第六話-1
バスを降りて、学校への道を瑠璃とふたり並んで歩く。
俺が瑠璃を庇って左手の自由を失って以来・・・ううん、それよりも前からずっと、学校に行くときはふたり一緒。小学校の時も、中学になっても、高校生になった今でも、それは変わらない。
昔から、俺と瑠璃の関係は何も変わっていない。
ただひとつ・・・俺が女の子になってしまった事を除けば。
ぼんやりとする俺の目に、雲の帳を裂いた光が飛び込み、一瞬目を眩ませながら、左手を庇に薄く開いた片目で坂道を見上げる。そこは高校へと続く、静かな住宅街の坂道だ。
緩やかな広い一本道が、校門へ、そしてその先の山へを続いている。
視線を上げれば、坂の上に雲が固まり、その先には、眩しく輝く太陽。
まだ若い芽吹きの葉の緑が輝きに香りを添え、吹き下ろす風となってふたりの髪を揺らす。
いや、ふたりだけではない。
周りに居る、同じ高校の生徒たちの髪を、服をはためかせる。
あちらこちらで、髪を抑えたり、スカートの前後を抑えたりする姿が散見される。
幸い、スカートをそんなに折っていない俺たちは、被害に合わないで済んでいるけれど。
「もうっ!ここの吹き下ろす風って嫌いっ!」
俺たちのすぐ後ろから、そんな声が飛んできた。その声は、同じクラスの女の子、柚葉のもので、振り向けば彼女が三つ折りくらいのスカートを慌てて抑えている姿が目に入った。
「おはようっ、柚葉ちゃん。・・・大丈夫?」
「おはよっ・・・て、柚葉はスカート折り過ぎじゃない?短く見せれば可愛いってものでもないでしょうに」
吹き下ろす風に煽られて、スカートを抑えている柚葉ちゃん。
俺たちからすれば、この坂道は風の通り道なんだから、スカート捲れに気を付けるなど当たり前に思えるのだけれど、可愛いを優先すると捲れるんだろうなあ。
俺と瑠璃は、そんなにスカートを折らないから捲れないし、俺はカバンで、瑠璃はカバンとバッグ(二人分)で両側から押さえてる。
どちらかと言えば、風で足元が冷える方が困るんだよね。
そういえば、冬場に履いてたタイツは思った以上に良かったなあ。
そんな事を考えながら立ち止まっていると、柚葉ちゃんが並んで来る。
元々は瑠璃の友達だったんだけど、俺が女の子になった頃から一緒に居る事が増えた女の子。
瑠璃、柚葉、俺とあと数人が、今のクラスでよく集まってるグループ。
そのひとり。
さらりとした癖のない髪をサイドロングボブにして、制服もちょっと着崩している。スカートも短めで、ギャルっぽい感じも出してるけど、本人の顔だちが幼いためか、可愛らしい印象の女の子。
それが、この柚葉ちゃん。秋山柚葉。
「はー・・・瑠璃は判ってないなあ。普段から可愛い恰好で、あたしの良さをアピールする為にも、これくらいは必要なのよ?それに比べて・・・」
柚葉ちゃんがジト目で俺たちを見比べ、まるで値踏みするような視線を向けてきた。少し息を吐き、
「いつも思うけど、ふたりとも優等生っぽいよね。着崩したりとかしないし、スカートも長いままだし。そんなんじゃ、彼氏出来ないぞ?」と軽く笑った。
確か、最近も何人かから告白されたとかって、話しをしていたのを思い出す。
・・・可愛いアピールしているのであれば、その中から誰か選んだのだろうか?
とは言え、彼氏ねえ。
瑠璃はともかくとして、元々が男の俺に彼氏作れって言われても・・・。
それはいくら何でも無理なんじゃないだろうか?
「私は、別に彼氏なんて・・・」
「そっそうだよ、彼氏なんて・・・あはは、お・・・私は今は居なくても良いかな~・・・」
些か引き攣ったような笑みを浮かべつつ答える。正直、こういう話は困るんだよね。
柚葉ちゃんはニヤニヤと俺を見ながら、
「真ちゃんは奥手だなあ。結構何人も『真ちゃんっていいな』って言ってるのにさ」
なんて言ってくる。




