第二十六話-4
お互いの好きな事を、やりたい事を、想いを、全てではないにしても言葉に出来る。
好きな相手に『好きだ』と、面と向かってではなくても言える。
柚葉ちゃんも
碧さんも
瑠璃も
望んでいることを、形にしようとしている。
手を伸ばそうとしている。
ふと見れば、さっき繋いだ手を、瑠璃は離さないでいてくれている。
伝わってくる温もり。
思いやり。
いつもいつも、俺の隣にいてくれて
支えてくれて
今は一緒に笑ってくれて
あぁ・・・
「・・・大好きだよ、瑠璃」
言葉が、自然と溢れてしまう。
あまり力が入らない左手だけど、今だけは瑠璃の手をしっかりと握っている。
離さないように
離れないように
・・・誰にも渡さないように。
少しだけ目をあげて、横にいる瑠璃を見れば、真っ赤な顔のままで、口をパクパクとさせている。
・・・金魚みたいだな、なんて考えているうちに、耳まで真っ赤になっていく。
ゆっくりと、変わっていく瑠璃。
時間の進みが遅くなったかのように、周りの人が動いていく。
まるで、駆けていくかのように・・・。
早く・・・早く・・・。
手に伝わって来る力も熱も、強くなっていく。
それが、俺の心を溶かしていく。
もっと
もっと、瑠璃と一緒に。
これからも、ずっと・・・。
「おぉ~っ!真ちゃん、大胆~っ!!」
喜色を湛えた瞳を輝かせて、綾香さんが圧し掛かって来る。
胸が触れ合い、その柔らかさが伝わって来るほど。
綾香さんは気にしないかもしれないけど、俺は・・・。
ちょっと赤くなってると、
「ん~、可愛いね~っ!もっといろいろ言ってあげてよ~っ自慢の妹なんだから~」
まるで自分のことのように喜んでくれる。
というか、瑠璃のこと、もう『妹』で決まってるんだ・・・。
「良かったね~っ瑠璃?真ちゃんが大好きだって~っ!・・・もう照れてないで、お返事は?」
満面の笑みの綾香さんと違って、瑠璃は真っ赤な顔のまま震えている。
「ねぇ、お返事は?ねぇねぇ?」
あ。
涙目になりつつ、頬が膨らんできた。
・・・瑠璃が余裕無くしてる。
その頬を突っつく綾香さん。
あの、そろそろ・・・そのあたりで・・・と言おうとした瞬間に、
「うぅぅぅうるさいわねっ!!・・・大体、自分はどうなのよっ!人の恥ずかしい話ばかり聞いてないで、自分の話もしなさいよっ!!」
あ~ぁ・・・
瑠璃が爆発しちゃったよ。
あんまり追い込み過ぎると、瑠璃はキャパが低いんだから・・・。
でも、確かに綾香さん自身の話って気になるね。
「あ、うん。お・・・私も聞きたいかな?」
なので、そんな事を言ってみる。
・・・
なんで、話す前から綾香さんは顔真っ赤にしてるんです?
「え・・・えぇぇっ!?ないっ!ないからっ!・・・私、そんな話、全然ないしっ!」
思いっきり手を振りながら、全力で否定する。
真っ赤な顔で、全身震わせながら。
普段の綾香さんからは、想像もできないような慌て方。
ちょっと近寄り難くて、ツンってしてて、どこか距離があった綾香さん。
でも、実際は明るくて、人が大好きで、おせっかいなところもある、どこにでもいる女の子。
だから、こんな慌て方も、『普通』の事。
・・・そうだよね。
そう、納得し掛かったところで、
「え?こないだは、恵介に抱き着いてたじゃない?」
と、祐也。
・・・お前、そういうとこだぞ?
