第二十七話-1
はぁ、とため息を吐く。
下駄箱の中にある封筒。
昨日もあった。
一昨日も。
・・・多分、文面は変わらない。
『今日の放課後、屋上でお待ちしています』だろう。
どこかに、ラブレターのテンプレってあるのかな?
・・・多分、あるんだろうな。
そして、それはきっと昔から変わらず、受け継がれてきたもの。
私は、『告白』とは無縁だからわからないけど。
・・・あぁ、『告白』する方とは無縁、ね。
少しだけ、封筒を握る手に力が入り、隅の方が皺になってしまう。
これで何度目なんだろう。
気をつけてはいるけれど、それでもつい力加減を誤ってしまう。
それは苛立ちなのか、己の不甲斐なさへの諦めなのか。
私自身への評価はひとまず置いて、封筒をバッグにしまうと、上履きに履き替えて教室に向かう。
今日はひとり。
もちろん、教室に行けば友達がいる。
お昼を一緒に食べる仲間がいる。
それは幸せな事なんだけど、でも隣が空いてると、それだけで不安が募る。
『瑠璃』
誰もいないはずの隣から、声が聞こえた気がする。
少し俯き、小さく息を吐く。
幻聴か・・・。
ほんの数日離れるだけなのに、私の心はどれだけ壊れやすいのよ。
・・・ううん。お互いの気持ちが判ったからこそ、寂しさが募るのよね。
あぁ、恋する乙女は、辛いわね・・・。
「瑠璃ってばっ!」
「うわぁぁぁあっ!!」
いつもは真がいる場所から、顔を近づけ耳元で声を掛ける人がいる。
驚いて見てみれば・・・、最近、何かと辛み・・・いや、絡みの多い綾香さん。
いつもと変わらず、どこか不機嫌な顔。
ちょっと眉間に皺を寄せ、腰に手を当てながら、前のめりに顔を近づける。
「ぼんやり歩いてると危ないって、何度も言ってるでしょ?・・・真ちゃんがいないと、すぐこれなんだから」
うっと言葉を詰まらせ、そのまま
「・・・ごめん」
小さく謝る。
本当なら、何かひと言くらいは反論もしたいのだけど、出来る材料が無ければ謝るしかない。
大体、昨日から何度言われただろうか。
気付かれないように、見えない角度で指折り数えてみる。
「これで8回目」
・・・数えてるのかよ。
「不安なのは判らないでもないけど、だからって怪我したら元も子もないじゃない?」
「うん」
それは、確かにそう。
「それに・・・」
綾香さんは言葉を続ける。
「昨日見てたら判ったわ。・・・瑠璃が元気ない理由」
え?
「まぁ、普段を考えれば、判りやすい理由よね・・・。今日は、元気が出る様にしてあげるから」
余計なお世話なんだけど?
そもそも、真がいなくて寂しいのに、他の理由なんてある訳ないじゃない。
何言ってるの?
でも・・・。
私の事を、心配してくれてると思えば、邪険に出来るわけもない。
だから
「・・・うん、ありがとう」
小さく、照れくさくてもお礼は言う。
・・・
でも結局、その『元気が出る何か』は判らないままお昼になった。
「柚葉、碧さん。お昼にしましょう」
真がいなくても、一緒にお昼を食べるのは変わらない。
今日は3人、机を囲んで・・・。
「あ、私もー」
・・・綾香さんも含め、4人で机を囲む。
何というか、学年でも可愛い女の子が4人、男っ気も無くお弁当って・・・。
「・・・不思議な感じがするわね」
小さく呟けば、他の3人が何事かと視線をくれる。
あまり気にしてないのかな?
「あ、うん。・・・私はともかく、柚葉も碧さんも、綾香さんだって、誰か男の子を一緒にお昼食べてても不思議じゃないのになって、思ったのよ」
「「「あ~・・・」」」
3人揃って、『言われてみれば』・・・なのかしら?
それとも、今は『恋よりも友情』なのかしら
・・・だとしたら、嬉しいけど・・・でも、ね。
「祐也くんって、お昼食べたら図書室に籠っちゃうから、一緒に食べられないんですよね」
ん?
「そうそう、図書委員の仕事もあるからって、お弁当食べちゃうのも早いし」
え?
「私たちより本が好きなのは・・・妬けちゃいます」
「ね~・・・」
あ~・・・そうなんだ。
「え~・・・如月くんって、そんななんだ。意外だな~」
早々とお弁当を開き、手早く箸を動かしている綾香さん。
・・・意外とは?
「如月くんって、結構色々見てるし、気が付く人じゃない?その人が、ふたりの気持ちに気が付いてないとも思えないんだけどな~」
ふむ。
「それに、こないだだって・・・」
あぁ、校門で話した時ね。
私たち、遅刻して怒られたけど。
「柚葉も碧さんも、気持ちは出してたじゃない?・・・『好き』までは言ってなかったけど」
そうね。
「・・・何かあるのかしらね」
なるほど。言われてみれば。
祐也は、あれはあれで、結構気が回るタイプだし、ひとの好意にはちゃんと答えるタイプなんだけどな・・・。
それは柚葉も碧さんも思うのか、やや難しい顔をしている。
少しだけ、箸が止まる。
余計な事を言ったと思ったのか、些かバツが悪そうな綾香さん。
そう大きなお弁当ではないけれど、ちょっと手が止まる。
「ごめん・・・。余計な事だよね」
少しだけ、寂しそうな顔を見せた。
・・・やだな、なんか空気が重い。
ここは・・・
「そうだ、綾香さん。・・・朝言ってた、私の『元気が出る何か』って何かな?・・・気になるんだけど、教えて?」
と、ちょっと可愛く、小首を傾げながら尋ねてみた。
・・・こういう時は、藁にだって縋るわよ。




