瑠璃が手伝ってくれてメイクや髪型は綺麗にしているけれど、それはモテたいからじゃなくて、瑠璃の近くに居てもおかしくない恰好をしたいだけ。
彼氏が欲しいとか、そういう事は考えたこともない。
でも、事情を知らない人からすれば、『ただの可愛い女の子』というのが今の俺だ。
メイクも髪型も拘って、周囲に可愛いアピールしている柚葉ちゃんと、変わりなく見えているんだ。
可愛い子アピール・・・。
急に身震いがしてきた。
風が俺の体温を奪ったわけじゃない。
今、登校して来ている生徒のうち、男たちがみんな、俺を見ているように感じたからだ。
坂を上ってくる長身の生徒。近くを通り過ぎる生徒。少し離れた場所を歩く生徒。自転車で坂を上る生徒。友達と坂道ダッシュをする生徒・・・。
そのどれもこれもが、俺を見ている。それは・・・
奇異の目。
好奇の目。
性的対象として見ている目。
俺の視界に入る全ての男の目が俺を見ているように、全身を目で嬲られているような感覚に襲われた。
実際は違うと頭ではわかっているのに、心がその重さに耐えきれない。
『おいおい、女になった男がいるぜ?』
『元男の癖に良い身体してるじゃないか』
『可愛くなって男誘いたいのか?』
『元男って事で、相手にしてくれる奴も居ないんだろ?押したらワンチャンあるんじゃないか?』
『おいおい、あれで元男かよ。メイクもばっちりして、彼氏漁りたいんじゃないのか?』
『可愛けりゃ元が男でもいいか。相手をしてくれる奴がいればありがたがるんじゃないか?』
・・・
違うのは判っているけれど、そんな事を考えていたら?と思うと、気分が悪くなる。心臓が激しく打ち、喉が干上がる感じがする。首の後ろあたりにジワリと脂汗が滲み、胃のあたりに違和感が出だす。
息苦しい感じもあり、思わずカバンの持ち手を握りしめてしまう。
・・・虫唾が走る、とはこういう状況なのだろうか。僅かに眉を顰め、俯いてしまう。
それでも柚葉ちゃんは止まらない。
「こないだもさ、『真ちゃん、紹介してよ』なんて言われてね。もう二つ返事でOKしようかと思ったけど、流石に真ちゃんの意思も尊重しないとって思って保留にしてるの。何人か紹介できるけど、ど・・・」
どうもこうもない。
そんなの嫌に決まってる。
紹介して、と言った人がどんな人なのか判らないけれど、会ってみたいとは全く思わない。
でも、断りの言葉が出て来ない。
声を出すのが、これ程にも苦しく思えるなんて・・・。
絞り出そうにも、喉が震えるようで声にならない。
俯き、眉間に皺が寄るのが見えたのか、瑠璃が不機嫌そうに横から割って入った。拳を握り潰すかのように力を込め、言葉を吐く。
「柚葉っ!それくらいで辞めて!・・・真が困ってるじゃない。男の子を紹介するとか、真が嫌がるって、前に言ったでしょ?お願いだから辞めて!」
「えっ?・・・あ、ごめん。真ちゃん、可愛いから彼氏いないの不思議でさ。・・・つい、その、ごめんね」
いつもの笑顔が消え、目の座った瑠璃に睨まれたからか、柚葉ちゃんは驚いたような顔で俺に謝る。
・・・俺も些かの驚きがある。