しかも、悪気ゼロで普通の顔して言うからタチが悪い。
せめて悪戯っぽい顔してやれよ・・・。
だから、綾香さんも目を見開き、噛みつきそうな顔で思いっきり振り向く。
多分、悲鳴なり大声なりあげたかったんだろうけど、もはや声も出ていない。
翻って瑠璃は・・・おもちゃを見つけた猫の様に目を爛々とさせている。
瑠璃・・・。
「え~?なになに?綾香お姉ちゃんも、好きな人いるんじゃないの~?」
「え?・・・いや、そ・・・好きってわけじゃ・・・」
綾香さん・・・。
「あれ?そうなんだ。幼馴染だって言ってたし、てっきり・・・」
柚葉ちゃん?
「あ、それは私も思いました。『幼馴染の両思い』って、定番だけど良いですよね?」
碧さん、小説とかと一緒にするのは、ちょっと・・・。
「小説じゃないですよ」
あ、そうなの?漫画か何か?
「えぇ、ボーイズラブって良いですよね」
碧さん!?
あんまり引っ掻き回すと、後で困るんじゃないの?
「でも、気になりますし。仲良しさんの恋バナって、成就してくれた方が嬉しいですしね」
そう言って、ニコリと笑う。
そこには、きっと善意しかないんだろう。
・・・ところで、恵介って?
「あぁ、俺の同級生でね。『加賀恵介』。カッコいいし、頭もいい。なかなか非の打ち所の無い奴だよ」
そっか。
ほとんど祐也のクラスに行かないから、俺知らなかったけど、それが綾香さんの想い人なんだね。
「・・・違うからっ!たっ・・・ただの幼馴染なんだからっ!!」
ちょっと怒ったような顔で、
「真ちゃんまで変な事言わないでよっ!・・・瑠璃じゃあるまいし」
「はぁあっ!?私のどこが変なのよっ!真の事が好きで、一途で、他に目もくれないだけじゃないっ!」
「それのどこが変なのよっ!私が言ってるのは、あなた自身の事よっ!このコミュ障ポンコツ娘っ!!」
「綾香お姉ちゃんだって、照れ隠しで暴れるようなポンコツじゃないっ!他人の事、言えないでしょっ!!」
「「がるるるるるるるっ!!」」
いつの間にか、俺の手を離して、綾香さんと正面から両手を掴み、力比べを始めている瑠璃。
・・・ほんとにもう・・・。
こんなの、他の人が見たらなんて言うか。
あれ?
気が付けば、校門の周りは俺たちだけ。
坂を上ってくる人も若干いるけれど、みんな駆け足だ。
なんだろう?
・・・あっ!
慌ててポケットからスマホを取り出し、画面を確認する。
やば・・・。
「大体っ!瑠璃に、恵介の良さが判る訳ないじゃないっ!私なんか、ちっちゃい頃から一緒だから、何でも知ってるのよ!?」
「はぁ?私だって、真とずっと一緒なのよ?背中に何個ホクロがあるかだって知ってるんだから」
あれ?瑠璃?何言ってるの??
「そんなの、私だってっ!恵介はねっ、鎖骨のところにアザがあるんだからっ!しかも、ハート型なんだからっ!」
綾香さんも、落ち着いて・・・。
大体、それよりも。
『キーンコーンカーンコーン・・・』
・・・ホームルーム前の予鈴だ。
みんなで顔を見合わせ、一斉にスマホで時間を確認する。
周りを見ても、全力で走ってる人がいるくらいだし、結構ヤバい。
「やっばっ!!みんな急ごうっ!」
「う・・・うん、そうだね」
「はい、急ぎましょうっ!」
祐也と柚葉ちゃん、それに碧さんは、すぐに駆け出す。
「ほら、瑠璃、綾香さん。お・・・私たちもいそ・・・」
ふたりは全然話を聞かず、まだ噛みつきあってる。
「あの、ふたりとも・・・遅刻」
その言葉に息を合わせたように振り向き、血走った眼を向けて来る。
まるで俺に噛みつくように。
そして、
「真はっ!」
「真ちゃんはっ!」
「「黙っててっ!!」」
俺は空を見上げてため息を吐く。
・・・遅刻だ。




